花屋さんと警察官パロ(花寧々)ジリジリとした陽射しと夏の茹るような暑さの昼下がり。かもめ商店街の一角にある夏の花々で彩られた花屋で働く花子は、暑さのせいかどこか元気のなくなっている花々の手入れをしていた。
カランカランと鈴が鳴り響き、ミニスカートにタイツを纏った警官服姿の女性が花屋にやってくる。
「いらっしゃい………ってヤシロ?」
「こんにちは、花子くん!…へへ、ちょうど午後のパトロールだったので。今日も暑いね、ほんの少し歩いただけで汗掻いちゃったよ…」
現れた女性警察官は八尋寧々、彼女は四月からかもめ町の派出所に配属された新人警察官だった。
春先に起きた事件の際に出会った彼女は、落ち着きもなくどこか頼りなさげであったが、今は商店街の人から慕われ愛される警察官となっていた。
ハンカチで汗を拭うと、「花子くん、お仕事ご苦労様です」と敬礼をして屈託のない笑みを浮かべた。
「ヤシロもご苦労様。暑いのに大変だね」
ふと窓の外に目を向けると、店の前にミニパトカーが停まっていた。運転席を見れば同乗しているのは、少しチャラそうな所謂イケメンに分類される顔立ちをした男性警察官のようだった。
「……あれは先輩?」
「そうなの」
カッコイイわよね、と彼女はクスクスとどこか悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふぅん…」
花子が面白くなさそうに表情を曇らせれば、寧々は「先輩、彼女さんいるから!そういうのじゃないわよ!?」と言って慌てて首をぶんぶんと横に振る。
「そういうのって……、まあいいや。今日はどうしたの?」
「……あっ、この辺りのお店で窃盗事件が多発しているそうなんです、怪我人も出てて……。だから花子くんも気をつけてね…」
心優しい彼女は、事件や怪我をしたひとに心を痛めているのか、胸に手を当て、眉を下げている。
「そっか…教えてくれてありがとう」
「……ううん!町のみなさんに安心してもらえるように、早く犯人捕まえられるように頑張るね!」
パッと顔を上げ、「私ならできるわ!」とグッと腕を振り上げている姿に、(ヤシロらしいなあ)と思いながら、ヒマワリ、千日紅…と夏の花々をいくつか手に取り、束ねていく。
「はいヤシロ」
「ふえ…?!」
花子から突然、ミニブーケを渡され戸惑っていると、グッと肩を抱き寄せられ、さらに戸惑いを隠せない寧々。
ブーケから花子の方に視線を向ければ、花子の顔が一気に近づいて来て寧々の頬に柔らかい感触が触れる。
「今日もご苦労様。午後も気をつけてね」
「なっ……なっ…………!?」
「午後も頑張れるように、オマジナイ♡」
「ヤシロは隙だらけで、俺心配だなあ」とクツクツ笑い、上機嫌な花子とは裏腹に、寧々は頬を真っ赤に染め上げると、「ゆっ、油断してたからだもん!」と声を荒げ、頬をおさえた。
寧々は「それじゃあ花子くん、気をつけてね!」と一言残し、店の外に出ると、ミニパトカーに乗り込みドアを勢いよく閉め、そのまま走り去ってしまった。
「……逃げられちゃった」
花子がふうと小さくため息をつき、肩をすくめると、「アハハ、何してんのあまね!」と花子と同じ顔をした少年が店の奥から現れる。
「……見てたのつかさ」
「突然女の子にチューしてるから俺びっくりしちゃった!あの男にヤキモチ?」
「………違うよ」
「ふーん、まあいいけど!…ねえ、あれがあまねの言ってたヤシロって子?」
「そうそう」
「へー!付き合ってるの?」
「だとよかったけどね…」
花子ははぁと小さくため息をついた。
「チューしてたから付き合ってるのかと思った!」
ケラケラとあっけらかんと笑うつかさに、ハハハと苦笑しながら、花子は窓の外に小さく見えるミニパトカーに視線を向けた。
「まあ、もう少し……かな」
早く自分のことを想ってくれるようになればいいのに、そう思いながら花子は、今日も彼女が無事でありますように、と祈るように天を仰いだ。