影二つ足並みが揃うことは無い。
大きな歩幅と、その後を追う小さい其れはどこを歩もうとも。
彼の慣れ親しんだ雪道も、冷たい石畳も、波に濡れる細やかな砂の浜も。小さな彼女は随分と危うい足取りで彼の足跡を辿って行く。
ヒューゴと、ソンソの旅はそういう道行きであった。
どういう縁あってか共に行動をするようになって随分と経つのに、ヒューゴとソンソの間には言葉も歩み寄りも圧倒的に足らなかった。
余計なお喋りはなく、交わすのは視線が多い。時折物珍しいものを見つけては立ち止まるソンソの足音がやんだのを見つけてはヒューゴが立ち止まり、いくぞと声をかけ、また置いていかれまいとソンソが小走りに、或いは雪に足を取られながら追いかけていく。
目的地まで、途中の宿屋まで黙々と歩く二つの影は並び立つことが少ないのだ。
「まるで影踏みよ」
幻龍が、木の床にパタリと眠ったソンソの肩の上に腰を据えてそう語る。
鱗をもつこの小さきモノを何故拾ったかは知れぬが、連れて歩くには距離が遠く、愛でるというにはあまりに稚拙、と。
「……何が言いたい」
「独り言だ。」
「フン。」
もう寝る、とヒューゴが読みかけの本を幾分か乱雑に閉じる。
身を翻し消えた幻龍を見てとり、ヒューゴは小さく丸まったソンソにそっと手を伸ばす。
白く陶器のような滑らかな肌を覆う鱗にしかと触れた。
ソンソは知らない。
何も語らぬ男が、過去を思い出しながら己に触れる優しい手があることを。
眠るソンソのその冷たい鱗を撫でるヒューゴが、明日は少しゆっくりと進もうと思案したことなど。