一緒にお風呂に入りたいラギ監シリーズ07『ふふっ。そんなことがあったんですね。』
昼休み。いつもの木陰へやってくると、ユウくんが話している声が聞こえた。
楽しそうに話してるけど…一体誰と話しているのか。
『わぁ~!空からだと、そんなところまで見えるんですね!』
「……げっ!!」
ユウくんと話している…鳥をみて、オレは反射的に隠れてしまった。
というのも、オレはなぜか鳥類とは相性が悪い。
今、ユウくんと楽しく話しているのは、小さな鳥だけど。
多分、オレとは相性が悪い…と思う。
『私も空を飛んでみたいなぁ~。』
『君は魔法が使えるんじゃないのかい?』
『えっと…残念ながら…。』
ってかよく見りゃあいつ、雄じゃん。
なんか急に腹が立ってきた。今すぐユウくんの肩から飛び去って欲しい。
あーあ、こんなことならユウくんに鳥の言葉なんて教えるんじゃなかった。
それに。
「空なら、オレが箒に乗せて、連れていってあげるッスよ。」
「ラギー先輩!」
いつも通りの調子でユウくんに話しかける。
もちろんその一方で、小鳥には殺気を放ちながら近づく。
『というわけで。オレが連れていくから、安心して。』
『ふんっ。』
小鳥は不満そうな顔をしながら、ユウくんの肩から飛び去っていった。
ユウくんはその後ろ姿に向かって呑気に手を振る。
「行っちゃった…。ラギー先輩、なんて言ったんですか?」
「んー?…またね~ってさ。」
早口だったからか、ユウくんには分からなかったらしく。
オレは適当にウソをついてごまかした。
まぁ…また、なんてないけどね。
「それより、なんで空を飛んでみたいんスか?」
「それはですね…。」
ユウくんはもったいぶって、ふふっと笑う。
…なんてかわいい顔して笑うんスか。オレの彼女は。
「桜が見たいんです。」
「へ?桜?」
「はい!」
桜って…あれだよな。
ピンク色の…すぐに散っちゃうやつ。
以前、掃除のバイトしてた時、掃いても掃いても散ってきて…めんどくさかったことを思い出す。
あれのどこがいいんだか。
「ちょうど今、満開で見頃なんだそうですよ。方角的にいうと…あっちの方ですって。」
「へ、へぇ…。」
キラキラと目を輝かせていうユウくんはすごくかわいい、けど。
…やっぱり、なんでそんなに見たいのか、オレには分からない。
「私はいつも下から見上げるばかりだけど…空から見ると、すごくキレイだって。さっきの小鳥さんが教えてくれたんです。」
ふーん、なるほどね。
確かに、ユウくんの世界には魔法はないから、空からの景色なんて見たことないだろう。
さっきの小鳥が何を言ったかは知らないけど…ユウくんにしたら夢のような景色が広がっていると思っているのかもしれない。
それなら。
「いいッスよ。オレの箒に乗せてあげる。」
「わぁっ!ありがとうございます!」
「どーいたしまして。じゃあ…授業終わってから、またここに集合ね。」
「はい!楽しみにしています!」
ユウくんはオレの言葉を聞いて、それはもう嬉しそうに笑った。
まーたそんなかわいい顔しちゃって。
いいんスかね?詳細を確認しなくて。
…ま、オレは得するからいっか。
「ラギー先輩?これ…逆じゃないですか?」
オレはユウくんを後ろから抱き込むようにして箒にまたがる。
もちろん、わざと体をぴったりとくっつけて。
後ろに乗るのを想像していたのか、ユウくんは戸惑っていて。
オレが例え彼女であっても、ただ乗せるだけなんてあるわけないって、そろそろ察して欲しいッス。
「こっちのが安全だし、オレも安心するし。…いいでしょ?」
耳にふきかけるように言えば、ちらっと見えた耳が真っ赤になっていて。
かわいいなぁ…。
「じゃ、しっかりつかまって。」
「っ!…はい。」
オレはユウくんの小さな手を包むようにして柄を握る。
重なった手がいつもより少しあったかいのは…気づかないフリしてあげるッスよ。
深呼吸して魔力を込めると、箒はふわっと宙に浮きはじめた。
「わわっ、う、浮いてる…!!」
「こんなんで驚くのは、まだ早いッスよ。」
ユウくんが怖がってもいけないから、あまりスピードは出さないように。
安全運転で高度をあげていった。
「わぁ~!本当に空から見ると全然違うんですね!」
あの小鳥が適当なことを言ったのか、それともユウくんの記憶違いだったのか…。
聞いた方向に桜は一本もなくて、探し回っちまったけど。
無事に桜がたくさんある場所をみつけることができた。
「へぇ…。いつも急いでてあんまり気にしてなかったけど。こうして見るとキレイなもんスね。」
「ふふふっ。…本当にキレイ。」
しばらくふたりで空からの景色を眺める。
ちょうど夕陽が沈み始めるところで、空の色が変わりはじめていて。
桜の木も、少しずつ色が濃くなっていく。
「夕焼けも下から見るのとは全然違う…。」
「そーッスね。」
言われながらオレは故郷を思い出していた。
とはいえ、こことは違ってなーんもないところだけど。
…いつか、ユウくんを連れて行きたいなって。
とぼんやりしていた、その時。
強めの風が吹き抜けて、箒が少しぐらついてしまった。
「ごめん、ユウくん!大丈夫だっ」
「わぁ…!ラギー先輩!!あれ!あっち見てください!」
焦るオレとは対照的に、ユウくんは嬉しそうにどこかを見ていて。
オレはユウくんの視線の先をゆっくりと追ってみる。
桜の花びらが風に乗って、吹雪のように空高く舞っていて。
ひらひら舞うその一つひとつが、夕陽をうけて色を変えて。
まるでキラキラと輝く星のようだった。
「すごい…!すごいです!」
「シシシッ。そんなにはしゃいじゃって。」
かわいい…。
あんなにさっきまで照れてたのに、忘れたかのようにキラキラした瞳でオレの方へ振り向いて。
鼻先がくっついちまうんじゃないかってくらい、顔が近くにある。
…ガマンできずにオレはユウくんの唇を奪った。
「っ!ラギー先輩!」
「今日のお代ってことで。いいッスよね?」
「~~~っ!!!」
「ほら、しっかりつかまって。このままオンボロ寮まで送って行くッスよ。」
急に大人しくなったユウくんを乗せて、少し遠回りしながらオンボロ寮へ。
途中で調子を取り戻したのか、ユウくんはあれを見てこれを見てと、またさんざんはしゃいで。
子どもみたいでかわいいけど…なんでそんなに喜べるんだか。
まぁあの小鳥には少しだけ感謝してあげてもいいッスかね。
こんなにかわいいユウくんを見られたし、ね。