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    パニシキの馴れ初め二次創作です

    コウソウ「「俺達のズボン、忘れられて無いといいなぁ」」凪いだ水面に、煌めいた何かが投げ込まれ、奥底に緩く沈んでいく感覚がした。


     何気ない、いつも通りの草原に風が吹き、新しく手にしたケープの裾をはためかせる。
    目の前に立っていた友人が怪訝そうな顔で風を一瞬睨むが、すぐにため息をついて前に向き直る。

    「シキ、終わったー?」
    「終わったー?」
    「あと少しだから、もうちょい待って」

    持ってきていたピンで仮止めをして、数歩下がれば、その完璧な調整に我ながら満足して鼻を鳴らす。
    遠くで鳥の声と、誰かが弾くピアノが響く穏やかな昼下がり
    もういいよ、と答えれば「やっと終わった」と言いたげな表情がこちらを見て
    ぽてぽてと祠に向かってコウとソウが歩き出していった。

     サイズが微妙にあっていないように見えたズボンの裾上げを申し出たのは自分からだった。
    「「別にいいよ〜」」と渋るコウソウを半ば無理やり言いくるめ、ほとんど自己満足の為に長さを微調節していたが、格闘すること数十分ようやく納得いく丈に出来たのだ。

     集中していたせいで、無意識に力のこもった肩をぐっと伸ばし、胸の底からこぼれた溜め息を澄んだ空に吐く。
    響くピアノの音に、いつの間にか鉄琴の音が加わっている。その音楽をぼんやりと聞いていると、唐突に二組のズボンが差し出され、風に揺れた。

    「はーい。じゃあ、終わったら渡すから」
    「「別に急がなくて良いからね〜」」
    「最近、ケープの修繕依頼も無いから、ちょっと暇でさ」
    「ふーん」

    ほとんど興味も無さそうに相槌を打った2人だったが、こちらを見ていた目線が、不意に逸れ、次第に顔が綻んだ。
    つられて振り返れば、彼等の恋星が少し遠くからこちらに手を振っている。
    「金歯だ!」
    「金歯ちゃんだ〜!」
    「おー、取り込み中か?」
    自分を通り過ぎて、駆け寄っていく背中に距離を空けてついていけば
    目の前で、コウとソウが金歯さんの懐に突っ込んでいく。

    少し前まで、誰も寄せ付けないような雰囲気をまとい、他人に心を許すことが少なかった2人からは想像も出来ない光景だがーーその幸せそうな顔に、安心とほんの少しの寂しさに口元が緩む。

    「俺が無理やり、こいつらのズボンの調整してただけなので……もう大丈夫ですよ」
    「そうなのか、ありがとな」
    「「ありがとね」」
    「いえいえ」
    手に持ったズボンを持ち直し、これ以上彼等の時間を邪魔することも無いだろうと頭を下げる。
    「じゃあ、俺はこれで」
    「あ〜、シキくん……悪いんだが、ちょっと良いか?」
    思いがけず呼び止められ、駆け出そうとした足が絡れる、数歩ふらつき
    なんとか向き直ると目の前に一本のキャンドルが差し出されていた。

     すらりと目の前に立つ黒い影を見上げ、呆気に取られながらもキャンドルの光を合わせれば
    鮮やかな赤色に身を包み、風に煽られて揺れる三つ編みが見えた。

    「すまないな!!!!!!君が、シキくんか!!!!!!」

    こちらが何かを答える前に、兎面を外しこちらを真っ直ぐ見る瞳とパチリと目があう
    端正に整った顔立ちと、淡く光を灯すような金色の瞳、そしてそれを切り裂くように伸びる傷
    耳元のピアスに合わせて、ふわりと赤色のケープが揺れ
    凛として佇まいに、思わず息が止まる。
    そして、目があったまま、ニコリと笑われた瞬間
    凪いだ水面に、煌めいた何かが投げ込まれ、奥底に沈んでいく感覚がした。

    「はじめまして、パニカだ!!!!!!!!」
    「うるせぇ〜、こいつがシキくんにちょっと頼み事したいらしくてさ」

    コウソウを両側に引っ付けたまま、金歯さんが続けるが、正直、何も頭に入ってこないまま、胸の奥でザワザワと揺れる何かに戸惑うばかりだった。

    「実は、仕事の都合上ケープがすぐにボロボロになってしまってな!!!!!君が、補修が得意という話を聞いて頼みにきたんだ!!!!!迷惑で無ければ、頼まれてくれないか?勿論、お礼はさせてもらうぞ!!!!」

    低く聞き取りやすい声と、笑った顔から目が離せないまま、つけたままの仮面の下の顔がじわじわと熱くなっていくのがハッキリとわかった。
    答えようにも、激しく揺さぶられた水面が喉の奥で言葉を塞ぎ、一つも出てこないまま、冷や汗と熱い頬をどうすれば良いのかわからず、あわあわと手元と彷徨わせる。

    「突然で、迷惑だったか……?」
    そう、静かに告げられた声に
    「とんでもないです!!」と自分でも驚く程に大きな声が出てしまった。
    驚く相手の表情に羞恥心がじわじわと足元から這い寄り、落ち着かない。
    「す、すみません、あの…最近は特に頼まれごとも無いので全然大丈夫です!」
    誤魔化すように言葉を続けると、目の前に立った彼の笑みがより一層に明るくなる。
    「本当か!ありがとう!!!!」

     もしかしたら鼓動の音が、ここにいる全員にバレてしまっているのでは?と感じる程に、心臓が痛いほどに鳴っている。浮き足立った感覚の中、不意に身体がふわりと浮き、状況を理解する前に、すとんと再び地面に足がつく。
     自分が彼に抱きしめられ、ふわりと一周まわされたという事実に気付くまで時間がかかり、数秒の思考停止の後に、腹の底から一気に駆け上がる熱に頭が沸騰する。

    「では申し訳無いが、とりあえず2枚だけお願いできるか?」
    「はい、お預かりしまう!!!では、終わり次第またご連絡しますので!!!!それでは失礼します!!!!!!」
    差し出された紙袋を受け取り、そのまま頭を下げて転がるように駆け出す。
    空中に身を躍らせ飛び立った後に、草原の方に飛ぶよりもホームに戻った方が早い事に気付いたがそんな事はどうでも良かった。
    相変わらず耳元で聞こえるほど、自分の鼓動の音がうるさい上に、吹き付ける風は頬の熱を攫っていってくれない。
    どうしようもなく走り出したいような、叫び出したいような感情に戸惑いながら
    紙袋を握る手に、ぐっと力を込めた。

    ーーーーーーーーーーーーーー

    「もう行ってしまった……。やはり突然だったから、何か不快に思わせてしまったかもしれんな」
    「「あらあら、まぁまぁ」」
    「おやおや、まぁまぁ」

    取り残された草原のホームに響いていたピアノの演奏が止まり
    拍手の音がパチパチと緩く聞こえていた。
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