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    ギギ@coinupippi

    ココイヌの壁打ち、練習用垢
    小説のつもり

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    ギギ@coinupippi

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    イヌピーが水商売をしようとする話。
    ココとは1度別離していている。
    触りの部分だけをとりあえず書いてみた。

    ずっと好きだった人と初めて体を重ねたその夜は夢見たいにぼんやりしていた。
    突然に訪れたそれに気持ちを伝える事も出来なかった。
    朝目覚めたらきっとこの想いを言うから。
    眠たくなって落ちる目蓋の最後に見たのは優しく慈しむような黒い瞳だった。
    目が覚めたら目の前に居ると思っていたのに、
    次の日にはその姿はどこにも見当たらなかった。
    その代わり、一枚の紙切れが置かれていた。
    よく見慣れた癖のある文字で「イヌピーごめん」とたった一言だけが書かれている。
    無駄に余った余白とボールペンの跡に躊躇いをのような色が見えた。
    たった紙切れ一枚のそれを指先でなぞっても何もわからない。
    昨夜の触れ合う肌の温度や、熱っぽく見つめてくる瞳から感じ取った気持ちは勘違いだったのか。
    若しくは自分の何かが悪かったのだろうか。
    どんなに考えても隣に彼が居ない事実は変わらない。
    膝を抱えて消えてしまった幼馴染みの事を思う。




    それから3年が経った。
    最初の一年は何度も何度も思い返しては辛くなって、会いたいと焦がれてばかりいた。
    二年目はなんでなんだろう、と理由を考えてはまた同じ日に戻って立ち止まっていた。
    そして三年目にはきっともう会えないのだろうな、と諦め始めていた。

    去年から友人と始めたバイク屋の仕事中、注文の品を受け取る為に街へ使いに出た帰り。
    空腹に胃を押さえながら飲食店から漂ってくる美味しそうな匂いから逃れようとビルとビルの狭間を抜けようとした時だった。
    ふいに肩を叩かれて振り向けば見覚えの無いヘラヘラと笑う男が立っていた。

    「お兄さんカッコ良いから声掛けたけど、ホストとかどう?抵抗あるなら軽めのメンキャバって手もあるよ。そっちのほうが時給制だし稼ぎやすいしどう?」

    こっちが何かを挟む余裕も無く矢継ぎ早に話し掛けられて何だコイツと訝しげな目で見ていると、こういう物ですと名刺を差し出された。
    スカウト会社という文字に男を見てみると傷んだ人工的な金髪と、着ているスーツはそれなにりに質の良い物なのだろうが着こなしのセンスが悪くて下品だなと思う。
    普段であればそんなものは無視する所だが、乾はその時とても金に困っていた。
    バイク屋の経営を始めたものの、中々軌道に乗せるまでが大変だった。
    開業準備だけでも何やかんやとあれこれと物入りで元々多くは無い貯金も直ぐに底をついた。
    それからは食費を削ったりしながらも色々出来る事はやってはいるが焼け石に水で、このままでは店どころじゃなくなりそうだった。
    そんなタイミングで声をかけられ、水商売なんて考えた事無かったなと思う。

    「俺、顔こんなんだし話しも上手くねぇけど」 

    自分の顔の火傷痕を指差して男に聞いてみると、火傷痕をチラリと見てからまたヘラヘラと胡散臭い笑顔を向けてきた。

    「大丈夫大丈夫。店内暗いからそんな目立たないし、気になるならメイクで隠せるし。お兄さんイケメンだから話し下手でもお客さんの女の子たちが勝手に話してくれるっしょ。俺こう見えて見る目あんの、俺がスカウトしてきた奴大体売れっ子になってるからお兄さんなら頑張れば月収300くらい行けるよ」

    こちらに深く考える余地を与えないようにこんなマシンガントークで責めてくるのだろうなと思う。
    言ってる事の殆どが頭に入って来なかったからはあ、と気のない返事をする。
    後半の数字は理解できたが流石にそんな稼げるわけが無いのは何となくわかる。

    「時給制だから出勤するだけでも金にはなるし悪くない話だと思うな」

    時給制、それならば働いた時間は金になるわけだし…と考える。
    普通の時間帯だとバイク屋の仕事があるから働けないし、夜ならばいくらか自由にもなる。

    「話だけでも聞いてってよ」

    どんなものなのか解らないし、とりあえず話だけならば聞いてみるか、と頷いて男の後に着いて行く。
    元いた道から一本外れた道を行くとごちゃごちゃとした繁華街と言われる街並みに入った。
    暗くなり始めた空と比例するように色とりどりの看板たちが光り出すと、灰色だった街が一気に明るく活気に満ち溢れていく。
    ここだと示されたビルはコンクリートで出来た雑居ビルで、それぞれの階に詰め込まれたみたいに店の名前が並んでいる。

    「ここが紹介したい店の一つね、一応面接は受けて貰うけどお兄さんなら普通に即採用だろうから」

    地下へ続く階段へと案内されてそれを降りていきながら話を聞くだけだったのでは?と思う。
    こういう仕事は少々強引なものなのだろう。怪しいと思ったら帰ればいいかと軽い気持ちで開かれたドアの中に入った。
    一気に雰囲気を変えるように照明が落とされた店内の入り口に黒服の店員が立っていてスカウトの男と二言三言交わすと乾の方をチラリと見ただけで直ぐに元の位置に戻った。
    ガンガンと鳴るうるさい音楽と薄暗い照明の中時折チカチカと揺れるシャンデリアの光。
    いくつも並んだソファ席には明るい髪のスーツ姿やブランド物の私服姿の男たちが座っている。
    その横には必ず1人か2人くらいの女が居た。
    彼等はうるさい音楽の中で顔を寄せ合って囁き合うように会話を楽しんだり、馬鹿騒ぎするみたいに酒を飲んでいた。
    会話もなくただ身を寄せ合うだけの男女の姿も見えて様々に楽しんでいるようだった。
    見た事の無い異様な光景についキョロキョロと辺りを見回してしまうが、こっちだとスカウトの男に店の奥に促される。
    PRIVATEと印字されたドアの前まで来ると男はコンコンとノックをしてからそのドアを開けた。
    とりあえずここまで来たわけだし男に着いてその中に入る。
    背後でドアが閉まるとうるさい音楽は微かに聞こえる程度になり、薄暗い照明から普通の明かりに目がしばしばとする。
    中に入ると数人のスーツ姿の男たちが居たがスカウトを見ると隣の自分へ視線を移し、上から下までジロジロ眺めてからへえ、いいじゃんと言った。
    値踏みされるような視線にこちらが眉を寄せると、直ぐに胡散臭い愛想笑いを浮かべてこんばんはと挨拶してくる。
    狭い室内をカーテンで仕切るようにしてある奥の方へ行くよう促される。
    こういう時つい室内の人数や立ち位置、それから出口の位置から逃走経路を考えてしまうのは昔からの癖みたいなものだ。
    小さめの簡易的な応接セットが置かれたスペースに座るように言われて背もたれや手置き部分が所々解れている革張りのソファに座った。ギシッと年季の入った音に軋む。
    煌びやかな店内の裏はこんなものなんだろうなと思う。
    目の前の黄ばんだ元は白かっであろうテーブルの上の灰皿は室内の煙草臭さを表すようにこんもり吸い殻で溢れている。
    一気に現実に引き戻されたようなその空間に来るんじゃ無かったかな、と少し後悔し始めた。
    スカウトの男が小さな冷蔵庫からペットボトルのお茶を差し出すとテーブルに用紙とボールペンを置く。

    「簡単に書いちゃって、学歴とは特別何も無きゃ書かなくてもいいよ」

    言われて目を通すと履歴書らしきものだった。
    話を聞くだけだった筈なのに面接を受ける前提になっている。
    気が弱い奴であれば流されてしまっていただろう。
    紙に目を通すと職歴の所に前歴、水商売歴、前に居た店等の項目がある。
    普通の履歴書とは違うものなんだなとペラペラの紙をテーブルに戻した。

    「身分証明ある?免許証とかでいいんだけど」

    「まだ俺、働くとは言ってねぇし」

    そうやすやすと免許証や個人の情報がわかるような物を差し出すわけがない。
    そう返すとスカウトはこちらの機嫌をそこねないようにかヘラヘラと笑ってだよね、お兄さん…と呼ばれたから乾だ、と名乗る。

    「乾くん、慎重派だね。賢い」

    どんだけ馬鹿だと思ってるんだコイツは、と呆れた気持ちになるが男はへこたれた様子も無く一応じゃあ店のシステム言うね、と数字の書かれた紙を取り出す。

    「基本時給が2000円なんだけど、ランクでこの時給変わるから。まあ乾くんのレベルなら3000円は約束する。あとはドリンク代食事代、や指名料、同伴料、で手当もついてくから〜。店は17時から0時までと朝の5時から昼の15時までに別れてるから好きな時間に働いてくれれば良いよ」

    シフト制だから週末に次週の予定貰って…と説明を受けながら頭の中で時給3000円なら6時間でも18000 円か…そこから雑費を引かれて…電卓を叩く。
    どうせ働けたとしても自分みたいな無愛想な奴はせいぜい1ヶ月かそこらでクビだろうなと踏んでそれでもその間これだけ貰えれば大分助かるよなと思う。
    しかしこういう仕事の裏等はあまり詳しくは無いし仕事の相棒であるドラケンに相談してから決めるか…と思ってから直ぐにいアイツは絶対反対するだろうな、考えているとさっきの店内のうるさい音楽が大きくなる。
    多分ドアが開いて誰かが出入りしたのだろうがカーテンの向こうの事は見えないし関係ない。
    気にせずに居たらおはようございます!と何処か緊張したような声音で挨拶する男たちの声がした。
    スカウトはカーテンの隙間からチラリとそちらを覗くとちょっと待ってて、偉い人来たわと小声で告げて立ち上がりカーテンの向こうへ消えてく。

    「はよっす、今面接来てるんですけどランクA〜Sいけると思うんですよね」

    等と話してるのが聞こえる。

    「見た目も雰囲気も良いんで、慣れればかなりイケると思いますよ。若しくはあっちのクラブの方でも良いかなと思ってんですけど」

    もしかして自分の事を言ってるんだとしたら過大評価も良い所だし、本人に聞こえるように言うか普通と思う。
    スマホをポケットから取り出して時間を確認すると20時をすぎている。
    今日は昼にカップラーメン一つ食べたきりだし、腹が減ったが今夜も安売りの大して上手くないカップラーメンしかない。
    ファストフード店のハンバーガーでも良いからカップラーメン以外のものを食べたいなと思う。
    貰ったペットボトルのお茶で空腹を紛らわせているとカーテンが開いた。

    「こんばんは、ここのオーナーの…」

    と男の声がして何か聞き覚えのある声に顔をあげた。目の前に現れたのは3年前に突然姿を消した男だった。
    口からお茶が少し零れたから袖で適当に拭うとこちらの顔を見て貼り付けた笑みが引き攣っているまま固まっている。

    「あ、やり逃げ野郎だ」

    つい口から出てしまうと、シャッとカーテンを閉じてから胸を押さえる仕草をして何度か深呼吸をしている。

    「え、え、ちょっと、待って。イヌピーだよな?イヌピーだ…」

    信じられないものを見るような目でこちらを見て何でこんなとこいんだよ!と小声で言いながら近付いてくる。
    こちらもこんな所で会うとは思ってなかったし物凄く驚いては居るが相手が狼狽え過ぎてて逆に冷静になってきた。
    最後に見た時とそんなに見た目は変わってないようだが、艶のある黒髪には白のメッシュが混じってて少し目の下に隈もあった。
    それでも何だかんだ元気そうだな、と思う。

    「あの、九井さん?」

    カーテンの向こう側からスカウトの声がする。
    オーナーが突然カーテンを締め切って面接者(予定)と引き篭もったらそりゃあ訝しむだろう。

    「…この件俺が預かるから、お前これで飯でも食ってスカウトまた行ってこい」

    カーテンの隙間からそんなやり取りをしながら万札を手渡しているのが見えた。
    そんな簡単に万札配れる程羽振りいいのか。確かに身なりも良い。
    上等であろうスーツを品よく着こなしているし身に付けている時計も高そうだ。

    「イヌピー、ちょっと来て」

    こちらが何かを返答する間もなく手首を掴まれたかと思うと、一瞬複雑そうな顔をした。
    何だと思っていたらその場を連れ出されていた。

    大した会話もなく腕を引かれて歩かされると、繁華街から程近いマンションの前にやってきた。
    オートロックを解除するとエレベーターに乗り込んで目的の階に到着するとそのまま部屋の前で立ち止まる。
    鍵を開けると中に入るように言われたから訳も解らないが相手は幼馴染みだしおかしな事にはならないだろうと入った。
    広めのワンルームは単身者用の作りをしていて、室内には物が殆ど無いせいか生活感もあまりない。
    シンプルなベージュのソファに座るよう促される。

    「何か飲む?酒しか無いけど…」

    キッチンから声をかけられてさっき貰ったお茶あるからと断った。
    グラスに炭酸水を注ぐとそれを持って少し間を空けて隣へ腰を降ろした。
    ふわりと香る香水の匂いが嗅ぎなれたものでは無いのに離れていた分の距離を感じる。

    「そんな何が入ってるかわかんねぇもの飲むなよ」

    「何か入ってんのか?」

    「いや俺の店でそんなんさせてねーけど」

    目の前に翳したペットボトルはコンビニやスーパーでもよく見掛けるものだ。
    薬なんてそう簡単に仕込めるものなのだろうか。

    「…何でイヌピーあんな所居るの?金に困ってるわけ?」

    そう聞かれて金には困っているがそれよりも今は気掛かりな事がある。
    胃のあたりを押さえながらなあ、と声を掛ければ身構えるようにこちらを見てくる。

    「俺すげー腹減ってんだけど」

    カップラーメン一つじゃ腹持ちも悪いし空腹のままじゃ何を話しても頭に入りそうも無い。
    はあと溜息を吐かれてその辺においてあった飲食店のメニュー表を手渡される。

    「好きなもん頼んでいいよ、俺の奢り」

    タダ飯なら有り難いと、遠慮なく頼む事にした。




    「街で声掛けられた。あのスカウトの奴に金稼げるって聞いたから話聞こうかと思ったんだけど」

    一緒にピザをツマミながら何であそこに居たのかを聞かれたから正直に答える。

    「アイツ、話聞くだけって言ったのに面接とか履歴書とか強引に進めて来やがって。あんなん押しに弱い奴は押し切られんだろうな」

    手についたピザソースを舐めるとティッシュの箱を手渡された。
    手と口を拭いながら久しぶりにまともな食事を食べたなと思うと満たされ腹を擦る。

    「イヌピー水商売とか経験あんの?」

    「いや、無いけど。金欲しいし怪しく無かったらいいかなと思って。そしたらココが現れた」

    これでも自分なりに驚いてはいたのだが、先に物凄く驚かれてしまったのでタイミングを逃した。
    まさかもう絶対に会える筈も無いと思っていた相手が目の前に居るのにはなかなか現実感も無いが。

    「メンキャバとかホストとかそういうの解る?イヌピーそもそもトーク力も無いじゃん」

    「俺もそう思ったから言ったんだけど、アイツが俺なら話せなくても女の方が何とかしてくれるみたいな事言ってた」

    聞かれたから言われたままを伝えるとこちらを見た後にイヌピー顔は良いからな…と呟かれた。
    顔は、とはなんだか失礼な言い草だなと思う。
    久しぶりに顔を合わせたのに他にもっと言う事は無いのか。

    「顔だけしか良くなかったから、やり逃げされたのか俺は」

    つい意地悪な事を言ってみれば、バッと顔を上げてそれは情けない顔をするからちょっとばかり気分が良い。

    「やり逃げって…そんな酷い事言うなよ…」

    傷ついたみたいな顔をしている目の前の男にむしろあの場合被害者面していいのはこちらではと思う。
    この三年間引きずり続けて諦めようと思い始めたら目の前に現れるなんて、タイミングが良いのか悪いのか解らない奴だ。

    「セックスして朝起きたら相手が居なくなってんのはやり逃げじゃねぇの?」

    悩んだ年月の分、ちょっとくらい仕返ししても良いだろう。
    更に攻め込んでみると言い返せないらしく、言葉に詰まった様子で先程から忙しなく動いている指先を視線を落とした。

    「そんなつもりじゃ無かったけど、そう言われても仕方ないよな…」

    この世の終わりみたいな顔してぶつぶつ何か言っている。
    こっちだってあの後自分が何か悪かったのかとかたくさん考えて悩んで泣いたんだし、これくらい言っても良いだろとは思ってる。
    けど、こんなあからさまに沈んだ顔をされるとあまり良い気はしない。

    「別に何か減ったわけじゃねぇし、俺もココも無事に生きてんだから良いよ」

    「…許して貰いたい訳じゃねぇから謝るつもりはねぇけど、軽い気持ちでお前の事抱いた訳じゃ無いから」

    息を吐き出すように言う。
    今更そんな事を言われてもな、と思わないでも無いがこうしてその顔をまた見れただけで安心してる自分も居るのは確かだった。
    これ以上いじめてやるのは可哀想かとこの辺でやめてやる事にした。

    「それで、話戻すけど金に困ってんの?」

    「今バイク屋やってんだよ、ドラケンと」

    簡単に説明しようとドラケンの名前を出すと思い出すまで暫し考えてから、…あの東卍のやつか、と言った。

    「そう、色々あって一緒にやる事になったんだけど。中々経営厳しいからな、ちょっと食うのに困ってる程度だけど」

    状況を掻い摘んで話してみると理解したのかと頷いている。
    自分よりもずっと頭の良い幼馴染みは少ない情報でも大凡の事は理解できるだろう。

    「イヌピーもちゃんと社会人やってんだな」

    「まあな」

    「…それでうちのスカウトに声かけられて今に至ると」

    話を聞きながら眉間を揉んでから九井は幾ら稼ぎたい?と聞いてくる。

    「来月に納品したやつの纏まった金入るし、その後も仕事はいくつか決まってるからとりあえず今月乗り切れるくらいの金があればいいかな」

    「わかった、ちょっと待ってて」

    手短に答えてから取り出したスマホで何処かに電話をし始める。
    それからとりあえず3持ってこいとかなにか指示をしているのが聞こえた。
    よくわからないからこちらも黙ってお茶で喉を潤していると、暫くしてインターホンが鳴り響く。
    立ち上がった九井がモニターを確認すると解除ボタンを押した。
    それから玄関の方向からノック音がする。
    九井がそちらに行くとお疲れ様です、と男の声におうと答えるだけの短い会話が聞こえた。
    部屋の中に戻ってくると目の前に厚みのある封筒を置いてくる。
    何なんだと訝しげにしていると見るように言われた。

    「それに三百万入ってる。当面それで足りるだろ」

    言われて封筒を手に取って中身を見ると万札がまとまって入っている。

    「…意味わかんねぇしこんなもん受け取れねぇよ」

    突き返そうとするが、その手を押し留められて金に困ってんだろ、と言われてしまう。
    それはそうなのだが、金を見つめながらもでもこれは自分の金じゃ無いし、受け取る理由も無い。
    やはり受け取る訳には行かないと九井の目の前に封筒を置く。

    「幼馴染を助けたいって普通の事だろ? 開業の祝い金って事でも良いからさ」

    宥めようとするココの態度に相変わらずだな、と思う。
    昔なら幼馴染みのしたいようして欲しいと思ってた。だから九井がそう言えばそうだと頷いてきた。
    逆も然り、いつも彼は自分のしたい事を尊重してくれていた。
    その度に負担を掛けてきたのが心苦しかった。
    だが今は何もかも状況が違う。
    そもそも自分の前から居なくなったのは彼の方なのだ。
    過去のしがらみも思いもそれは色々ある。
    だが自分を捨てたのはそちらの癖に、その言い分を聞いてやる義理は無い。

    「白々しい事言うなよ、お前に施されるくらいなら臓器でも売った方がマシだ」

    吐き捨てるよう言うと苦笑されてしまうのにムッとして睨みつける。
    同じ歳なのに自分だけが大人みたいな顔をしているのが嫌だった。
    そちらの世界には自分を入れてくれないみたいで寂しい気がしていた。

    「イヌピーのそういう気が強い所好きだけど、ここは折れてくれよ」

    今回は彼もなかなか折れてはくれないようで、封筒を再びこちらへ押し出してくる。
    こんな大金を電話一つで簡単に用意したり、上等なスーツを身に着けていたりそれから店のオーナーだなんて。
    自分の知ってる幼馴染はたった3年で居なくなってしまったんだなと目の前に居る人物を見つめる。
    顔はあまり変わらないと思ったが、こうして見るとこんなに目元はキツかっただろうか。
    いつも隣で肩を並べている時の顔、二人きりの時に見せる幼くなる表情。
    そういうものはもう見られないだろうか。柄にもなく感傷的になりそうになる。
    せっかくの再会もこんなんじゃ感動も何もあったもんじゃないなと思う。
    気持ちが通じ合ったからキスをして体を重ね合ったと思ったのに、朝になれば全てが居なくなっていた。
    紙切れ1枚だけ残して。
    それから探そうと思った事もあったが、変わってしまった電話番号や居なくなってしまったマンションに拒絶を感じどうにも出来なくなった。
    探そうとすると全然見つけられ無かったというのに、それが偶然声をかけられて着いていった店でこんな再会を果たすとは。
    何だか全ての状況がおかしくなって笑いたくなる。

    「イヌピー?」

    突然笑い出したものだから怪訝そうに見られるのは当然だろう。
    顔を覗き込まれて何で今は目の前に幼馴染みが居るのだろうなと思うとはは、と笑い声をあげてしまった。
    困惑の表情でこちらを見るのもまたおかしくて笑ってしまう。

    「…何でそんな笑ってんのかわかんねぇけど、キスしたくなるからあんまそういう顔すんなよ」

    「なんだ、ココ。3年で随分チャラくなったな」

    そう返すとそりゃ色々あったからな、と言いながらきまずそうに頭を掻いた。
    その色々が何なんだと思わないでも無いが、聞いた所であまり良い気もしなさそうでまあ良い。

    「じゃあこうしよう。この金を受け取る代わりにその分俺の店で働いてもらう。それなら相応の対価になるだろ」


    その提案に乗ったのは金が欲しかったからというより、これでまた彼との繋がりが持てるという気持からだった。
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    ギギ@coinupippi

    DONEココイヌだけどココは出て来ない。
    またモブが出張ってる。
    パフェに釣られてイヌピーがJKからココの恋愛相談を受ける話。
    逞しく生きる女の子が好き。
    特大パフェはちょっとだけしょっぱい。乾青宗はその日の夕方、ファミレスで大きなパフェを頬張っていた。地域密着型のローカルチェーンファミレスの限定メニュー。マロンとチョコのモンブランパフェは見た目のゴージャス感と、程良い甘さが若者を中心に人気だった。
     そのパフェの特大サイズは3人前程あり、いつかそれを1人で食べるのが小学生からの夢だった。しかし値段も3倍なので、中々簡単には手が出せない。もし青宗がそれを食べたいと口にすれば、幼馴染はポンと頼んでくれたかもしれない。そうなるのが嫌だったから青宗はそれを幼馴染の前では口にしなかった。
     幼馴染の九井一は、青宗が何気なく口にした些細な事も覚えているしそれを叶えてやろうとする。そうされると何だか青宗は微妙な気持ちになった。嬉しく無いわけでは無いのだが、そんなに与えられても返しきれない。積み重なって関係性が対等じゃなくなってしまう。恐らく九井自身はそんな事まるで気にして無いだろうが、一方的な行為は受け取る側をどんどん傲慢に駄目にしてしまうんじゃ無いかと思うのだ。
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