熱で魘されるたびに見る、お決まりの夢がある。
火照って怠い意識の中、見慣れた天井はぐにゃぐにゃ歪んでいる。夢の中の俺も、体調を崩していた。小学生のころ、一週間くらい寝込んでいたからそれだろう。時折咳が出て、身体の節々が痛んだ。
もしかしたらこのまま死んでしまうのかもしれない。
熱でぼんやりする意識の中、そんな不安に苛まれる。そのたびに俺は布団の隣をまさぐった。俺が手を伸ばすと、母さんが手を握り返してくれた。
「だいじょうぶ」
柔らかい声が降り注ぐ。咳き込むたびに、優しい手が俺の背を撫でる。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。そばにいるからお眠りなさい」
その声に、いつも何か返事をしたような気がするが、すぐに決まって眠るのだった。
お決まりの夢から覚めた後も、俺はぼんやりと天井を眺めていた。真っ白な二〇六号室の天井だ。まだ熱があるらしい、視界が歪む。半身を起こすと眩暈がした。いつの間に眠っていたのだろう、と記憶を手繰り寄せてみる。
確かリビングで理解たちから詰め寄られていたはずだった。なんだかんだで事なきを得たが、その後の記憶はない。ただ、お決まりの夢を見た気がした。遠い昔の記憶の夢だ。本当にあったことのはずだが、そうであってほしかったと願っているだけの偽りのような気もしていた。
部屋を見回す。あれから何日が経ったんだろう。窓から射し込む陽射しは眩しいくらいに明るい。もう何週間も寝ているような気もするし、まだ一時間も経っていないような気もする。夢の中も、今と同じような昼下がりだった。母さんの優しい声が聞こえていたはずだが、全然思い出せない。思い出せないのは、それが俺の願望の造り出した紛い物だからなんだろうか。
辺りを見回していると、ベッド脇からワインレッドの髪が見えた。
「ふみやさん……? もう起きて大丈夫なんですか?」
俺が手を伸ばすと同時に、天彦が顔を上げた。天彦はベッド傍の床に座って、凭れるようにベッドに頭を乗せていた。
「なんでそんなとこにいるの?」
「添い寝は……お嫌だとおっしゃっていたでしょう? だから……」
天彦が顔を曇らせた。俺はふわふわ揺れる髪に手を伸ばした。
「あれ嘘だよ」
「ええ!? でもキモいっておっしゃったじゃないですか!」
「それは……その、あれだよ……ほら」
「天彦ショックだったんですよ!?」
「悪かったって。そんなことより今日は添い寝してくれないのか?」
そう言うと、天彦は屈託なく笑った。
「しょうがない坊やですね。寂しくなっちゃったんですか?」
ふふ、と声を漏らして、天彦が布団に入り込んでくるから、俺も寝転がった。
「だいじょうぶですよ。天彦が傍にいますから、ゆっくりお眠りなさい」
「……どこにも行かないでね」
そう返すと、天彦が強く抱きしめてきた。目を閉じるといつの間にか眠ったみたいだった。
END