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    kesyo_0310

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    ふみ天SS九本目「やがて明く夜」
    ちょっと直す~~???

    #ふみ天SS習作
    fumitenSsStudy

    やがて明く夜 夜の河川敷に、オレンジ色のブルゾンが溶け込むように座り込んでいた。
     天彦は足を止めると、薄く息を吐き出した。まだ肌寒さが残る季節だ。吐き出した息は、空気をほんの少しだけ白く染めながら藍色の夜空に溶けていく。一瞬思案して、天彦は河川敷に降りて行った。
    「ここにいらしたんですね」
    ふみやの背中に声を掛け、ゆっくりと近付く。おもむろに、ふみやが振り返った。いつもと変わらない、感情の読めない表情。気だるげな紫色の瞳と目が合った。
    「もう夕飯だろ。何しに来たんだ?」
     ふみやはいつもと変わらない調子で言いながら、また河川敷へと目を向けた。暗い水面に、中途半端な月が形を崩しながら揺蕩っている。
    「お夕飯だからですよ」
     言いながら、天彦はふみやの隣に腰かける。ふみやがこちらに顔を向けたが、特に咎める様子も無く、また川に視線を投げた。そんな彼の横顔を天彦は黙って見つめた。眉尻は少し下がり、睫毛が伏せられる。口数の少なさはいつもと変わらないが、ふみやは膝を抱え両手を所在無げに弄んでいた。
    「……ご飯って、一緒に食べた方がセクシーじゃないですか」
     ふみやの表情を確かめるように、言葉を紡ぐ。彼の感情は依然として読めない。だが、夜の河川敷に佇んでいるということは、きっと何かがあったのだろう。天彦も両膝を抱えながらふみやのすっかり赤く冷えた鼻先を見つめた。一体いつからここにいたのだろうか。
     ふみやが息を吐き出した。重そうな白い息は凍てつく夜風に流れていく。
    「……夜明けをさ、待ってたんだ」
     ぽつりとふみやが声を漏らした。耳を澄ましていないと川のせせらぎに消えて行きそうなほど、彼にしてはかすかな声だった。まるで何かに祈るような、震える声に聞こえた。
     呟いて、ふみやが目を伏せた。紫色の瞳が、揺らいだ気がした。
     何か悩みごとでも、と言いそうになって、天彦は口を噤んだ。大人びて見えても、中身は年相応に十九歳の青年なのだろう。こうして夜空に馳せる気持ちも、その思いが誰にも明け渡せないものであることも、想像に容易い。
    「では待ちましょうか、一緒に」
     天彦の声も、風に乗って流れて行った。自分でも、気を付けていないと聞き逃しそうな声だった。
    「え」
     しかし、ふみやにはちゃんと届いていたようだ。彼は紫色の瞳をいつになく丸くして、天彦を見つめてきた。驚いている、とよく分かる表情だ。
     天彦は少し口角を緩めて立ち上がった。ひとつ伸びをして、深呼吸した。大きく息を吸い込むと、冷えた空気が肺を満たした。
    「ここは冷えますから、天彦の寝室なんていかがです? 添い寝をしながら……」
     こちらの様子を伺っている彼に手を伸ばした。ふみやが一瞬視線を揺らがせる。猫みたいだ、と思った。
    「夜明けを待つのも、一緒の方がセクシーなの?」
     彼の静かな問いかけに、天彦は笑ってみせた。
    「ええ、もちろんです」
     ふみやはそっか、と漏らしながら天彦の手を掴んできた。声音は少し和らいでいた。立ち上がって、ふみやは天彦と同じように伸びをして、深呼吸する。
     腹減ったな、とふみやが笑った。



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    osakananooniku_

    DONE横書き版 boostのおまけでした ありがとうございました
    パルデア旅行記、一日目地下鉄と飛行機とタクシーを乗り継いで半日。初めてのパルデアの空はイッシュのそれより高く広く、心なしか青く澄んで見える。

    重厚な門を押し開いた先はまず上り坂だった。それを上った先には階段。辿り着いた賑やかな広場の遠く向こうにはこれまた長い階段が見える。踏みしめる地面の高さにつられるように気分が上向いていくスグリとは違い、同行者のテンションは下がっていく一方だ。

    「げえ、あれも上んのかよ」
    「バトルコート、写真で見るよりわや綺麗! 早くアカデミーさ行って今日の使用申請出そう!」
    「おいおい、休憩させてくれぃ……」
    「んっとに体力ねえな」
    ここまで乗り換えでしか歩いていないし荷物だってスグリが半分以上持っているというのに、Tシャツ一枚にジーンズ姿のカキツバタはこの世の終わりみたいな顔で遠くの学舎を見上げている。仕方ないのでもうひとつ追加で荷物を持ってやりながら、スグリは辺りを見回した。季節の花が身を寄せ合うように植わった花壇がぐるりと囲む涼しげな噴水。目にも鮮やかな色とりどりのタイル。その上で楽器を演奏する人。道行きながらそれを聞く人。見慣れた広さの長方形のラインの上を、幼い子供が駆けていく。
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