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    20210607 プロポーズの日だった気がする

    ##明るい
    ##全年齢

    一生を頂戴 いい匂いだ。発生源はキッチンの鍋、それとソファで寛いでいる男がかかげたカップだろう。
    「おかえり。君も飲む?」
    「ただいま」
     頷くのは予想されていたらしい。すぐさま差し出されたカップの中身は程よく温かった。自然な物と作られた物、二つの甘味に若干の辛さ。鼻に抜ける匂いは独特だけど嫌いじゃない。
    「おいしい」
    「ありがとう」
     折角買ったから試したかったのだと彼は言った。そういえば先週何か、見慣れない枝や種らしき物をキッチンに置かせてくれと頼まれた気がする。あれがこうなるのか。
    「色々変えるとまた違った風味になるそうだよ。興味はあるかな」
    「ある」
    「なら試してみよう。今週末は……駄目か」
     そうだ、映画を見に行くと約束した。
    「なら来週。飲み比べだ」
     宣言ののち傾けられたカップがやがて水平に戻ると、やや緩んだ口元からは穏やかで深い溜息が漏れた。
    「満足?」
    「ああ。色々と」
     カップが置かれて金属音、響き終われば部屋はしんと静まり返った。そのタイミングを待っていたかのように彼が話し出す。
    「週末の予定も貰った。その次も、来月の長期休暇も。君の部屋の合鍵もね」
    「鍵はこっちも貰った。他にも沢山」
    「そう、僕らは互いにそうするのが好きらしい。おかげで貰った量もあげた量も随分貯まった。充分なくらいには」
     目が笑っている。楽しいことを思い付いた時のきらめく赤。
    「だからそろそろ貰っていいし、あげていいと思うんだ」
    「俺もそう思う」
    「本当?」
    「うん」
     やっぱり頷くのは予想されていたようで即座に手からすいとカップを奪われ足も床から離されていた。
     優しく放られ、新調したばかりのマットレスが軽く鳴く。思いきってもう少し高いのにするべきだっただろうか。もしくはもう少し広いの。
    「なら早速。今夜の予定は?」
    「ないよ。全部あなたの物だ」
     唇を合わせれば独特の香りが広がる。今じゃ無かったかもねと彼が笑うからこっちも笑った。部屋に漂うそれより体内のほうが濃くなる頃には二人ともそんな余裕は消えてしまったけど。
     今週は映画を見て来週は飲み比べ。その次はどうだろう。買い物かな。指輪とか。 
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