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    Ship_Canopus

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    Ship_Canopus

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    空トマ
    記憶喪失になるやつ

     最後に見たその人の顔は、とても辛そうで。
     けれど、彼を突き飛ばした手の先に「大丈夫だよ」と声をかけてあげるには、ダメージが大きすぎたようだった。体が痺れたように動かない。受け身を取る余裕もなく、地面に叩きつけられた。
     目の前の緑色の瞳がめいっぱい見開かれて、ぐしゃりと歪んだ。
     そんな悲しい顔をしないでよ。君には笑顔でいて欲しいんだ。
    「空!」
     俺の名前を呼ぶ■■■の悲痛な声を最後に、意識は暗転する。

     ――あれ、誰だっけ?



    「元凶の魔術師は倒した、出血している箇所はない、打撲傷は冷やした、あとは……」
     救急箱を布団の傍らに置いて、立ち上がってはうろうろと辺りを動き回る。それもつかの間、すぐさま布団の脇にしゃがみこんでは目を開かない空をじっと見つめてため息をつく。それを繰り返すトーマは誰の目から見ても冷静を欠いていた。
     無理もない。空がトーマをかばってアビスの攻撃を受けて丸二日、彼は目を覚ます様子を見せていないのだから。
    「なあトーマ、少しは休まないとお前まで倒れちゃうぞ?」
     そしてその間じゅう、トーマは眠ることなく少年の傍にいた。うっすらとクマの出来た顔には疲労の色が滲んでいる。パイモンが心配そうに休むように言っても、彼は首を横に振るだけだった。
    「オレが寝てる間に何かあったら困るだろ? 社奉行に連れてきたのも怪我をさせたのもオレだ、ちゃんと面倒は見てやらないと」
     当然のように責任を負う彼は、自分の体調を計算に入れていない。旅人の小さな相棒は空の一刻も早い回復を祈った。このままではまもなく二次被害が発生する。
     その祈りが届いたか。ぴくりと、空が身動ぎした。
    「旅人!」
     パイモンが目を輝かせて飛んでいく。ゆっくりと開かれた瞳の焦点が、ワンテンポ遅れて胸に飛び込んだ浮遊生物に合った。それから周囲に注意が向けられる。
    「パイモン、ここは……?」
     金色が混乱を示して揺れた。その顔を覗き込んで、トーマが眉を下げて微笑んだ。
    「ここは社奉行だ。体に不調はないか? 二日間も寝込んでたから心配してたんだ」
     空の胸の中でグズグズと鼻を鳴らすばかりのパイモンに変わって、トーマが説明する。道理で、と稲妻特有の布団の端を持ち上げて、空は納得したように頷いた。
     しかしそれでも、なぜか金色は落ち着きを取り戻さない。やはりまだ不調があるのかと手を伸ばせば、少年は布団を抱き寄せて身を引いた。
     それはあからさまな警戒。戸惑いを隠せず、トーマは空の顔を見る。伺った表情は硬かった。
    「えっと……ごめん、助けてくれてありがとう」
     彼の態度はどこか他人行儀で。脳内で警鐘が鳴り始める。
     しかし、寝不足で鈍った頭では、ワンテンポ遅かった。嫌な予感に任せて口を開く前に、空の戸惑った声が先を越す。
    「その、どこかで会ってたっけ?」
     ずぐり、と心の柔い所に何かが刺さる音がした。
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