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    ふきのとー

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    エクバド
    ホワイトデー

    夕焼けのマカロン 3月14日、日中は日差しが暖かいと感じる日が多くなってきたけれども夕方はまだまだ冷える。その為か、日没にはまだ時間があるというのに公園から子どもたちの姿は早々に消えていた。
     わざわざそこにバードはエクスを呼び出した。
     バレンタインのエクスの「チョコクリーム寿司」に対して、ホワイトデーのお返しを準備したからだ。
     わざわざ外で待ち合わせなどせずとも、帰る場所は同じなのだからそこで渡せば効率は良いけれども、いつもの差し入れではなく特別なお返しだったから、ちゃんと雰囲気を作って渡したかったのだ。
    「我ながら浮かれてるよな」とバードはひとりごちる。エクスと恋人になってから初めてのホワイトデー。いつかこの日を振り返ったとき、ただの記憶ではなく特別な思い出にしたい、だなんて。
     約束の時間が近づき、ドキドキしている心臓を抑えて深呼吸した。
     もっとロマンチックな演出をマルチならば幾らでも思い付くことができただろう。自分ではこれで精一杯だ。その精一杯でエクスを喜ばすぞ、改めて決意する。そのタイミングでXの仮面を被った男が公園の入り口に現れた。

    「やっほー、バード」

     予めホワイトデーのプレゼントを渡すことは伝えていたからか、足取り軽く約束の時間より早めにやって来た。
     相変わらず彼が楽しいと思うことには行動が早い。何となくそうなるんじゃないかと予想していたバードは苦笑した。
     バードが促し、二人で並んでベンチに座る。ウキウキと、遠慮なくバードの手元を仮面越しに凝視してくるので、早速青い包装紙でラッピングした小さな箱を少し得意気に手渡した。

    「エクス、これホワイトデーのお返し」
    「やったぁ、バードありがとう~!」

     バードが用意してきたのは、手作りのマカロンだ。甘いもの全般が好きなエクスは箱を開けた途端に目を輝かせた。さっそく仮面のフェイスシールド部分を僅かに開け、マカロンを一口かじる。

    「んんん、おおおおおっ」

     エクスの目がシールド越しにキラリと光った。

    「 中身がアンコクリーム寿司だ!」
    「マカロンの生地に上手く挟むのに苦労したよ」
    「さっすがバード、僕の好みドンピシャだよ!」

     幸せそうに咀嚼するエクスを見て、バードの胸がウズウズした。口角が上がるのを止められない。こんなに喜んでもらえたら、初めての難しかったマカロン作りも頑張ったかいがあったというものだ。

    「あー、もう最後の一個だ……」

     食欲のままに食べ進めたらしい。箱いっぱいにあったはずのマカロンはあっという間にエクスが摘まんでいるもので最後になった。
     エクスは残念そうな声を出してから突然、

    「そうだ、また作ってよ!」

     明るく無邪気にお願いしてくる。
     気にいってもらえて更に嬉しくなりながらも冷静に返す。

    「簡単に言うけど、マカロンって作るの結構大変なんだからな」
    「じゃあ僕も手伝うから!」

     バードは内心「またオレが頑張る羽目になりそうだ」とは思ったが、「バードと一緒なら、お菓子作りも楽しいよ」とエクスが続いて言ったので

    「……まあ、エクスがちゃんと手伝うなら」

     照れ隠しで鼻の頭を掻きつつ了承した。
     自分と一緒なら楽しいと、言ってくれたことに彼への愛しさが溢れて止まらない。茜色に染まっていく公園で、熱を帯びた己の頬も赤いだろうなと自覚しつつ、堪えきれずに破顔した。

    「っ」

     小さく、エクスから息を飲む音が聞こえた気がした。

    「エクス?」

     仮面から伸びてる首筋が、夕焼けのせいかうっすらと赤い。エクスは指で摘まんだままの最後のマカロンをじっと見つめて

    「……ねぇバード、もうちょっとここにいようよ」
    「ああいいぜ。あ、あそこにスタジアムがあるからバトルするか?」
    「ううん、今はいい」
    「え、ベイバトルと寿司しか脳にないエクスが!? まさかマカロンに変なものが入っちゃってた!?」
    「ぷ、なにそれ」

     エクスは他人事のように吹き出し、大袈裟に驚くバードの手を取り、己の仮面を外して脇に置いた。「誰かが見てたら」と慌てるバードに向けて、いつもより大人っぽい雰囲気でエクスは笑う。バードは声が詰まった。
     
    「もうちょっとここで、僕といて?」

     そして最後のマカロンを半分に割って、バードの口に押し込んだ。口のなかに広がる甘さと僅かな酸っぱさ。エクスは満足そうに残り半分のマカロンを頬張った。
     滑り台もブランコも、すっかり茜色に染まり、砂場をカラカラと乾いた風が通り抜けていく。
     エクスが満足そうにマカロンを咀嚼する姿に、もうバードは何も言えない。さっきよりも激しく踊る胸を押さえ、いつかこの日を振り返るそのときにはこの味も共に思い出すのだろう、その事だけは確かに分かった。


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