クリスマス 24→25樹木の枝に無理やりつけられた電灯。赤と緑。吊るされたサンタクロース。浮かれた年末年始ひとつ手前の一軍は疲れた体にはあまりにも重く感じた。さらにそんな街の煌めきを背にして、とぼとぼと帰ってきてみれば部屋は真っ暗だった。しん、と静まり返った廊下。
「……ほたる?」
冷たい廊下に一気に孤独が満ちた。見れば靴がないので出かけているらしい。
何か用があると言っていただろうか、それともクリスマスイブにまで残業したことに呆れどこかに消えたのか。疲労のせいか、つい思考が暗くなる。リビングに進みテーブルの上に鍵を置くと、とりあえず取るかもわからない電話をかけてみる。
数コール後に電話は取られた。
「もしもし……しんれー? どしたの?」
間延びした声。おそらく少し酒が入っている。
「今どこにいるんだ?」
「え、朝言ったじゃん。狂たちと飲むって」
呆れたような声に、はっとする。
確かにそんなことを言っていたような気がして、この頃の自分の余裕の無さにうんざりした。
「もしかして家に誰もいなかったから電話した?」
「…………あぁ。すまん。邪魔したな」
それならば今日は朝帰りだろう。
素直に謝罪すると、向こう口が一瞬沈黙した。
「ほたる?」
戸惑って声をかけてみると、ごそごそと何か篭った音が聞こえたあと、返事をされた。
「………今から帰るね」
面食らった。
「いや、別に帰ってこいとは言ってないぞ」
「…………いーよ、ほとんどお開きみたいなもんだし」
ボンとか寝てる、という言葉の後、不意に声が遠くなった。
『俺、帰るね』
おそらく残る誰かに言ったのだろう。そんな声にどこか安心する自分に自己嫌悪した。
「じゃ、帰るから」
次に聞こえた言葉に、無理に帰ってこなくていいともう一度言おうとしたのにそれをいう前に遮れた。
「寂しい顔しないで待ってて」
そういうや否や電話が切られた。
寂しい顔なんてしていない、と反論する間もない一方的な通話。
着替えもせずに、スマートフォンの画面だけを切りテーブルに突っ伏した。
時計を見る。
23時51分。
奴が帰ってくるときにはすっかりクリスマスだ。
了