散る散る満ちる 東京は春が早い。
三月がはじまって数日のことだ。蓮が見上げた空が澄んだ水色をしていたので、しばらくそのまま眺めている。ずいぶんときれいだったから、思わず見入ってしまっていた。
昼さがり、公園のベンチに座っていればさんさんと日がさしてきて、ぽかぽかとあたたかい。
しろっぽくてまぶしい、けれどやさしい光に照らされていれば、眠たくなってくる。吹いてくる風は粉っぽくて、鼻先をかすめるたび、ふわふわの綿にくすぐられているような心地になった。ひらたく言うとむずがゆい。さっきから、くしゃみばっかり出てしまう。
気候だけでなく、公園を見れば、どこもかしこも春めいていた。花壇のそばで蝶々がひらひらと飛んでいるし、生垣は若草色の芽を生やしている。冬のころの公園は全体的に茶色だったのに、いつの間にか緑にうつり変わっていた。
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