[弟子バロ]コーヒーの用意もなくはない午前七時四五分 自転車の鍵をポケットにねじ込んでカフェの扉を開けると、コーヒーの芳ばしいかおりがした。
近年は紅茶の国にも、美味いコーヒーを出す店が増えてきたという。亜双義自身は、特にコーヒーにも紅茶にもこだわりはない。検事局の向かいにも有名チェーンのカフェがあるため、少し離れたところにあるこの店では職場の人間にあまり遭遇しない……というのが、亜双義にとって利点のひとつだった。
しかし、このカフェには《常連》とも言うべき検事が他にもいるのである。
検事局の大多数の人間が、出勤前の朝食時に顔を合わせたくはないであろう男。亜双義にとっては、越えるべき相手と見定めている検事。
少し古めかしいデザインのスーツを着こなしたバロック・バンジークスは、今日も奥から二番目、壁際の席を陣取っていた。
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