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    Ship_Canopus

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    リハビリ
    アルハイゼンとカーヴェ

     時は夕暮れ、場所は酒場。まだ日があるというのに、室内は濃いアルコール臭と浮かれた雰囲気に満ち満ちている。その中で一人、この場に似つかわしくない仏頂面を貼り付けて、アルハイゼンは目の前の先輩が引っ提げてきた厄介ごとにどう対応するか頭を悩ませていた。
     相手は上機嫌な酒場の客を味方につけている。ボルテージマックスな場の空気も相まって、逃走は許されそうにない。いくら何でもただの酔っ払いを殴るのは気が引ける。というか単純に面倒臭い。
    「せっかくの祝賀会なんだ、こんな時くらいハメ外せ面白くないな!」
     既にかなりのアルコールが入っているカーヴェがさっきから吹っ掛けてくるのは飲み対決。客がその対決を望んでいるのは万年アルハイゼンのツケで飲んでいるカーヴェが「負けたら今までアルハイゼンにツケてた飲み代をすべて払う」と言い出したからだ。そんな大口叩いた常連が負けるところを酒飲み仲間が見たくないはずがない。困ったのはカーヴェに対する十割の悪意のはずが、今はアルハイゼンに向いていることだ。
     望んだ結果が得られないと観客はいらだち、それはすぐに怒りへと転じる。酒が入っているとこの推移はより早くなる。そろそろ時間切れだ。アルハイゼンは諦めて店主に軽く手を挙げた。
    「この店で一番強い酒をくれ」
     酒場が沸き立つ。カーヴェの煽るような笑みが若干ひきつっているのを見逃せず、小さなため息が漏れた。



    「君は、うえ、容赦がないな……あ待って吐きそう」
     支えていた肩を突き放し、道端でうずくまるカーヴェを遠巻きに見る。10メートルごとにこんな調子で立ち止まられるのだから家が遠くて仕方ない。だから飲み対決なんて無謀なことはしたくなかったんだと頭を振った。
    「本当に同じだけ飲んだよな? このワク、うわばみ」
     自分で始めたくせに何を。ぶつぶつ言っているのを聞き流し、しゃがみこんだまま動けなくなっているアホを立たせる。いきなり立ち上がると気持ち悪いとか何とか言ってるがこれだけ文句が言えれば十分元気だろう。
    「で、今日のは何のつもりだ」
    「英雄サマの祝賀会」
    「あとは?」
     残念なことに、アルハイゼンとカーヴェの付き合いは短くない。だからカーヴェはアルハイゼンの酒の強さを知っていたし、それにどう逆立ちしても勝てないことも知っていた。何か裏がある。見え透いた、お粗末な裏が。
    「砂漠の仕事の収入でしこたま飲みたかった、ってことにしといてくれ」
     ぱち、と珍しくアルハイゼンが驚きの表情を見せた。
    「払う気があったなら最初から俺にツケるな」
    「そんなこと一言も言ってないだろ、飲みたかっただけだよ! ああもう、君のそういうところ嫌いだ!」
     大声で嚙みついたと思ったら、それが響いたのか次の瞬間肩の重量が増す。この馬鹿にはさっさと帰ってさっさと水を飲ませた方がいい。
    「今度食事にでも行こう。俺も大建築家様の話が聞きたいからな」
     一段落ちたままの青い顔から「だからそういうところが嫌いなんだよ」ともう一度罵声が飛んできた。
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