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    ギギ@coinupippi

    ココイヌの壁打ち、練習用垢
    小説のつもり

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    ギギ@coinupippi

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    イヌピーがアイドルになってココに枕営業しにいく話。
    書きたい所だけ書いた。続くはわからない。

    #ココイヌ
    cocoInu

    アイドルのイヌピーがココに枕営業しにいく話。 乾青宗18歳。アイドルとしてデビューを果たして半年。グループとしての知名度も順調に上がって来ている。メンバーはそれぞれドラマや歌にバラエティと着実に功績を残している。
     だがそれらは全て他のメンバー達の評価に依るものである。当の青宗といえばグループ内での人気は最下位。仕事だってメンバー達のついでに事務所が無理矢理捩じ込んでテレビや雑誌に出演したりする程度。
     原因は青宗自身にある。アイドルだというのに笑顔が作れない、愛想も悪い。ファンへの対応も塩対応。そんな青宗はアイドルの才能というものがまるで無い。それは本人も自覚する事である。
     そもそも青宗自身、アイドルになりたかった訳ではなかった。よくある姉が応募したら受かってしまった、というやつだった。
     小学生の頃に家が火災に見舞われ、その火事が原因で青宗は顔に大きな火傷を負っていた。そのせいか青宗は家に引きこもりがちになり、気付いたら全く笑わないようになっていた。
     会話だって家族と必要最低限にしか話さず、他人との接触も避けるように家という狭い世界だけで生きていく。そんな弟を心配し、姉が一計を案じたという事だ。
     写真を送ったら受かったと姉がはしゃいで報告して来た時に、当然青宗は嫌だと断った。
     だが普段穏やかで面倒見が良く誰からも好かれる姉がこの時ばかりはいつになく真剣に説得してきた。この先家族が居なくなったらどうやって生きていくのか。いつまでも面倒を見てはやれないのだ、それを考えたら手に職をつけた方が良いと熱弁を振るった。
     だとしても何もアイドルなんかじゃなくても、と思わないでも無かったが青宗が他に何か出来る事があるのかと言われたら答えに困ってしまう。
     そこを更にアイドルなら収入も高い(但し売れたら)、衣食住も保証される。普通の仕事みたいに資格も学歴も問われない。そう、青宗にピッタリ!と追撃された。
     確かに自分には何の取り柄も無い。かと言ってアイドルなんてものに慣れるのどうかはわからない。だとしても選択肢は余り多いわけでも無いし、ダメ元でやってみるか…と流されるように乾青宗はアイドルになったのだった。

     元々、大手事務所が手掛けるアイドルグループだから土台は何もかもしっかりと用意がされていた。有名なアイドルメーカーのプロデューサー、ヒット曲を生み出す作曲家に高名な作詞家。
     そして大手事務所の手厚いバックアップの元、デビューは華々しく話題にもなり知名度はそこそこ上がった。
     だが、順調だったのはそこまでである。青宗の火傷痕はプロの手によって特殊メイクで隠しているが、本人は自身の外見に無頓着な為自覚は無いがグループ内でもビジュアル担当という位置に居る。
     初見のファンは皆最初に乾青宗の顔から入り、そのまま通過して他のメンバーに落ち着くというのが通過儀礼みたいになりつつあった。
     ダンスも歌唱力も並、トーク力や空気を読む力は皆無。演技なんて素人以下の棒。正に乾青宗は顔以外にアイドルとして何の取り柄も無かった。そっくりなマネキンが立ってても気付かない、とまでファンの間でも言われる位だった。
     他のメンバーはそれぞれ、トーク力を身に着けて司会業やバラエティに引っ張りだこだったり、演技力がある者は海外で賞を獲ったり、歌唱力でソロデビューをする者も居た。
     青宗だって、何か得意な分野があれば…若しくはアイドルという職業に夢中になれれば頑張れたかもしれない。努力して才能を磨けたかもしれない。
     そうなれなかったのは、アイドルというものが結局青宗にはよくわからないままだったのだ。他のメンバーみたいにこの業界に憧れてだとか、芸能界で生き残りたいだとかそういう欲すら無かった。
     姉に言われるがままにアイドルになって、事務所の人間に御膳立てされて気付けばスポットライトの下で見世物になってい。そういう感覚が未だに抜けないのだ。
     その姉にしたって、最初こそ応援してるから!と口にしていたが久しぶりに実家に帰ってみれば母親と揃って他のメンバーのグッズを集めて居た。推し変なんて慣れっこの青宗だが、家族にまで興味を持たれない人間が他人から興味を集められる筈も無いと一人納得していた。もうそろそろ潮時なんだろうな、と。
     最初こそ雑誌だ、テレビだ、ネット配信だのと目まぐるしく仕事が入って来ていたが、今は忙しいメンバー達が不在の寮のマンシヨンの部屋に一人で暇を潰す日々である。
     家賃光熱費は掛からないが、仕事の無い青宗が貰えるのは最低限の基本給…という名のほぼお小遣いみたいな額だけだ。こんなんじゃ貯金もままならない。実家では無いだけでニートとそう変わらないなと思う。
     唯一続いてた雑誌の専属モデルの仕事も先日その雑誌が廃刊になるのが決定した所だ。アイドルになったせいで無駄に顔は売れたが、人気は無い。これで引退(という名のクビ)したって、元売れなかったアイドルの肩書きがついて回るのかと思うと先行きも考えるだけでうんざりしてしまう。
     そんなアイドルの才能が皆無な青宗の元へ、事務所から告げられた仕事はテレビでも雑誌でも無かった。


     乾青宗という少年を見た時は逸材を見つけた。100年に1人の逸材だ、この少年はスターになれる。上手く化ければ大金を生み出すドル箱だ。なんて思っていたプロデューサーもとうに匙を投げた。
     事務所側もあまりの青宗の惨状に持て余し、最早クビにするべきか…それなら卒業コンサートと銘打って最後くらい稼がせて欲しい等という意見も出ている。
     そんな風に大人たちが思っていた所に、大口スポンサーがつくかも知れないチャンスが舞い込んだ。
     そのスポンサーになる相手を上手く接待出来れば、かなりの金が動く事になるかもしれない。そんな話を取り付けてきたのは青宗が所属するアイドルグループのチーフマネージャーだった。酒の席でそれとなく自社のアイドルグループに良い仕事が無いか、と周囲に話まくったのが功を奏したらしい。それなら、とある会社のCMキャラクターを募集しているようだから話を通しておこう、と飲み仲間のフリーの音楽ライターだか誰だかが言い出し実現したのだ。
     しかし、当然無料で仕事が回って来る筈は無い。まずはそのCMのオーディションを受けなければならない。と言っても、そんなものはコネを多く使ったものが選ばれる出来レースといった所だろう。
     そうなる為にはCMを打つ会社側にメリットを与え、尚且つ気分良くさせなければならない。ここから先は大人の汚い世界の話だ。
     何も芸能界に限った事では無い。商談相手を「特別」な「接待」をするなんてどこの業界でも行われている事である。それが表立って口に出来ない事で、世間的には許されない事だとしてもこういう場合には暗黙のルールというものが適用されるのだ。そしてそれが上手くいけば、互いに利益となる。その為に人身御供、生贄になる存在は必ず居るものだ。
     
     その接待相手となるのが、今急成長中のアパレル会社の若手社長。
     ティーン向けの小さなショップから人気が出始め、それから年齢層の幅を広げ徐々に店舗を増やし今では日本だけではなく海外にまで進出をしている大注目のブランドの社長である。
     そんなアパレルブランドのCMに出演出来れば、タレントのイメージ価値も上がり更に大きな仕事に繋がる。上手くいけば専属契約だって取れるかもしれない。それに捩じ込むとすれば俳優としても評価を得ているメンバーにするか、と話はどんどん進んでいった。
     そう、全ては件のアパレル会社の若手社長のご機嫌を取れればの話ではある。つまり「特別」な「接待」を成功させるという事だ。
     こういうのは通例として売り出し前のタレントの卵を宛てがうか、それとも知名度のあるタレントを送り込むべきか…迷った挙句、抜擢されたのは顔だけはグループの中でダントツに良い青宗だった。
     腐っても一応名前と顔はそこそこ知れてるアイドルである。どうせクビにするなら最後に役に立って貰えばいい。それなりに青宗には金も労力も掛かったのだから、それを取り返させて貰おう。
     等と言う上層部の判断で決定してしまったのだった。



     「社長の機嫌を損ねないようにしろ、これはお前への最後通牒だ。この仕事さえ取れればお前だってグループの役に立てるんだぞ。わざわざお前を選んでやったんだから感謝しても良いぐらいなんだ」

     後部座席に座る青宗へ、サブマネージャーである男が偉そうに言い放つ。本来は未だ新人でタレントを受け持つような立場に無い男であったが、人手不足からアイドルグループのサブマネージャーに格上げされた事から勘違いして調子に乗っている典型的なタイプだ。
     学歴は高いものの、社会経験は乏しくプライドも高い。入社動機も大手事務所なら泊がつくしあわよくば有名人とお近付きになれたり、あの美人女優やあのグラビアアイドルとあれこれ出来るかもしれない。そんな不純な希望を持って入社してみたら配属されたのは男性アイドルグループでがっかりしていた。
     一応、売れてる他のメンバーには腰低く接しているが乾青宗という男はグループのお荷物で、クビ寸前の雑魚だ。遜る必要も無い、とこの有り様である。
     本来は気が短く、気に要らないと喧嘩を売り手も足も出すタイプの青宗であるが自分の立場を思えばこういう舐めた態度を取られても仕方ないのだろうなとぼんやり思う。
     身長だって体格だって青宗の方がこのサブマネージャーより勝っている。喧嘩になれば負ける気は無いが、今は何もする気になれない。アイドルやそれに関わる全てに無気力状態の青宗からしてみれば、こんな男がどんな口を聞こうが如何でも良いのだ。
     半ばもう辞めたい、と思っていたアイドル業であったがクビになる前に多少なりともグループの役に立てるのであればという思いでこの仕事を引き受けた。
     
     「それで、俺は何してくれば良いんだ?」

     引き受けてはみたものの、青宗は何しに行くのかまるで解っていなかった。
     接待をしろ、とは言われたがその「特別」な接待とは何をすれば良いのだろうか。
     特別だなんて言うくらいだから、恐らく普通に酒注いで胡散臭い褒め言葉を言ってカラオケでタンバリンを叩くなんて事では無さそうだ。
     わからなかったから素直に聞いてみれば、呆れた様子で睨まれた。

     「あのさぁ!子供じゃないんだからわかるでしょ。枕して来いって事、枕営業だよっ。お前なんて顔しか価値無いんだから」

     あまりにも面倒臭そうに言われたものだから、それ以上青宗は聞き返す事が出来なかった。
     流石にこれ以上この青宗の前でだけ態度が悪くなる調子に乗った男の顔を見て殴らない自信も無かったからだ。



     九井一は23歳という年齢にして成功者である。
     子供の頃から数字は得意で、衣服にも興味があった。中学生頃には株取引の仕組みを理解し、父親の名義で貯めたお年玉を元手に株の世界に足を踏み入れた。
     そこから現在まで、大凡九井の思い通りに人生は順調に進んでいっている。アパレル会社を立ち上げたのは高校生の頃で、当時から高校生社長だなんだと話題になり大きな挫折をする事も無くやって来られたのは運なんかではない。九井の手腕である。
     幼い頃に既に大人や周囲の子供の顔色を読む術を身に着け、両親でさえ意のままに動かした。早々に「金」の持つ力を理解したし、それに依って人間がどう歪んでいくのかも知っていた。
     そしてこの世界で上手く生き残るにはそこそこの財と地位を持つ事も必要だと悟った。それら全て事細かに計算し、どの年齢でどこまで行くかも考え尽してきた。人間の感情を読む事も、自分が誰にどう求められているかも知っている。
     この世界の全てを操れるなんて微塵も思わないが、自分を取り巻く範囲の出来事であればどう動けば思い通りに事が進むのかコントロールするぐらいは出来るのだ。
     勿論内心でそんな事を考えているなんて奥日にも出さず、表向きは爽やかな好青年の若手実業家の仮面を被っている。
     もう2、3年辺りで相応の相手を見繕い結婚して家庭を築けば社会的信用も強くなるだろう。候補はもういくつか絞り込んである。地位のある人間は殆ど恋愛結婚等しないし、政略結婚なんて当たり前の世界だ。
     それに九井に取ってはどんな人間も大抵思い通りに動くゲームの駒のような物でしか無い。愛だの恋だの、そんな感情は必要無いし感じた事も無かった。
     その代わり、誰の事も信用しないし誰にも本心は明かさないで生きてきた。そういう生活が性に合ってると思うし、これから先もそう有りたいと思う。

     去年辺り、付き合いの飲みの席でそろそろテレビCMを打ちたいと軽く話を振れば面白いくらいに色んな人間が食い付いて来た。うちのタレントはどうだ、今売り出し中のアーティストとのコラボは、オリンピックのメダリストなんか良いんじゃないか、等々誰もが九井の会社のCMの仕事を取りたがってきた。
     その中で、今後の付き合いやブランド戦略的にも間違い無いだろうという事務所を選んだ。タレントは余程のケチさえついていなければ、ブランドコンセプトに如何ようにも合わせられるし誰でも良い。
     形ばかりのオーディションはやる事になっているが、選ぶのはその事務所のタレントになる。何処もかしかもオーディションなんてものは出来レース前提のようなものだ。
     そうなってくると、必ず持ち上がるのが「接待」の話である。九井は本来、他人と酒を飲んだり食事をするのは好きでは無い。だが仕事に必要であればと、会食も付き合いの飲みにも顔を出す。それだけだ。
     だから今回の接待なんていうのも断りたかった。今までにも起用したモデルやタレントと寝たり付き合ったりした事はある。その方が仕事がスムーズに行くからだ。
     決して自分から進んで接待を受けた事は無い。出来る事なら断ってしまいたい。しかしここで断ってしまうと、仲介人や相手側との先々の付き合いに支障が出るかもしれない。
     互いに腹の探り合いと程々に手の内を見せ合う為にも接待を受け入れてしまった方が良い。
     面倒なのと時間の無駄が嫌いな九井は、それならば今回は飲みや食事は抜きにして欲しいと最短でのそれを口にすれば仲介の男は心得ているとこのホテルの部屋を用意した。
     都内の三ッ星ホテルの高層階のスイート。夜景が売りの一晩で3桁に近い数十万程度の部屋だ。

     「夜景は良いんだけどな…アイドルとか興味ねぇし」

     大きなガラス窓の前でキラキラと宝石みたいに明滅している景色を眺めながら溜息混じりに呟いた。
     顔の綺麗な、今人気のアイドルを用意すると言われては居るがイマイチ乗り気になれない。外見が綺麗な人間なんて、この業界では普通の事でスタート地点に立つ資格程度のものだ。
     若い人気アイドルを一晩好きに出来るなんて聞いて喜ぶ者も多いのだろうが九井には興味も無い。仕事としての商品価値や職業柄流行はチェックするのが常ではあるから、旬のアイドルやタレントには詳しくはあるが個人的な興味なんてまるでない。
     適当に酒でも飲ませてさっさとベッドでやる事やって、小遣いでも握らせて帰らせれば良いだけだ。何とかそう思い直し、仕事モードに頭を切り替えた所でホテルのドアがノックされた。

     「こんばんは、どうぞ入って」

     ドアを開けて外向きの笑顔を浮かべながら部屋に招き入れようと促せば、目の前に立っていたのは自分と同じかそれより少し高い背丈の男だった。
     てっきり女が来るものだと思ってはいたが、こういう世界では綺麗な若い男がそういう役割をするのも珍しくは無い。顔には出さず笑顔のまま見れば、ペコリと一応会釈だけはした男はスッと静かに室内に足を踏み入れた。

     (えーと、確かアイドルグループの…乾青宗、だったか)

     そこそこに知名度はあるアイドルグループのメンバーである事を顔を見て思い出した。
     綺麗な顔とスタイルの良さで以前は結構、雑誌やファッション関係のショーに出演していたがここ最近ではめっきり姿を見なくなっていた。
     あまりに愛想もトーク力も無く、使いどころが難しいタイプなのは見れば解った。

     「何か飲む?酒…は未成年だからやめとくか。好きなもの頼んでいいよ」

     「別に、何でもいい…です」

     取ってつけたような語尾に敬語なんて使い慣れて無いのが窺い知れる。
     それにしても、噂通りに顔は綺麗だが無愛想である。他人の些細な表情も読み取るのが得意な九井ですら何を考えてるのか読み難い無表情だ。
     こんなんでもアイドルやれんの?と、少し妙な興味が湧いてくる。

     「それで、そのでっかい荷物は何?」

     乾青宗が肩から掛けているかなりの大きさの黒いポリエステル素材のバッグ。そんな大きなサイズの物を持って来られたら何なのか気にはなる。
     かと言って、別に無理に聞くつもりも無く一度断られたらそれ以上聞く気は無かった。

     「これは、枕営業の道具が入ってる」

     顔色一つ変えずにハッキリとそんな事を言ってくる。
     確かに目的はそうなのだろう事はお互いに解っている筈。にしても、そんな直球で枕営業とか普通口にするだろうか。
     枕は所謂、ベッドでの性行為を表わす隠語…今では世間一般の人間でも知ってるくらい隠れていない隠語ではあるが。
     それに営業という単語がつけば、丸っきり仕事で抱かれにきましたと言っているようなものだ。そこは解ってても隠すのがマナー、というか雰囲気作りというものでは無いのだろうか。
     しかも道具って、一体何なんのだろうか。
     
     「俺、そんな道具使うとかハードなやつ興味無いし、性癖もノーマルなんだけど…」

     普通で良いという旨をやんわり伝えたつもりであったが、それが相手に通じているのか居ないのか相変わらずの無表情だから読めない。
     顔立ちは本当に整っていて綺麗だし、色素の薄さが儚げで見た目だけなら絵になる男だがそれと中身が乖離している。
     いや、人形ぽさという面ではむしろ合っているのかもしれないが人間にしては反応が少し無機質過ぎてアイドルらしくは無い。

     「これは絶対気持ち良いし、一度使ったらハマるから大丈夫だ、です」

     語尾は怪しいが自棄に自信満々に言ってくるモノだから、そんなに凄い道具なのか?一体どんなやつなんだろう、と少しばかり気になってくる。

     「シャワーは俺は済ませたけど、どうする?」

     相手からしても仕事の為に仕方なく、という所だろうがこちらとしてもさっさと終わらせてしまいたい。この男相手では雑談すら盛り上がりそうにないから、雰囲気作りも如何でもいい。事を進めてしまおうとこちらから切り出した。

     「俺も入ってくる」

     短くそう答えるとバッグを肩から掛けたままそのままバスルームの方へ歩いていった。
     バッグをわざわざ持ち込む程だから余程大切な物が入っているのだろう。
     あんな何も感じなさそうな無機質な顔をしながらマイ道具を所持する程の経験者、というのが意外である。
     そういえば、招き入れておいて今更ではあるが九井は男との経験は実は無かった。だから正直なところ勃つだろうか、という懸念はある。
    まあそれはそれで、調子が悪いだとか酒のせいだとか適当に言い訳して事務所には上手く誤魔化しとくからと帰らせれば良いだろう。


     待ってる間、ただ突っ立っているのもおかしいかとベッドに腰掛けて膝を組んだ。流れるシャワーの音を聞きながら、こういう時って男は期待で高揚したりしてるもんなんだろうな。
     と他人事のように思いながら着ているガウンの裾をヒラヒラと手の中で弄ぶ。ふわあと欠伸を漏らしながら癖一つない真っ黒な髪を掻き上げた。
     時刻は22時前。明日は何時起きだったか、あと何時間寝れるかと考える。寝不足は思考が鈍って良くない。
     ぼんやりしているとシャワーから出て来た青宗は、半乾きの金色の髪を揺らしながらこちらへ近付いて来る。その姿を見て、九井は思わずえ、と小さく声を洩らした。

     「なあ、その格好って…」

     「家から持ってきた自前のパジャマだ。これじゃないと落ち着いて寝れないから」

     「ああ、そうなんだ…」

     備え付けのバスローブやガウンを着てもっとこう色気のある雰囲気になるものじゃないのか、普通。
     なんで、そんな着古したスウェットを持って来てるんだ、コイツは…と他人の機微には敏感な方の九井でも流石にこの男の行動が読めなすぎて一瞬呆気に取られた。

     (芸能人って変わりもんが多いし、世間知らずも多いからな…)

     そんなものだろう、と思い直してはは、と取ってつけたような愛想笑いを浮かべたが青宗の方は眉一つ動かさない。
     九井の反応なんてまるで気にしてない様子で、ベッドに、近付いて来る。例の道具が入ってるバッグを手にしながら。
     そこから一体どんな道具が出てくるんだ…と気付かれない程度に構えていた九井の目の前。取り出されたのは2つの枕。

     「ん?枕…?」

     何故この場面で枕が登場したのだろうか。ホテルのベッドにも4つほど感触の違う枕やクッションが置かれているというのに。
     何でこの男はバッグから枕を取り出したのだろうか。

     「これは、俺のお勧めの枕達だ。硬めが良いならこっち、ふかふかが良いならこっちだな」

     「は、はぁ…?」

     ポンポンと枕を叩くその姿にコイツもしかしてふざけてんの?と思うが、無表情な為に判断が難しい。
     巫山戯てるどころか心なしか得意気にすら見えてくる。

     「まさか枕営業って、枕売りに来たとかじゃないよな?」

     九井もペースに呑まれまいと、軽いジョークで返すと何故だかやれやれみたいな雰囲気を出される。

     「俺も流石にそこまでガキじゃねぇ。やる事はわかってる。」

     未成年とはいえ、確か青宗は18歳だ。幾ら何でもそこまで初心なわけは無いだろう。こういった事もきっと初めてでも無いのだろうし。

     「あんた何か疲れた顔してるし、今日は特別にこの高級ふかふか枕貸してやる。」

     九井の顔を覗き込んでからそう言うと、ホテルの備え付けの枕を雑にベッドから叩き落とした。そして持参したふかふからしい枕をそこに置くと、その横に硬め枕を並べた。
     
     「そこに寝てみてくれ」

     枕を指差してそこに寝ろと指示をされる。これは、つまり押し倒されるよりも積極的に上に乗っかってくるタイプなのだろうか。無表情だが気は強そうな雰囲気はあるし、主導権は握りたい方なのかもしれない。
     それなら動かなくて良いしまあ楽か、と考えて承諾して枕に仰向けに寝そべる。
     確かに枕はふかふかと柔らかく頭を包み込んでくれている。
     そう思っていると直ぐに青宗も九井の隣に寝転んで来た。

     「え、お前も寝んの?」

     思わずそう聞いてしまったが、おもむろに九井の右手が温かい手に包み込まれた。

     「寝るまで手握っててやるからな」

     自分の体温よりも少し温かくて、少し指先が硬い手が九井の手を優しく握り込んで来たのだ。
     これは、一体どういう展開なのだろうか。戸惑ってるこちらの事などお構いなしに青宗はそのまま長い睫毛を伏せるように目を閉じる。
     そして1分もしない内にくーかーと寝息を立て始めたのだった。
     あまりに予想外に継ぐ予想外の展開に呆気に取られて暫くそのまま固まっていたが、どうやら隣の男はガチ寝している様子。

     「は、はあ?」

     あまりに訳が解らない状況に頭が追いつかない九井であったが、握られた手の温度や穏やかな寝息に気付いたら目蓋が重たくなっていた。
     そしてそのまま誘われるように眠りに落ちてしまったのだった。枕はふかふかで心地良かった。
     

     思っていた展開とまるで違った事が起きたが、九井はその日久しぶりに目覚めが良かった。
     こんなに深く入眠したのはいつぶりか。況して隣にあまりよく知らない他人が居てなんて、初めてかもしれない。
     隣では未だに穏やかな寝息を立てて眠っている乾青宗が居る。

    (なんだコイツ、変な奴)

     そう思うが、何だかこの展開が可笑しくなってきて笑ってしまう。
     これは意図的に枕営業を回避した訳では無いだろう。それならこんなに無防備に寝たりしないで、九井が寝た時点でこっそり帰っているだろう。
     無愛想で言葉遣いも良いとは言えないのに。枕営業の意味も恐らくよく知らないで、枕を持参してくるなんてどんな思考回路をしているのか。
     起きてる時よりも余程人間らしく、幼く見える寝顔を見つめた。

     (まあ、顔は嫌いじゃないかな)

     美人は職業柄、毎日のように見ているがこの顔は結構好きな方かもしれないなと思う。
     前髪に隠れた白い額をそっと撫でると、ふと何か質感が違うのに気付く。

     「アイドルにも色々あんだろうな」

     何かを察したように前髪を元に戻すと、九井は静かにベッドを後にした。




     青宗は目を覚してから見覚えの無い部屋に一瞬焦り、ここはどこだ!と飛び起きた。
     それから直ぐにここはホテルの部屋で、と思い出し隣を見るも誰も居ない。サイドボードに置き手紙があるのが見える。
     九井は仕事があるから先に出るがゆっくりしていい、ルームサービスも好きに頼んでくれ、あと枕気持ち良かったといった旨が書いてある。
     やはり青宗秘蔵のこの枕は気持ち良いだろう、と少し得意気な気持ちになった。

     「ところで、枕営業ってこんなんで良かったのか?」

     正解が何なのかイマイチわからない青宗であった。







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    ギギ@coinupippi

    DONEココイヌだけどココは出て来ない。
    またモブが出張ってる。
    パフェに釣られてイヌピーがJKからココの恋愛相談を受ける話。
    逞しく生きる女の子が好き。
    特大パフェはちょっとだけしょっぱい。乾青宗はその日の夕方、ファミレスで大きなパフェを頬張っていた。地域密着型のローカルチェーンファミレスの限定メニュー。マロンとチョコのモンブランパフェは見た目のゴージャス感と、程良い甘さが若者を中心に人気だった。
     そのパフェの特大サイズは3人前程あり、いつかそれを1人で食べるのが小学生からの夢だった。しかし値段も3倍なので、中々簡単には手が出せない。もし青宗がそれを食べたいと口にすれば、幼馴染はポンと頼んでくれたかもしれない。そうなるのが嫌だったから青宗はそれを幼馴染の前では口にしなかった。
     幼馴染の九井一は、青宗が何気なく口にした些細な事も覚えているしそれを叶えてやろうとする。そうされると何だか青宗は微妙な気持ちになった。嬉しく無いわけでは無いのだが、そんなに与えられても返しきれない。積み重なって関係性が対等じゃなくなってしまう。恐らく九井自身はそんな事まるで気にして無いだろうが、一方的な行為は受け取る側をどんどん傲慢に駄目にしてしまうんじゃ無いかと思うのだ。
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     そのパフェの特大サイズは3人前程あり、いつかそれを1人で食べるのが小学生からの夢だった。しかし値段も3倍なので、中々簡単には手が出せない。もし青宗がそれを食べたいと口にすれば、幼馴染はポンと頼んでくれたかもしれない。そうなるのが嫌だったから青宗はそれを幼馴染の前では口にしなかった。
     幼馴染の九井一は、青宗が何気なく口にした些細な事も覚えているしそれを叶えてやろうとする。そうされると何だか青宗は微妙な気持ちになった。嬉しく無いわけでは無いのだが、そんなに与えられても返しきれない。積み重なって関係性が対等じゃなくなってしまう。恐らく九井自身はそんな事まるで気にして無いだろうが、一方的な行為は受け取る側をどんどん傲慢に駄目にしてしまうんじゃ無いかと思うのだ。
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