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    yowailobster

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    20210629 チル見て愛抱夢の恋フィルター可愛いなと思ったので ギャグ

    ##明るい
    ##全年齢

    本人確認最最最重要項目 男が突然現れるのは珍しくない。ただ。
    「はい笑って」
     これは珍しかった。フラッシュ付き。ぱしゃぱしゃと音が響く度目が眩む。
    「もっと」
     鍵状の指先が口角を無理に引いてくる。これでも充分笑ってるつもりなんだが、まだ足りないらしい。
    「口じゃなくて頬をあげるんだ。どうしても意識がいってしまうなら下より上唇を使って、そう……目の力を抜かない。眉も」
     やけに笑顔に詳しい。
     確かに彼といえば常に笑っている印象はあるがしかし顔の上半分はトレードマークの仮面に覆われてどうしていようが誰も見ることができないのに、そんなに気にしてるんだろうか。そういうところ自分と別の人間だなと思う。こちらはそこまで何事にも真面目にはなれない。
    「……よし」
     笑ってるのが良いならあなた自身を撮ればいいんじゃないか――そう言いたくなる、何から何まで丁寧に作られ完璧な表情で男は頷くと即取り出したSDカードをどこからか出てきたパソコンに挿す。そんなにすぐ確認したいならスマホでも使えば良かったのに、こんなプロ用みたいなぴかぴかのカメラ選ばなくたって。
     遠巻きに眺めているとやがて画面に画像があがりはじめた。大量の写真のどれもが自分、というのはどうにも落ち着かない。男は――
    「……」
     様子がやや変だ。首を捻り、唸っている。
    「どうしたの」
    「違う」
    「え?」
    「違うんだよ。何もかも」
     君もそう思わないかと問われても何のことだか。
    「……解らないのか」
     解るわけないだろう。返せばやれやれと頭を振られた。こちらを手招き映すのは。
    「見てくれ」
    「俺だ」
    「そう。君。だが君じゃない」
    「……悪いけどそういう難しい話はちょっと」
    「違う……!」
     キーボードを叩く手。次々に拡大されるのは当たり前だがやはりこちらの写真。カメラのおかげかどれもよく撮れている。それなのに出せば出すほど男の顔は不満の色に染まっていく。
    「違う、違う。これも違う」
    「……」
     少々ではあるが、自分の写真が違う違うと切り捨てられるは良い気分ではない。特に普段散々こちらを褒めてくる相手なら。
    「全部違う。大違い」
    「……何が」
     むかむかを表に出さないように問いかければ、こちらの十倍はあろう声量で男が叫んだ。
    「――君はもっとラブリーだ!」
    「は?」
    「例を出そう。これなんかどうかな」
     強制的に作らされたせいで少し歪だが、まあ普通に笑えている。
    「いいんじゃない……?」
    「……何も解っちゃいないな。それでもその身体の持ち主かい?」
     初めて言われるタイプの罵倒だ。
     よく見なよ、と調子が出てきた男が指差すのは顔の中心、二つの目。
    「君のはこんなに暗くないだろう」
    「……そうかな」
     こんなものだと思うけど。
    「そうだ。もっと輝いている!世に溢れる宝石など比べ物にならない煌めきを放ちながら常に僕を追う君の目が――何故ここまで暗く……?」
    「はあ」
    「そして雰囲気!」
     いつもの自分に見える。友人達から言わせればちょっとぼんやりして暢気そうな。
    「もっと明るい!」
     さすがに否定したかったが、
    「君の周囲を包む春の陽光のようなオーラがこれには一切映っていない。何だ不良品か?せめて百分の一でも再現しようとする気概はないのかこのポンコツカメラ……」
    「……写んないんじゃないか」
    「写るよ。僕の目に映るものが写真に写せないわけないじゃないか。ランガくんはちょっぴりお馬鹿さんなところもチャーミングだね」
    「……」
     生憎これに太刀打ちできるだけの口を持ち合わせていなかった。
     どうやら男の視界のなかでは、自分は随分すごい見た目になっているらしい。目は輝いて雰囲気は明るく。そんなの本当に自分かと疑いたくなってしまう。もしかしてこの男が褒めているのは自分ではなく、男の中だけに存在する都合の良い自分なのではないか。聞いてしまいたいような、答えを知るのが怖いような。
    「更に更に!」
     まだあるのか。
    「僕のことをもっと愛している!」
    「――」
     愛って写るのかとか。見ただけで量が解るものかとか、言うべきことは沢山あってそれなのに口から出たのは。
    「それは、そうかもね」
     珍しくも何ともない話だった。ようは二人とも勘違いで頭が鈍っていて目も曇っていて――まあ、恋をしているというだけだ。
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