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    20210224 愛抱夢が疲れている

    ランガにカナダ住みの友人が居ると思っていた頃

    ##明るい
    ##全年齢

    言えない心を伝えるなら カナダに居たころ、当時の友人間で流行っていたのがペットの動画だ。俺の恋人を見てくれよ、なんてふざけたメッセージと共に送られてくるそれの主役は犬であったり猫であったり様々だったが、共通しているのは彼らが飼い主のことをいかに愛しているか全身で表現してくれることだ。鳴く、舐める、笑う。そして身体を寄せてくる。
     似ていると思う。この男と、彼ら『恋人』は。
     誘われて来てみれば謝罪の電話。しばらく待っていてくれとたのまれ数時間。帰って来たと思ったら。
    「……」
     早速人をベッドに転がした男に流れくらい作ってくれと文句の一言でも言うつもりが、がばりと抱きつかれてそのまま。二人ベッドに重なった状態でいる。
     数十分このままだが、特にそういう雰囲気に発展することはない。発展させようがない。何せコミュニケーションがとれない。無言で抱きしめ無言で人の髪をなでる。何かこちらが言っても無反応。抵抗しようにも長い手足にクラッチされてはどうにもならない。
     諦めきった身体は現在、男の好きにさせていた。人の腹に顔を押し当てて呼吸している意味はわからない。どうでもいい。
     スーツすら脱がないままの脚がばたばたと駄々をこねるように動く。今日一番深いため息が腹にかかった。
    「つかれた」
     顔は隠れて見えないがやつれているんだろうな、と推測できる程度には気の抜けた声だった。きっと本人も呟いた意識さえないだろう。
     一度起きあがる気力もないのかずりずりと男が這い上がってきた。丁度こちらをおおうような位置まで来るとそのまま全身をかぶせてきた。流石に重い。
     首筋に男の顔がすり寄せられている。頬がふれあう、息がかかる、それだけでほんの少しだけ気持ちが揺れてしまう。この疲れきった男にその気がないことがすっかり解ってしまっているから、決して言いはしないけど。自分だってずっと待っていた。広い部屋で一人、こんなふうに彼と体温を混ぜるのを。
     男がこちらを見ている。どうしたのかと目で問えば向こうも微笑むだけにとどまった。
     おそらく幸福を得たと伝えたかったのだろう。再び彼はこちらの身体を全身で味わう作業に戻った。
     どうやら意思が通じる程度まで回復したらしい。もう少し待てば、電話越しでない謝罪ともっと深いふれあいが手に入る。俄然気分が上がってきた。
     今度はこちらが彼を見る。やっぱりやつれていたが満ち足りた表情をしている。少し乱れた前髪が数本落ちてきているのを可愛いと思うのは変だろうか。
     焦らされるのはともかくとして。実のところ先ほどからの時間は嫌いではない。自分が恋人の癒しになるのだとはっきり示されるのは嬉しいものだ。やり方は多少不満だが。
     ろくに意思も通じない、止めたって止まらない、それなのについ「仕方ないなあ」で済ましてしまうのはやはり懐かしい彼らと同じ理由からだと思う。
    「……君が好きだなあ」
    「俺もだよ」
     やっぱり待ちきれなくて唇にひとつ、キスを贈った。愛を込めて。
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