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    Ship_Canopus

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    Ship_Canopus

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    HRH グレイくんとビリーくん
    ハッピーバレンタイン!

     今日はバレンタインデー。製菓会社の戦略は功を奏し、世はまさに大チョコレート時代と化していた。女性ヒーローもいるとはいえ、それでも基本は男所帯の【HELIOS】にも濃厚なチョコレートの香りが漂っていた。ヒーローを応援するファンからのチョコレートが大量に届いているからである。
     だが、それらには当然セキュリティ上のチェックが入る。毒の混入やプレゼントに見せかけた危険物などなど、ニューミリオンを守るために戦う彼らは手放しでプレゼントを受け取れる立場に無かった。
     というわけで、現在甘党のヒーローはこの甘い匂いの中お預けをくらっているのである。
    「チョコ食べたいな……」
     自室でぼやくは甘党ヒーローがひとり、グレイ。テレビ画面には『YOU DIED』の文字が浮かんでいた。
    「グレイってば、今日ずっとそう言ってるよネ」
     ベッドに寝転がりながら集中力を欠いたプレイを見ていたビリーがからかうように口を挟む。パトロールから帰って今まで、トレーニング中も甘い物を欲するつぶやきを漏らしていたのだ。
    「いつも行くお店が混んでたせいで糖分不足なんだもん」
    「バレンタイン当日にカップケーキ屋さんが空いてるわけないでしょ」
     それはそう、だけど。反論の余地をなくして、グレイが黙り込む。むうと唇をとがらせたままテレビに向き直り、カーソルを『CONTINUE』に合わせて、はたと動きが止まった。
    「ビリーくんは甘い物食べたくない?」
    「どしたの急に。食べたいケド」
     即答するあたり、こちらも甘党ヒーローである。
    「おやつ作ろうかなって」
     まだキッチンにココアとパンケーキミックスがあったはずだから、それで。チョコが食べられないなら実力行使、ということらしい。ちょっぴり挑発的に笑うグレイに「さんせ〜い!」と声を上げた。

    ****

     カシャシャシャシャ。リズミカルにホイッパーが動く。グレイに頼まれて牛乳と卵を混ぜているところだった。
    「ビリーくん、終わった?」
     バッチリ! やや疲れた右手を楽にさせてやりながら、左手でオッケーサインを出す。そこに徐々にココア混じりのホットケーキミックスを投入。あとはさっくり軽く、生地が良い感じになるまで混ぜる。それから温めておいたフライパンに生地投入。大きさは、まあ、2人で適当に切り分けるからいいか。フライパンサイズのホットケーキに、昔読んだ絵本を思い出す。
     気泡が出たらひっくり返して数分待つ。
    「ごめん、ガス止めて!」
     グレイはコンロから数歩離れたところでホイップクリーム作りに勤しんでいた。ビリーが代わりにガスを消す。そのままフォークを刺して焼き加減の確認。引き抜いたフォークの先端に生焼けの生地がついてくる、などということはない。
    「綺麗に焼けてるよ、グレイ!」
     鍋敷きを敷いて、テーブルに直接フライパンを置く。小皿も2枚、忘れずに。
    「クリームもできたよ」
     ナイフで大きなパンケーキを切り分ける。フォークでボウルから直接クリームを取って、いざ実食。
    「美味しい!」
     思わず声が揃った。
     外はしっかり焼けていて固めの歯触りなのに、中はしっとりフワフワの食感。ココアの苦味が効いたホットケーキと優しく甘いクリームが絶妙なバランスをしている。
     作ってるうちに結構いい時間になったし、テーブルには無骨な調理器具が並んでるけど、こんなバレンタインも悪くないかも。テーブルの向こうで目を細める友達を見て、そう思った。
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