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    @6666baud

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    天体観測をしている冬のカトシスの話です。
    筆慣らしのつもりで書いたものではありますが、せっかくなのでここに供養しておこうと思います。

    #カトシス
    catosis

    かがやくもの 命が輝く瞬間がある。視界を眩ます刹那の閃光のようでもあり、希望に向かい永遠と伸びる軌道線のようでもあるそれを、俺は知っている。
    「って、シスさん、聞いてます?」
    「すまない。少々……考え事をしていた」
    「急に『星が見たい』だなんて言い出したのは貴方でしょう? 人をこんな寒空の下に連れ出しておいてそれはないんじゃないですか?」
     わずかに離れた街の明かりと、白く色づく木々だけを残した銀世界。耳が痛くなるほどの静寂の中で、俺の隣に立つ男の声はよく通る。鋭く切り裂くような、それでいてどこか温かさを覚えるのはこの声の主――カトルに寄せる想いが俺の中にあるからかもしれない。
     カトルの依拠である星屑の街を訪れた俺は、夜も十分暮れた頃合いに彼を街からさほど離れてはいない山林へと連れ出していた。
    「俺はついて来るかの判断はお前に委ねると言ったぞ。それに話もちゃんと聞いている。あの一等明るい星には伴星があるのだろう?」
    「あぁ、そうですね」
     おそらく後者への肯定を返したカトルは、大きく腕を伸ばし話題を元に戻す。
    「明るい方の星に比べて伴星の方はほとんど見えないんですが……あと、あれがこの時期にしか見られない双子星で……」
     俺の指に沿う指が示す方角。満天の星海が雪のように降り注ぐ。実際、俺の視界には周囲の木々から振り落とされた粉雪も舞い合わさり、あたかも星が降っているかのように見えた。
     吐く息は白く、小さな鼻を赤く濡らして、先ほどからカトルは目に付く星々の名を熱心に俺に語り続けていた。
    「ずいぶんと詳しいんだな」
    「僕が星に……ですか? そうですね、幼少期に天体に関する本を拾って得た程度の知識ですが……今になって思えば、星を見ることは、娯楽や贅沢だなんて考えられないような生活の中で見出したわずかな楽しみだったのかもしれません」
     言うとカトルは、素早く視線を空に戻し唇を丸くする。
    「あっ。ほらシスさん、流れ星ですよ!」
     冷たい空気を裂くが如く、一閃の光が俺達の頭上を通り過ぎる。蒼く薄明かりを放つ空から線が消えるとほぼ同時に俺に向き直ったカトルはわずかに頬を持ち上げ、白い息をさらに弾ませた。
    「運良く流星群の時期にかち合ったんでしょうね。今日からしばらくは流れ星を拝めると思いますよ!」
     俺の姿を捉え、カトルは嬉しそうに目を細め笑う。彼に触れて知った、彼の見せる表情の中で俺が最も眩く尊いと――愛おしいと感じさせるに至る光。
     奪い、奪われることでしか生きられなかった世界が与えたもの。与えられるもの。生き生きと輝く、命の表情。それは死に瀕した際に見せる一瞬の表情でも、苦しみに耐え足掻き続ける表情でもない。きっと、俺はずっとこの表情を――
    「……綺麗だな」
     また話を聞いていないと叱られそうだから、カトルの話に相槌を打つ。嘘偽りはない言葉でそう返せば、カトルの目がより一層輝きに満ちていった。
    「えぇ……雪もキラキラと光ってまるで星が降ってるみたいだ。たまにはこうして貴方の誘いに乗るのも悪くないですね。身体はだいぶ冷えますが、暑いよりかはマシですし」
    「お前もそう思うとはな……ならばもう少しだけ……こうして眺めていてもいいか……?」
    「貴方から僕に頼みごとだなんて、これまた珍しい。本当に今日はどうしたんですか? シスさんってそんなに星を見るのが好きでしたっけ?」
     ふっ、と鼻を鳴らしたカトルは今度は少しだけ、意地の悪い笑みを見せる。
    「フン……俺らしくもない、か。もっともだな。寒いのなら街に戻るぞ」
    「子供じゃあるまいし、わかりやすく拗ねないでくださいよ」
    「拗ねてなどいない」
     俺がカトルからフイ、と顔を背ければ、「ふぅん?」と鼻を鳴らされる。癪には触るが拗ねたわけではないのは本当だ。が、このまま俺が何を言ったところで弄り倒されるのが関の山だろう。わざわざ外に連れ出した結果がそうであっては、本位でもない上ほかでもないカトルに申し訳が立たない。
     しかし、そうは言ったところでこれからどうしたものか……と、仮面の目穴からチラリとカトルを伺えば、やれやれといった調子で肩を竦めたカトルがおもむろに自身の手袋を脱ぎ出す。
    「……じゃあ、僕からもお願いをひとつ。僕が寒いかどうかは貴方次第……ということにしてはどうでしょう?」
    「…………」
     素肌の掌をこちらに差し出し、カトルは促すように首をかしげた。靡いた紫の髪に細雪がくっついては溶かされていく情景にさえ、自身の鼓動が早まっていくのを感じた。
     取れ、と言わんばかりに待ち構える掌に恐る恐る指を伸ばす。触れるか触れないか、ドクドクと震える鼓動で揺れた指先がカトルの掌をかすめた時だ。しびれを切らしたように強引に片手を捕らえられ、指に指を絡められる。
    「…………ぁ」
     俺の血に濡れたはずの手が、俺よりもはるかに冷え切った掌の中で乱暴に、それでいて優しく溶かされていく。
     ゆっくりと唇へと近づいてくる吐息は変わらず蒼白く輝き、この世の何よりも燦然として見せるのだった。
    「…………~~ッ、やはり戻る!」
    「えっ、あ、ちょっと! シスさん!?」
     二度、三度、確かめるようにギュウギュウと掌を握りしめられたところで、張り裂けそうな心臓と緊張と羞恥が限界を迎えた。気が付けば俺はカトルの手を大仰に振り払い、雪面に足を蹴り出していた。
    「キエエェェェェーーッッ!!」
     叫び声を上げながら一心不乱に夜の林の中を駆け抜けていく最中、遠くからカトルの罵声が聞こえてきた気がしたが、今は到底謝れそうもない。あれほどに眺めていたいと思ったはずの輝きを直視することが出来ないのだから。

     置き去りにされたカトルは独りごちる。
    「ったく……はじめから『二人きりで過ごしたい』って言えばいいものを」
     それは一体どちらに向けて放った言葉なのだろうか。当然走り去ったあとの俺には知る由もないのだが、この日から時折二人で星を見に行くことは増えたように思う。
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