雲居の空:序章今年も穏やかな春の光が豊葦原を包み込む季節がやってきた。
たんぽぽの綿毛を飛ばしている千尋を見て、この平和がずっと続くことを風早は願わずにはいられない。
何度歴史を変えても起こる戦。
その運命がようやく変わり、今まで見たことない史実が生まれようとしている。
千尋の何気ない仕草はそんな平和の証のようにも思えた。
「何、見てるのよ、風早!」
「いえ、姫があまりにも可愛いもので」
「もう、そんなことばっかり」
相変わらず恥ずかしいことをしれっと口にする風早に対し、千尋は姉、一ノ姫の婚姻が近づいていることを思い出す。
以前から姉が懇意にしている羽張彦は優れた武官として名を馳せており、また家柄も申し分ない。
愛する人と国を守ることができるということで姉はかつてない美しい表情を見せていた。
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