ひまわりが似合う ひまわりは揺れる。
万浬の視界には、あざやかな黄色の花たちがならんでいた。そよそよとたよりなく吹く風にのって、太陽を模したような大きな花がゆらゆらと揺られているのがきれいだ。
駅までの道、通りかかった小学校の前、花壇にはひまわりがひしめきあいながら咲いている。目を奪われてしまう、万浬は思わず足を止めていた。あかるい黄色の花びらがあざやかだ。まるで真夏の太陽を模したすがた。まぶしく感じてしまって、目をすがめている。
「……あれ? 万浬?」
少し先を歩いていってしまった蓮が、振り返っている。これは万浬がわるい。立ち止まったのに、かれに、なんにも言わなかったからだ。蓮は不思議そうな顔をしつつ、万浬のところまで戻ってきた。どうかしたのかとたずねてくる。
「あ、ごめんごめん、蓮くん。……ひまわり見てたんだ」
万浬はひまわりを指さしていた。かれの目も、万浬の指の先にあるひまわりをとらえたようだ。前を通ったのに全然気がつかなかった、きれいだねえ、だなんて、ずいぶんとのんびりとした口調で言うから万浬も、そうだねえ、とこれまたのんびりとしながら答えてしまう。なんだか意味のない会話で、しかもそれっきり途切れてしまった。たいした意味がないからしかたない。さらに、じわじわと蝉が鳴いているから変に間が持ってしまっている。太陽の光を浴びるひまわりをずっと見ていられるような気さえした。……とはいえ、真昼の、たいへん日当たりのよい場所にずっと居続けるなんてつらい。そもそも今は移動中で、こんなところで足を止めているわけにもいかなかった。自分から立ち止まっておいて、棚上げもいいところではあるが。蓮くんそろそろ行こっか、そう言って、かれの服の裾を軽く引っ張ったとき。
「……万浬ってひまわりが似合うね」
蓮は、万浬と、目の前の花を交互に見てから言う。万浬は面食らってしまったが、その理由にもすぐに思い至っていた。
「ねー、それって俺の髪の色が似てるからそう思うんじゃない?」
万浬のことばに図星なのか、蓮はうっと、少し言葉に詰まったようだったが、気を取り直したようで、
「それもあるかもしれないけど……、でもなんか合ってるよ。すごく似合うなって思った」
「……そう?」
結構ストレートなほめことばに聞こえる。本当にそう?と何度もたずねてしまったが、そのたびに蓮は、そうそう、そうだよ、とまじめくさった顔で言う。べたべたと褒めてくれる。蓮はにへらっと照れくさそうに笑っていて、そんな様を見ていたら、万浬だって照れる。
「……もー、そろそろ行かない? このまんま、ずっとここにいるのも嫌じゃん」
「あ、そうだね。……デートだもんねえ」
蓮はさらに照れたようにえへへ、と言って笑う。ふにゃっと表情をやわらかくして万浬の手を取る。日当たりのいい場所にいたせいか、手のひらは熱くてじめっと汗っぽさがあるけれど、離したくはならないのが不思議。
じゃあ行こうか万浬。そう言って、蓮は歩き出すので、万浬もついていく。駅までの道を再び行くのだった。
蓮に手を引かれながらも振り返る。
少し遠くなったものの、目にうつるのは、明るくてまぶしくてきれいな花。
あの花に似合うのならば、蓮にそう言ってもらえるのならば、もちろん悪い気なんてしなかった。