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    性癖の煮こごり倉庫

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    POIPOI 22

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    テツとモブ ときどき黒猫 その2
    モブ視点 テツは添えるだけです

    その1はこちら
    https://poipiku.com/3272345/9731615.htm

    昨日はほんとに落ち着かなかった。
    近くの別荘地で火事が起こったとかで、深夜になるまでヘリコプターの音が聞こえていた。
    うちは山に入る手前でコンビニもどきな雑貨屋を営んでいて、閉店は夜九時としているけれど、雑誌の記者みたいなのとかテレビ局の団体みたいなのとかがひっきりなしにやってきて、結局店を閉めたのは十時を軽く過ぎていた。そこからレジの金額をあわせ、翌日の発注をチェックして、布団に入ったのが十二時……。店の開店時刻は朝六時だけどその前に準備するアレコレを、と考えていたらなかなか寝つけなかった。

    わたしの塞いだ気持ちに反して今朝の天気は快晴だった。
    着替えてから店のシャッターを開けて外の掃除をはじめる。山沿いだから枯葉が風に飛ばされてよく店先に溜まるのだ。
    大きく伸びをしてから箒でざかざかと枯葉を集めていると、耳馴染みのない走行音が聞こえてきた。
    道路側に目をやると見たことのない大きな車が、店の駐車場に入ってくるところだった。
    昨日のテレビ局の人だろうか?でもあの人たちはバンに乗っていたから、また別なのかな。
    そんなことをぼんやり考えていたら、この店の人か、と声をかけられた。
    「あ、はいはい、そうです」
    慌てて答えて、視線が泳いだ。
    話しかけてきた人が、乗っている車とあまりにイメージが重なっていて、どこから声がしたのか分からなくなってしまった。
    実際は車が話すことなんてないから、いま車の横に立つこの人の声なんだろうけど。
    「もう店は開けてるのかい」
    「はい。何かお探しですか」
    いつもは聞かない言葉を挟んだのはその人が杖を手にしていたからだ。腕に固定して、手のひらで握るようにもつその杖は、やっぱり普段見慣れないものだった。杖に体半分を預けるような立ち姿に、だからなのか、体調が悪いのだと勝手に思い込んでしまった。
    「ああ、猫にやるメシなんだが……」
    「ねこ、ですか」
    「あるか?」
    コンビニもどきの雑貨屋なのである程度のものは揃えてる。ペットの餌もいくつか仕入れてはいた。
    「こちらです」
    足早に店内に入りたいところだったけど、お客さんの歩調に合わせゆっくりと歩いた。そのついでとばかりにペットの餌は普通のものしかないと伝えた。
    「食えりゃなんでもいい」
    随分と雑な発言だ。ペットを家族の一員と大事に扱う風潮があるなか、あくまで動物と分けて考えるタイプなんだろうか。またしてもぼんやり考えていると
    「拾ったばかりでよくわからねえんだ」と返された。
    「仔猫ですか?それとも成猫?」
    「成猫だな。よく動く」
    「元気なんですね、じゃあこれで大丈夫かな」
    うちの店で一番高級な猫缶と、最近仕入れたササミジャーキーをいくつかレジ台に持っていくとお客さんは「充分だ」と目を細めて笑った。
    「あの、これはわたしが勝手に持ってきたんですが」
    言ってから、ミネラルウォーターのペットボトルと使い捨ての深めの紙皿も台に置いた。
    「あの、これはわたしがそうだってことなんですが、猫もごはん食べると喉渇くと思うので、」
    なぜだかいい訳みたいな言い回しに、お客さんは今度は声を殺すようにクククと笑った。
    その笑い方がなんだか暖かく感じて、わたしもつい顔を綻ばせた。
    お客さんはわたしが持ってきたものを全部買ってくれた。
    お会計が済んで品物をビニール袋に入れ、荷物を車まで運んだ。
    持ちやすいよう袋にまとめたものの、杖を付いて荷物も持ってというのはやはり大変じゃないかと思ったからだ。
    お客さんはこちらの申し出に遠慮することもなく、ひと言
    「助かる」といった。変な遠慮をされないところが、慣れた対応に思え、なんだかありがたかった。
    車へ向かう短い距離の間に、拾った猫の話を少し聞いた。
    聞きながら、こんなことは釈迦に説法かもと思いつつ、道路を道なりに下った先に動物病院があることを伝えると、今度は軽く目を見開かれた。
    「余計なことでしたか」
    「いや、いつもこういうことしてるのか、と思ってな」
    「いつもってわけじゃないですけど、まあ、サービスです。猫、好きなので」
    「おまえさんのそれは、サービスじゃなくホスピタリティだな」
    「はあ」
    聞き慣れない単語にはてなマークを飛ばすわたしの思考が漏れたのか、お客さんは
    「調べてみりゃいい」
    と柔らかな口調でそういった。

    大きな車の運転席側を開けると、助手席のシートにこれも大きな黒猫が丸くなっているのが見えた。
    「ほら、おめぇのメシだ」
    運転席に乗り込んだお客さんにビニール袋を渡すガサガサした音と、お客さんの声。そのどちらに反応したものか、黒猫が起き上がり背もたれを使ってひとつ大きな伸びをした。まるでずっと一緒に生活してるかのような落ち着き具合だ。
    「世話になったな」
    「いえ、またお越しください」
    きっともう会う機会なんてないと思いながら、仕事上の定型文を口にする。
    お客さんはわたしに向かって軽く手を挙げてから車を発進させた。
    大きな走音が徐々に小さくなっていくのを耳で追いながら、店へ戻る。
    そういえばまだ掃き掃除の途中だったことを思い出す。
    今日もやることは山積みだ。
    いつものルーティンをこなしながら、さっきのお客さんがいった「ホスピタリティ」についても調べてみよう。
    開店前の塞いでいた気持ちは、すっかりとなくなっていた。
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    🐈🐈🐈🐈🐈🐈
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    Replies from the creator

    an9_ct

    TRAININGテツと相棒の話
    テツなら相棒のために病院連れていって検査するでしょ…からくる内容 病院のモブ視点



    テツは界隈以外のひとからどんなふうな印象持たれたりするのかな、てのも考えて書いたらあれ?ちょい夢入ったかな?てなったので苦手な方は自衛よろしくです
    「ただいまー」
    休憩から戻ってきたら院内の空気がなんだか変だった。
    緊張から張り詰めたような、ピンとした……という例え、小説なんかで読んだことがある。あんな感じ。
    ヤバい患畜でも来たのかと同僚に目線を向けると、わたしの意を察してくれたのか、小さく顎で待合室を指された。
    どんだけヤバい人?それとも患畜なんだ?興味本位が勝ってそろりと顔を覗かせ、そして納得した。
    いつもはいろんな動物の鳴き声や物音、飼い主さんの気持ちが落ち着かない空気、そういうのが漂ってある意味混沌としている待合室が、何の音もなく、しん、としている。
    いや、なんの音もないは言いすぎた。多少は物音だってあるけど、それは居心地悪くて身動ぎする動物たちであったり飼い主さんたちであったり。いつもふんぞり返って偉そうに三人分のソファスペース使ってるあの飼い主さんも、今日はキャリーケースを膝のうえに抱き、足を閉じて小さく一人分のスペースに納まっていた。なんだ、やればできんじゃない。ちょっと面白くなって声をころして笑ってしまった。
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