眠るまでが、たたかいです 息が荒くてしんどくて、なのにすっごく。
「達成感……」
くうっと身体を伸ばしていると「わからなくもないけど」と横から声が。
「さっぱりし過ぎじゃない?」
もっと情感をと彼は嘆くけど、言葉とは裏腹に表情は満足そうだ。赤く染まった頬には汗。口の端から顎に続く乾いた線。顔全部がさっきまで全力でしたって主張している、のはもしかしてこっちも同じなのかもしれない。
「じょうかんってどんな感じ?」
「艶というか……いやこれだと尚更通じなそうだな。情はわかる?エモーション」
「まあ」
解らなくもない。つまりもっと気持ちを強く込めろということか。
「達成感……!」
言えば腕が回り、
「薄々予想はしてたが」
引き寄せられた耳元にわざとらしい溜め息がかかる。
「君って子は」
「不満なら」
「いいよ」
「……やっぱ大丈夫」
明らかに返事が早かった。危険だ。身体を引き剥がしにかかったけどもう遅い。
「どうして?言わせてよ」
「いい、いい。平気」
「聞かせてあげたいな、君が……」
「いいって!」
咄嗟に放った叫びはボリューム調節を完全ミスした大音量。なのに彼は嫌な顔をするどころか、むしろ好都合みたいに笑う。
「そうそう。丁度それくらい」
聞こえた言葉の意味を探って
「あ」
ぶわりと、変な汗が。
「すごかったなあ……最後の方なんて特に、自分からねだっては咽び泣く姿がそれはもう」
「言わないで、ねえ、ほんとに……」
「声荒れてるね。そんなに気持ち良かった?」
「……良かった!」
「はは」
やけの一言は気に入られたらしい。うでの力が強まり、ぎゅうっと身体が密着する。嫌だ。いや、嫌じゃないけど。そういうことではなく、タイミングが悪い。
触れたところから伝わってくる熱。普段だったら安心するそれも今は。
「……」
良い気持ちのままシャワー浴びてさっさと寝ようと思ってたのに。さっきまでのあれやこれやをよりにもよって本人から話されて、頭も身体もすっかり色々思い出してしまった。そのうえこんなことまでされたら、もう。
たぶんとっくに気づかれてる。あからさまに足を動かして反応を見てくるから。やめてほしい。止めないならせめて「……ね、ねえ?」責任とってほしい。
「もう一回……」
「すまないが明日早いんだ。だから今日はこれでおしまい」
「えっ」
「寝ようか。おやすみ」
「……」
言葉が出ない。起き上がって枕でも振り回したい気分だ。身体が全然動かせないから無理だけど。
すうすうとたち始めた寝息は絶対に嘘。証拠に口元が少し笑ってる。明日早いのもだから早く寝たいのも本当だろうけど、半分くらいはこっちで遊ぼうという気もあるはずだ。そもそも明日は自分も早めの予定で、それじゃあ今日は一回だけにしようね、とそもそもそんな約束をしていたことだって当然覚えているはずで、そのうえでこの男は、わざとこんな。こんな。
熱いのは悔しさのせいだ。そうに決まってる。全然寝れそうになくたって、何だかぐるぐるするのだって全部。
「……」
止められないほどの速度でそろりと身体を動かす。全身を沿わせるように、そういうことの前みたいに、ゆっくりと。肌の間にじっとり熱を感じた時点で、
「愛抱夢」
彼の望む名前を呼べばまつ毛がぴくんと揺れた。すかさず唇に、と思ったら普通に勢いをつけすぎた。これじゃキスってより甘噛みだ。まあいっか。
うっすら開いたまぶたから覗く赤目は不機嫌そう、でもぎらぎらが隠せてない。首筋にぞわりと走る予感は残念だけど気のせいということにする。今日の種目はもう変わってしまったので。
もう一度ちゃんとキスしてから、試合開始のベルを鳴らした。
「おやすみ」
誘ったのは向こう、乗ったのはこっち。熱さとぐるぐるにもがきつつ早寝勝負と行ってみよう。