あってたまるかそんなこと眼前に伸びてきた白く真っ直ぐな指先はどこか花の茎を連想させ、植物を相手にする静かな時間を想うと心が凪いで落ち着くのだった。
例えその指が猛毒を塗られた刃を握り込んでいたとしても。
眼球の僅か先でピタリと止まった刃を、無言で見つめる。
逃げないんですか、と訊かれ何故、と問うとぶわりと殺気が膨らんだ。
勢い任せに短剣が耳元に突き立てられ、数本の髪と枕から飛び出た羽毛が静かに散る。
どうやらまた言葉を選び間違えたようだ。
目尻に落ちた羽を瞬きして払い除け、正面に陣取る男を見上げる。
「カトル」
相手の瞳孔が開いているのが逆光でも分かる。深く息を吐き出した男は返事もせずにギロリと睨み付けてきた。
「舐めやがって……」
地の底を這うような低い声。そうじゃない、と喉元まで出掛かった言葉は、また神経を逆撫でしそうで、口から出る寸前で呑み下す。
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