前日譚あるとき不意に 目についたあの人のほつれを自分の小指にまきつけた
きっと本人にとっては糸くず程度のそれだろうが 僕にとっては意味のあるもので しかしいつか切れて失くしてしまうかもと覚悟はした
別れは唐突にやってきて けれど地続きのこの国に居れば離れたことにはならないと決めこんで それだけを支えに勤しんだ
慣れない環境 他人の視線 いわれない言葉
総ては己の足りなさを教えてくれる有難い教材だった
そこでは愚直になることだけが自分にできることだった
ときおり小指にまきつけたほつれが弛むことがあり そんなときには思いがけない再会が待っていた
それだけで充分かとも思ったが 会うたびにみつけるほつれを 我欲に任せてまた自身にまきつけた
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