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    20210504 BLあるあるを詰め込んだ BLー!って感じです
    政治ギャグあります注意

    ##明るい
    ##全年齢

    一人と一人の僕たちは ぬるい頭痛にじわじわと締め付けられる不快感で目を覚ました。襲い来る吐き気とまともに開かないまぶた。そしてやたらぼやけた昨夜の記憶。
     恋人と行った飲み会、突然始まった飲み勝負、いつのまに勝ち抜き戦に発展していたそれを不当だと訴えたところまでは覚えている。だがそれ以降は一切不透明で
    「あ、起きた。おはよう」
     恋人が裸で隣に寝ている、その経緯を自分は説明できなかった。
     背筋が一気に冷え眠気が吹き飛ぶ。素肌に触れる空気も原因だろう。そう、彼だけではなく自分の身も何一つ纏っていない。
    「……おはよう」
     動揺を悟られまいと腹に力を入れ声の震えを強制的に止める。そしてひたすら微笑めば、けげんな顔をしたランガがこちらの頬をひとつぺちりと叩いた。
    「どうしたの。変な顔して」
     得意分野であるはずの作り笑顔だが、今朝はあえなく失敗したらしい。
    「……ああ、二日酔い?すごいことになってたよね」
     くすりと笑う出会った頃より遥かに大人びた表情に一瞬見惚れ、それどころではないと自分の太腿をつねる。
     少し首を伸ばせば隣にもうひとつ揃いで買ったベッドが見える。ランガのものだ。なのに今、彼と自分はこうしてひとつのベッドで、一枚のシーツにシワを付けるように寄り添って寝ていたらしい。裸で。
    「失礼します」
     淡々と響くノック、思わず見た時計は正しくいつもの時刻を示していた。まずい。
    「おはようございます愛之介様、今朝は――」
     扉を閉めた男が第一に自分を、二にランガを視認する。
    「――」
     あんぐりと開いた口が数回呼吸した後「……三〇分後に再び伺います」としどろもどろに言葉を送り出し、男は視線を背け速やかに退室していった。
     犬に見られても痛くも痒くもないと思っていたが実際は信じられないほど気まずかった。三〇分後あいつが何を言ったとしても自分は間違いなく重い罰を与えるだろう。喜ばれること含め後の対面が嫌すぎる。
     くぁ、とランガが欠伸をして寝返りを打った。無防備な背中があらわになる。その上のうなじに広がるいくつもの赤い痕も。
    「…………」
     見られていないのをいいことにそっと己の物に手を這わせた。若干の湿り気と、液体の乾いたあとのような。
     危険度が加速していく。彼から早急に事の次第を聞き出さなければ。もちろん記憶の欠落はバレないように。
     背後から抱き締めてみると身体はわずかに震え、しかしあっさりと力を抜いて自分を受け入れた。恐怖感などは持たれていないようだ。つまり昨夜何かしらの行為が二人にあったとしても無理矢理ではない、おそらく。
    「……身体は大丈夫かな」
     これくらいの探りなら問題ないだろう。疑問を持たれても君も酔っていたからと誤魔化せる。
    「そんなに飲んでないから平気。強いて言うなら少し寒い」
    「……まあ裸で眠ればね」
     飲み会以外の身体を使うことはしていない。よし、少し希望が見えてきた――
    「他人事みたいに……させたのはあなただろ」
     と思ったら蜃気楼だった。どういうことだ。
     恋人と二人裸で眠るような行いといえば一つしかないだろう。脳内でビカビカと主張するカタカナ四文字に頭痛が酷くなる。
     嫌なわけではない。むしろ自分はそれを以前から待ち望んでいた。成人を迎え倫理こそあれ法では裁けなくなった自分達にふさわしい行為、それを行うにあたり自分はかなり慎重にことを進めていたのだ。綿密な計画を遂行しランガに完璧な思い出を贈るつもりだったわけで、こんな記憶もなく終わっていたなんてパターンはありえない。最悪だ、この世の終わりだ。
     いっそ忘れて何もかも出直したいがそれは自分の話。今は更に深く事情を知り、場合によっては彼のメンタルケアも考える必要がある。後悔反省諸々は後でいい。
     肩に顔をあずけ恋人の名を呼ぶ。
    「ランガくん」
    「何?」
     向く横顔は二度寝に呼ばれかけらしくぼんやりと気が抜けて、だからこそ素の造形美が際立っている。これを快感に染める日を待ち焦がれていたと言うのに、自分は何故酒の勢いなんかで。
    「酔いがキツくて頭が回らないんだ……整理したいから昨夜のことを君の口から語ってもらっていいかい」
     こんな時にも小さな嘘をつく己は器用で、往生際が悪い。
    「わかった。勝負してたときからでいい?」
    「うん」
    「まず愛抱夢が三人抜きして」
     まあ当然だろう。何回自分がアルコールに強い者こそ真の政治家なのだからと一気強要されたと思っている。政治を舐めるな。
    「四人目がジョーで、だけど二人ともそもそもすごい飲んでたから途中で立ったまま気絶して」
    「気絶……」
    「俺以外意識なかったからスネークが全員運んだ。それで最後に二人で帰ってきたんだけど、意識を取り戻したあなたが……」
     横顔が下を向く。聞くのは辛いが、もしかしたら彼の方がずっと辛い目にあっていたかもしれない。恋人として向き合わなくては。
    「……僕が?」
    「服なんて邪魔なもの脱いでしまおうって、それまで寝ないって言い出したから……」
    「…………そう」
     全身の緊張をとく。よかった、危うく昨日の自分を殺すところだった。
     まさか自分がそんな馬鹿な発言を、とは思うがまあ泥酔状態なら多少は見逃そう。理由はさっぱり解らないが脱ぎたくなる夜も存在していたっていい。大事なのは自分が彼と一線を越えていなかった。そこなのだから。
    「ああ、でも」
     何かを思い出すようにランガが薄い唇に指を沿わせた。
    「ちょっとえろいことはした」
     やっぱり殺すしかない。
     
    「どうしてくれるんだ」
    「俺に責任取れってか?」
     面倒そうに息を吐けば男自慢の胸筋が震えた。
    「最初に勝負ふっかけたのは俺じゃないんだが」
    「それくらいは覚えてる」
    「なら文句はそっちに言え」
     ジョーがひらひらと手の甲を見せつける。あれに自分から声をかけろと言うのか。そんな苦行を。
     一応想像してみる――始終話を聞いたあの男がぱしんと扇を閉じ眼鏡を光らせ一言――ああ駄目だ、これは殴り合いでは済みそうにない。
    「あの腕。叩き落としておけばよかった」
    「これを飲むまで帰さん!ってすげえ剣幕だったな。……あれ、気に入ってんだとさ。お前に飲ませたかったんだろうよ」
    「……何なんだ、まったく……」
     大体自分はあれのみならずこの筋肉男とだって「元通り」なんて望む気はさらさらないというのに、長い断絶など無かったかのように押すあいつと流すこいつ、両方ともさっぱり気持ちが解らなくて苛つく。更に言えばこいつの、あの男含む自分達全員にうっすらと生暖かい視線を送る一足先に大人になったと言わんばかりの態度には非常に納得がいかない。お前だってまだこちら側だろう。
    「……しかしまあ、意外だな」
     空になったグラスに如才なく追加を注いで、旧友が言う。
    「心の底から欲しい物を見つけたら、この世にあるすべてを速攻で集めきって壊れるまで遊び尽くす――そんなやつだと思ってたよ、今のお前は」
    「ああ」
     自分もそう信じていたし、そうしてきた。だがいつものように壊すにはあの少年は替えがきかなすぎる。彼が居なくなったらもう二度と代用品ですら手に入らない、そんな気がして仕方ない。
    「いっそのこと、もういくつか同じのがあればよかったのに」
     男が文句の代わりに顔を歪めた。非人道的な発言であることは確かだが、本心だ。彼がもう何人か居ればよかったのに、そしたら鏡を割るようにズタズタにすることも、火にくべるようにどろどろに溶かすこともできただろう。昨夜の失態など無かったことにしてとっておきの思い出を作ることだって、当然。
     なんだってできたはずだ、二人以上なら。彼が世界にたった一人で全てがやり直せないから自分はこんなに悩んでいる。目の前の筋肉ばかり追い求めている癖に人心の理解度が異常に高い男にぶつけることで発散しないといけないくらいには真剣に下らない後悔を続けているのだ。
    「……」
     彼にすべて聞かなくちゃあなと唇をきつく合わせたとき、グラスの内側、液体が動くにあわせて自分の姿が強く揺らいだ。振動の発生源は扉側。
    「ほら。迎えが来たぞ」
    「何だと」
     迎えの電話ならまだかけていない。余計なことをと振り返って強く睨み付ける。
    「――」
     半開きの扉から覗く顔が目を見開き小さく「ごめん」と言って後退しようとするのを全力のスライディングで止めた。背後で筋肉馬鹿が笑っている。
    「謝るのは僕のほうだ、すまない。……どうしたのかな」
    「スネークがわりと遠くに車停めたから、俺が呼ぶ係」
    「……よくわかった。ありがとう」
     自分では無理だと判断してランガを使ったらしい、癪だがそうする程の急用が発生したということだろう。
     さりげなく精算の準備を進める男が涙目を擦って言った。
    「ビビりすぎなんだよ。お前ら似た者同士なんだから、考えてることだってそう変わらんと思うがね」
     
     その夜だ。男の言葉の意味を真に理解したのは。
     就寝前いつものようにサイドランプを消すため伸ばした腕、その袖をランガがつまんだ。
    「今日も一緒に寝ようよ、昨日みたいに」
    「……いいとも」
     よじよじとベッドに乗った身体が半分空けたスペースに寝転ぶ。そして襟に手をかけ
    「……」
    「……何をしてるんだ君は」
     ナイトウェアを脱ごうとするのを制止すると、悪いほうに真っ直ぐな表情がきょとんとこちらを見あげた。
    「何って……脱ぐんだ」
    「だからどうして……ああもう、話すそばから」
     さっと上を脱ぎ終えた手が下に掛かる前に左右から握って確保した。この元子供はいくつになっても行動力が高すぎる。
     不思議そうな顔が傾く。
    「昨日と同じにするんじゃないの?」
     ぼんやりと明かりに照らされた完成に近付く肉体が呼吸のたびにゆるく上下して目に毒だ。顔だけを見て話せるように限界まで近づいた。
    「……それなんだけど」
     言いたくない。正直に話して全貌を聞けば、自分と彼には決定的な一夜の違いがうまれてしまう。なし崩しに彼を手に入れた事実、自分の思い通りに物事が運ばなかった事実を認めなければならない。
    「……」
    「……あのさ」
     彼から縮まった間隔と唇にやわい温度。唇を離したランガが「急にごめん」と続けた。
    「これがいつもの。それで――」
     再びの口付けにほんの少し唇が濡れる。
    「こっちがたまに愛抱夢からしてくるやつ。……できてないけど……」
    「……」
    「昨日のあなたとも両方した。しなきゃ寝ないって言われて」
     昨日の自分には業腹だ。泥酔していたとはいえ随分と図々しく本音を出してくれて、日頃耐えて作ったイメージが崩れてしまったらどうしてくれるのか。
    「覚えてる?」
     両目は光を遮る物のない空、真正面からこれに見つめられると自分は駄目だ。甦るあの日の記憶に埋められた脳内が白旗をあげた。
    「…………ない」
    「そう。良かった」
     何年経とうが変わらない雪解けの笑顔を浮かべた元少年がもう一度よかった、と繰り返す。
    「俺、今みたいにすっごく失敗したんだ。愛抱夢に何度も下手だなあって笑われて落ち込むくらい。もう知るもんか、さっさと寝てやるって思ったら……」
     言葉を切って伏せた目の、視線がふらふら揺れる。
    「その、抱きしめられるし……あちこち……触られるし……色々……」
    「……本当にすまなかった…………」
     曖昧に語ることしかできないのだと悟りついに罪悪感の蓋が開いた。掴んだままの手に力と、ありったけの謝意を込める。
    「怖い思いをさせたね……どうか許してくれ」
    「ううん。怖いとかは思わなかった、嫌だったけど」
    「嫌……」
     今度こそ本当にこの世の終わりだ。
    「ち、違う。そういう嫌じゃない」
     よっぽどの表情を見せてしまったのだろう。ランガがぶんぶんと勢いよく顔を横に振った。
    「嫌じゃなくて、ええと。残念っていうか」
     残念、何が。答えは決まっている。
    「……もしかして君も?」
     抽象的な問いかけに
    「うん」
     返答は短く、だが頬にさした赤みが雄弁に語っていた。
     身体をじわりと温かい何かが埋める。それはつい最近成人したばかりの元少年と同じことを考えていた気恥ずかしさであり、ランガという自らの半身が同じように自分を求めてくれていた喜びからくる高揚でもあっただろう。
     あだむ。
     わざとらしいほど甘い声が名前を呼んだ。
    「やり直し、させてほしい」
     悔しいがあの筋肉はやはり人をよく見ている。自分達は確かに似た者同士だった。
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