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    an9_ct

    性癖の煮こごり倉庫

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    an9_ct

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    和久井くんへのプレゼントはこれしかないなと思っておたおめを書きはじめたら横道に逸れた典型……
    譲介は自分の誕生日に無頓着だしお祝いされる自分の所在が座り悪いと感じていて でもそれをT村やアメリカの生活でちょっとはいいものかな と感じるようになってくれたらなと思いました

    相棒ちゃんを便利に使いすぎるな でも相棒ちゃんは空気が読める猫 の相反は成り立つ

    前日譚あるとき不意に 目についたあの人のほつれを自分の小指にまきつけた
    きっと本人にとっては糸くず程度のそれだろうが 僕にとっては意味のあるもので しかしいつか切れて失くしてしまうかもと覚悟はした

    別れは唐突にやってきて けれど地続きのこの国に居れば離れたことにはならないと決めこんで それだけを支えに勤しんだ

    慣れない環境 他人の視線 いわれない言葉

    総ては己の足りなさを教えてくれる有難い教材だった
    そこでは愚直になることだけが自分にできることだった
    ときおり小指にまきつけたほつれが弛むことがあり そんなときには思いがけない再会が待っていた
    それだけで充分かとも思ったが 会うたびにみつけるほつれを 我欲に任せてまた自身にまきつけた
    今度は手首に さらには体に
    それは自己満足そのものだった
    そして突然にそれはやってきた
    留学という名目で しかし自身の成長を試すための挑戦だとも受け止めた
    地続きだったからこそ途切れないと思っていたまきつけたそれが切れてしまうことが耐えられず僕は一方的な気持ちを形にして残した
    これも自己満足そのものだ

    慣れない環境 他人の視線 いわれない言葉

    留学先では散々に揉まれた
    過去に経験したそれとは比較にならないものばかりだったが 自分には支えになるものがむかしよりも増えていた
    たまにまきつけたほつれに気を遣るとそれは少しくすんでいたり 幾分太さが増したかのようにと変化が見えて それがなんだか心のささくれを凪いでくれている気になった

    あっという間にこの地での生活も数年が過ぎていた

    帰らなくていいのか と聞かれた
    思いもしない問いかけに答えを探していると チケットを渡され 搭乗日を告げられた
    十三日の金曜日
    縁起でもない なぜこの日を選んだのか
    何もかも急すぎて思考がまとまらないまま背中を押され 結局僕は素直に従った

    じっとりした湿気が首筋を撫でる
    それだけで戻ってきたと感じた
    多くのひとが行き交うなか つい視線がある高さをさまよっていることに苦笑する
    なんの連絡もないまま時間が過ぎているのだ あのひとにその気がなければ 僕には探しようがない

    そういえば
    上司からチケットといっしょにわたされた封筒を鞄から取りだした
    開けるのは到着したあとだよ と念押しされたがおみやげの依頼だろうか
    果たしてそれは三つ折りにされた白い便箋だった 広げれば薄く印刷された罫線に沿って住所と店名
    やはりおみやげを受けとってこいということだろうか 住所を検索し地図を表示させた
    場所は都内 ここから足を伸ばしてもそんなに時間はかからないだろう
    この数年で上司のいたずら気質にもすっかり慣れてしまった
    そしてそれを受け入れ満更でもない 自身の変化にもう一度苦笑した

    携帯に表示された地図を見ながら進んでいくと路地を曲がったところにその店はあった
    あったのだが

    どう見ても飲食系 さらにいえば治安はさほどよろしくない部類の店だと感じた
    この店になにがあるのかは分からない しかし上司の指示もある
    思いきって重めの扉を開ける

    迎えたのはカウンター越しに小太りな男がひとり
    やはりここは飲食店らしい
    さて どうするか と思案の途中で男のほうが先に体を動かした
    カウンター越しに三つ折りの便箋を差しだしてくる
    また便箋か と思ったが 黙って受けとり なかを開く
    単調な文字の羅列は

    「出されたものを食べる」

    ますます分からない
    上司の指示だとして どこまで従えばよいのだろう
    そんなことを思っている間に 男はグラスをのせた皿を僕のまえに出してきた
    目の前に置かれたそれはケーキのようでいくつかの層に分かれていた
    ゼリー ムース それとももっと違うものだろうか
    グラスを見つめたままの僕の姿がどう映ったのかは分からないが 男は勢いよく一礼するとそのまま慌てるように店を出ていった

    「出されたものを食べる」

    声に出して文字をたどる
    カウンターに広げたままの便箋と置かれたグラスを交互に見 そこで食べるためのカトラリーがないことに気づいた
    僕はあからさまなため息をついて カウンターのなかに足を踏みいれることにした

    目的のものはすぐに見つかった そのままついでとばかり 僕はカウンターの内側へ物珍し気に視線を巡らせた
    いろんな形のグラス 皿 スプーンにフォーク ナイフ なかでも目についたのはコーヒー豆を保存したキャニスターの種類の多さだった
    見覚えのある豆の銘柄がラベリングされて並ぶのを見ながら ふしぎな感情が湧いてくる
    小さめのスプーンを手にようやく座ろうとして 今度は黒い塊が目に入った

    猫だ それも真っ黒な
    座ろうと思った場所にいつの間にか黒猫が丸くなっていた
    お腹のあたりが上下して 気持ち良さげに目を閉じている
    僕はなるべく音をたてないよう 静かに隣へ場所を移動した
    改めて座りなおし グラスにスプーンをさし込む
    抵抗のない柔らかさが指先から伝わる
    表面には粉が敷かれその下はクリームだろうか
    いくつかの層を掬うようにして口に運んだ
    粉は苦味があり クリームからほんのりとしたコーヒーの香りと底にあるカステラみたいな部分には邪魔にならない程度のアルコールを感じる
    それは僕にとって知らない味だった
    甘いものにとくに興味はなく ましてケーキになればさらに縁遠い
    学生の頃に何度か 手土産として選んだこと あのひとの気まぐれに付き合わされたこと
    唯一すすんで口に入れるのはキャンディくらいだが これも仕事の疲れを誤魔化すために食べているにすぎない

    クリームはケーキを飾るものというくらいの知識だったし それは甘いもの という決めつけもあったが グラスに入ったそれは派手さもなくほろ苦く けれど仄かな甘さがやさしさを感じさせた

    グラスをからにして 再び 便箋の文字を読み返す

    「出されたものを食べる」

    課題は終えた そのあとはどうすればいいのだろう
    座ったまま 食べ終えたグラスをぼんやりと眺め そういえば このケーキに名前はあるのだろうか
    と携帯に思い浮かぶ単語を打ち込んだ
    いくつかの候補が提示され それが ティラミス というのだと分かった
    ついでにいくつかのサジェストが提示され なんの気なしに開いてみた

    「なんだよ」

    つい言葉がもれた
    ティラミスというケーキを構成する材料もサジェストにでてきた名前の意味も そしてカウンターのなかに並ぶいくつものキャニスターも 僕にとって たったひとり をはっきり浮き出させてくる
    こんな手の込んだ思わせぶりなことをしてのけて

    「いるんでしょう それともどこかで見てるんですか」

    思わず立ちあがり 室内をぐるりと見渡しながらいう
    ほつれをまきつけた小指も手首もきしきしと痛む この痛みには覚えがある
    半ば上司からの指示だと思っていたのに だとしたら僕のまわりの大人たちは意地が悪すぎだ

    にゃう

    急に立ちあがったことで起こしてしまったのか 黒猫がこちらを見てひと声抗議すると そのまま大きく欠伸をした
    ぐいと前脚を出して軽く踏ん張るように伸びをしたあと その肢体が床に滑りおりる

    なぁーう

    猫は僕に向かってまたひと声鳴き 今度はカウンター横の扉を示すようにして座った それはまるでここを開けろと言わんばかりの仕草だった

    小指も手首も痛んだままだけれど ほつれはいままで見たことがないくらいに艶やかさを増している

    この奥になにがあるのか もしくは 居る のか

    どっちにしたってこれから先に起こることが上司から僕への「おみやげ」になるんだろうと予感しながら その扉を静かに開けた

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    an9_ct

    TRAININGテツと相棒の話
    テツなら相棒のために病院連れていって検査するでしょ…からくる内容 病院のモブ視点



    テツは界隈以外のひとからどんなふうな印象持たれたりするのかな、てのも考えて書いたらあれ?ちょい夢入ったかな?てなったので苦手な方は自衛よろしくです
    「ただいまー」
    休憩から戻ってきたら院内の空気がなんだか変だった。
    緊張から張り詰めたような、ピンとした……という例え、小説なんかで読んだことがある。あんな感じ。
    ヤバい患畜でも来たのかと同僚に目線を向けると、わたしの意を察してくれたのか、小さく顎で待合室を指された。
    どんだけヤバい人?それとも患畜なんだ?興味本位が勝ってそろりと顔を覗かせ、そして納得した。
    いつもはいろんな動物の鳴き声や物音、飼い主さんの気持ちが落ち着かない空気、そういうのが漂ってある意味混沌としている待合室が、何の音もなく、しん、としている。
    いや、なんの音もないは言いすぎた。多少は物音だってあるけど、それは居心地悪くて身動ぎする動物たちであったり飼い主さんたちであったり。いつもふんぞり返って偉そうに三人分のソファスペース使ってるあの飼い主さんも、今日はキャリーケースを膝のうえに抱き、足を閉じて小さく一人分のスペースに納まっていた。なんだ、やればできんじゃない。ちょっと面白くなって声をころして笑ってしまった。
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