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    20220430 誕生日への緊張が暗黒微笑を生んだ やっぱ闇結婚式なんだよね 闇結婚式ってなんですか?

    ##暗い
    ##全年齢

    緣の停滞「簡単だ。奪えばいいんだよ」
     庭に声が響いている。
     咲き乱れる薔薇の影にて腰を下ろす人間が二人。そのうち片方の男から声は発されていた。
    「生きたいと強く思っている者は殺しづらい。やろうと思えば出来るけど殺意まで抱いた相手なんだ、力でねじ伏せてしまっては興が冷める」
     話しながら男は花の付け根を抓み芯となる花へと巻き付ける。編まれた花は小さな子供の花冠にするならば充分だろう長さ。しかし男はまた花の乗ったハンカチーフへと手を伸ばした。揃いの花の中から一本取ればハンカチーフが僅かに動く。この庭には編むに適した花が無い。その為わざわざ購入された茎の長い花達は今順番を待ちながら丁重にもてなされていた。男の傍らで腰を下ろすもう一人、俯く少年の膝の上で。
    「だからまず意思を奪う。次に肉体の自由。最後に……何だろう……最後は……」
     男は更に何か呟きかけていたが結局言葉にする事は無く、少年の顔を覗き込んだ。
    「冗談だよ。忘れていい。それより早く完成させてしまわないとね」
     数分も経てば男の手には立派な花冠が出来上がっていた。男はそれを少年の頭上にかざすが決して乗せようとはしない。分かっているからだ。このようなままごとの冠では無い。本物こそ、男がいただくひとつと対になるような輝きだけがこの少年には相応しいのだと。
    「時間だ。行こうか」
     立ち上がる少年の膝から可憐な花達が落ちようとしている。それを知りながら男は強く少年の手を引いた。
     
     式場に見立てた部屋にて、先程庭に居た男達は向かい合うようにして立っていた。
     彼等から数歩離れた所に一人佇むどちらとも似つかない男は黒を纏っているが向かい合う男達は白を、かつ少年は俯いたままの顔をうっすら透けたヴェールで隠している。彼等がどちらを主役としこの場で何を行うつもりかは明白だった。
     数歩少年の元へ進んだ男は俯いていた顔を上げさせ、うやうやしくヴェールを外す。そのどちらもを少年は無言で受け入れた。いや。そうする他無かったと表すべきか。
     一見真っ直ぐ男へと向けられているように思える少年の双眸はしかし真実男を見てはいなかった。男どころかもう一人の黒衣の男も、更に言うならば部屋に在るもの全てが少年に認識されていないだろう。かつて透ける水面を想わせた翠色の瞳は今や新月の海のようだ。微かな生命の気配こそ感じるもののその在り処は暗い海の下。水底に沈んでおり人の手など届く筈も無い。
     寒々しい暗闇にしかし男は笑み背を僅かに曲げると、白い耳元へ唇を寄せ一二言唱える。すると突如ヴェールの落ちる肩が大きく動き、今まで息を止めていたかのように少年が浅く激しい呼吸を始めた。びくびくと末端を震わせながら少年はその目にささやかな光を浮上させていく。そろを男は瞬きもせず観察し続け、やがて夜が明け翠が照らされるや否や少年に声を掛けた。
    「おはよう」
     口調も声音も何ら変わった点の無いただの挨拶にしかし少年の身が強張る。光を取り戻した目にはしばらく出会えていなかった現世とそれらを自身から奪った男の姿が。
    少年が己を認識したことで虚が僅かに埋まるようなよろこびを感じながら男は尋ねた。
    「今日こそは誓ってくれるね?」
     言葉に少年は何を返すことなく目を伏せ、男の手に包まれていた自身の手を動かした。ろくに感覚の戻っていないだろう冷ややかな手指が男の手から抜かれる。だらりと落ちた手は誰へも助けを、救いを求めない。少年はそうして言葉を使わず男へ答えを示した。
     宝を失った手に男は溜息を吐く。振り払ってしまえばいいものを。ついでに恨み言のひとつでもぶつけてきたならばまだ男としてもやり様があるのだが、どうにもこの少年は男の思惑に乗ろうとしない。以前言葉を用い男を拒絶していた頃も怨嗟や怒りの類は口に出さなかった。目も同じこと。意思を、自由を、奪われたものを再び与えられ選択を迫られる度少年は同じまなざしで男を見る。揺らぐ翠に込められた感情を男が探ろうとした事は一度も無い。興味はあったが一線越しの情を幾ら見付けようとも男の求めるものには遠く及ばないだろうと踏んでいた。
     男の願いはたった一つ。自身の虚を満たしきること。
     この少年の全てを使おうともそれは叶わないかもしれない。
     しかしだからこそ男は少年の全てを手に入れなければならなかった。
     眩しい双眸へと男が手を伸ばせば、少年は息を詰め痛ましいほどに唇を噛み締めた。覆われ、囁かれることでその身は再び木偶と化す。何度も味わった恐怖に今再び晒されながらしかし少年は男から目を逸らさない。なれば男が少年へ送るべき言葉はひとつ。
    「また会おう。ランガくん」
     覆われてなお自身を見つめているだろう瞳へと目を合わせ男は言った。
    「その時こそ僕へ微笑み、愛していると言って」
     男は理解している。次出会う少年も男を拒むだろう。しかしそうでなくては。奪いきれない輝きこそ求めるに相応しい。矛盾を孕む欲望に男は己の真なる愛を感じていた。だからもし本当に少年が誓いを立てる日が来たならば。その時自分がどうするのか、男自身分からない。
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