たえて桜のなかりせば 天色の空に映える、薄桃の花を見上げる。風に揺られ、花弁が空を舞うその光景を月並みに美しいと思う。
「美しいな」
声の主へと視線を移せば、その白い肌の上を木漏れ日が揺蕩っていた。その人は己が視線を気にも留めず、花を愛で続けている。
「そうだな」
隣の彼にも聞こえるか解らぬ程、小さな声で呟いた。
ひらひらと光の粒のように、遠い空へ昇る花弁。その行き着く先は知れず。
美しいと思うと同時に、その花を想うことに哀しささえ覚えるのだ。
* * *
「あ、伊織くんとセイバーくんじゃない!」
山吹殿からの依頼で聞き込みのために吉原を歩いていた折、師匠と太夫に出会した。師匠から吉原にいる由を問われたので、軽く説明をすれば情報交換を持ちかけられ、立ち話もなんだからと茶屋で話すことになった。
6259