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    アメチャヌ

    ガムリチャか捏造家族かガムリチャ前提の何か。
    たまに外伝じじちち(バ祖父×若父上)

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    アメチャヌ

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    悪魔の年少さんバ×人間リチャ。センセのハロウィン絵ネタ。
    12月なのにまだだらだらハロウィン書いてることが悲しくなってきた……

    魔界の幼稚園、通称マガさま幼稚園は、年に一度の大イベントを迎えていた。小さな魔物たちが立派な大人になるための大切な園外活動。ハロウィンの遠足だ。
    園児たちは普段お揃いのスモックを着ているが、今日はみなそれぞれの種族の正装で集まっている。リュックの代わりに籐かごを持って、帽子の角度を気にしたり、マントを揺らしてみたり、そわそわと落ち着きがない。
    秋の遠足は数ある行事の中でも特別だった。春の遠足で行った、引き抜いたら叫び声を上げる植物だらけの森には行かないし、夏の遠足で行った、歌声を聴いてはいけない冷たい河にもいかない。魔界の各名所よりも近くて遠い人間の住む村へ行くのだ。それも、こわぁい園長先生は同行しない。付き添いはシルバー人材センターから派遣された『おじい』だけ。いつもの先生のように先頭に立って歩いたりはせず、園児たちが人間の町に着いたら姿を消してしまう。残された園児たちは人間のこどもに紛れて玄関の前にカボチャを置いている家を周り、お菓子をもらう。正体を知られずに上手く人間に溶け込めるか。それが今回の遠足の目的だった。
    魔物はどの種族も三歳を過ぎれば大人として扱われる。生まれてすぐに自分の足で立つことができ、言葉も喋れるため、ほとんどの者が幼稚園に通った。一年目には自分たちと人間の違いを学び、二年目になると人間界での振る舞い方を厳しくしつけられる。三年目はさらに魔界の紳士淑女に近づくべく、年少の魔物を助けながら礼儀作法を教わる。魔界に相応しい容赦ない教育の合間に、遊具で遊んで、昼寝をして、おやつを食べて、また遊ぶ。そうして園での生活を経てこどもたちは立派な一人前と認められるのだ。
    ハロウィンの遠足に参加するのは、きまって二年目と三年目の園児だった。
    「さあ、こどもたち。ハンカチは持ったかしら? トイレは済ませた? 約束事を忘れてはいませんね? 人間に本当の姿を見せてはいけません。自ら打ち明けるなどもってのほかです。教会には決して近付かないこと。守れなかった者はおしおきです。その愛らしいお尻が倍に腫れ上がると思いなさい。合言葉はきちんと覚えているでしょうね?」
    「「「トリックオアトリート!」」」
    「よろしい。ではお行きなさい」
    吸血鬼が、魔女が、白いおばけが歩くうしろを、ちいさな悪魔が追いかける。小走りになるたび、蝙蝠に似た翼がせわしなく動いた。
    「バッキンガム、町につくまで手をつなぎましょうか?」
    三角帽子を被った魔女のアンの申し出に、バッキンガムと呼ばれた園児はツンと顎をそらした。
    「いいや、けっこうだ。あくまはがいけんのせいちょうがおそいが、これでも、もうにさいになる。てをひかれてあるくほど、あかちゃんではない」
    「そう? 気にさわったならごめんなさい」
    「ふん、どこからどう見ても赤ちゃんだけどな!」
    「なんだと! エドワード! おまえだってあかちゃんに『け』がはえたていどじゃないか!」
    「もう、ふたりとも! ケンカはだめよ! えんちょう先生に怒られても知らないんだから!」
    ぽかすかと殴りあっていた二匹の魔物は、アンの言葉に慌てて振り上げていたこぶしをおろす。如何なる理由があろうと喧嘩両成敗の園長先生は、真っ赤な唇でにこりと笑い、けんかをする園児に容赦ない鉄槌を下す。何度もお尻をぶたれているバッキンガムとエドワードは、痛みと恐怖を思い出し、空っぽの籐かごを背後に回してそれとなくお尻を隠しながら「けんかなんてしていないぞ」「そうだ、おれたちはなかよしだ」と必死にごまかした。

    顔、頭、腕、いたるところに包帯を巻きつけたミイラ男のおじいが落ち葉を踏み鳴らす。細く曲がりくねった道は色付いた木々に左右を塞がれている。
    「トンネルみたいね」
    頭上を見上げていたアンがぽつりと呟く。バッキンガムも真似して顔を上に向けると、赤や黄色や黄緑に染まった葉や、まだ色が変わる前の緑が目に飛び込んできた。伸びた枝が魔界のどんよりとした空を覆い隠している。アンの言う通り、トンネルのようだった。
    「はぐれてしまうよ。ちゃんと付いてきて」
    立ち止まったバッキンガムに抑揚の薄いおじいの声が飛ぶ。はっとして顔を戻すと、ミイラ男も、吸血鬼も、魔女も、他の魔物の子も、皆、遥か前方にいた。慌てて駆け寄り、列に加わる。おじいは小さな頭をひとつずつ指差しで確認しながら数えると、再び歩を進めた。



    「トリックオアトリート!」
    「お菓子くれなきゃいたずらするぞ!」
    真っ黒なおばけやカボチャの帽子を被った人間のこどもに紛れて合言葉を口にする。今宵はハロウィン。キバやツノがあっても誰も気にしないし、翼を出したままでも驚かない。老夫婦も、赤ん坊を抱いた母親も、疑うことなく魔物のこどもたちにお菓子を手渡した。
    成果は上々。かごはあっという間にいっぱいになった。狙いを定めた家は一通り回り終え、あとは村の中央にある広場だけだ。そこでは毎年、村長一家がお菓子を配っているらしい。屋敷は少し離れた場所にあるため、こどもたちのためにたくさんの焼き菓子を持って配りに来てくれるのだと最後に訊ねた家の大人に教えられた。
    エドワードもアンも、人間のこどもの共に広場へ向かった。バッキンガムも一緒に歩いていたが、獲物の重みに疲れて休憩することに決めた。集合時間はまだ先だし、広場の場所もわかっている。この道をまっすぐ進んで、薔薇がある家を通り過ぎたら右に曲がればいいだけだ。悪魔として生を享けて、もう二歳。この遠足を終えれば一人前と認められる。一匹で行動するなど容易い。
    「これでおれもおとなのなかまいりだ」
    バッキンガムは道端に下したかごを眺めて、満足げに腰に手を当てた。
    色んな紙に包まれたチョコレートに、ぐるぐるうずまきキャンディ。ジャムを挟んだケーキもおいしそうだし、キレイな絵が描かれたクッキーも早く齧ってみたい。
    お菓子の山に顔を近づけ、甘いにおいをたっぷり吸い込む。胸が満たされ、嬉しくなって翼がぴるぴると動く。
    「それは動くのか。随分と凝った仮装だな」
    少しだけ味見してしまおうかとお菓子に手を伸ばした瞬間背後から声を掛けられ、思わず飛び上がる。
    「っ!」
    驚きのあまり、つい悪魔の力を発揮して浮いてしまった。
    園長先生に怒られる前のような気分で振り向くと、後ろにいたのは暗い紫のドレスを着た魔女だった。布をかぶせた大きなかごを持ち、バッキンガムを見下ろしている。
    「お前、親はどうした。はぐれたのか?」
    問いには答えず、歩み寄ってくる女の顔をじっと眺めた。左半分は黒い髪で隠されているが、同じ色の右目は真っ直ぐにバッキンガムをとらえている。大人とは呼べないけれど、一緒にお菓子をもらって回ったこどもたちとも違う。これは『お姉さん』だ。バッキンガムは園で習ったことを思い出した。しかし、この人間は本当にお姉さんだろうか。顔から視線を外し、スカートの裾から靴の爪先までよく観察して、また顔に戻る。大人でもこどもでもない女は『お姉さん』、男は『お兄さん』と教わった。目の前の人間は魔女のドレスを着ている。魔女は女だ。けれど『お姉さん』と呼ぶには何処か違和感があった。
    バッキンガムは引き寄せられるように人間の魔女に近寄った。
    頬も、首も、かごを持つ手も白い。ときどき幼稚園で食べるメレンゲと生クリームのおやつよりも魅力的でおいしそうだ。ついさっきまで堪能していたお菓子のにおいより強く甘いにおいに頭がぼうっとする。羽がそわそわと落ち着きなく揺れてしまうが、止めることができない。それよりもにおいの元が知りたかった。鼻をひくつかせながら足を進めていると布に激突した。ぼわん、と顔を弾かれ、慌てて目の前の何かを掴み、倒れそうになるのを堪える。
    「な、なんだ!?」
    「なんだ、じゃない。それは俺のせりふだ」
    声が降ってきたほうを仰ぎ見ると、呆れたような冷たい夜の色が降ってきた。
    「まったく……お前一人で来たのではないだろう? 大人は一緒じゃないのか?」
    掴んでいたのがスカートだったことに気付き、そっと手を離してうしろに下がる。これから大人になる悪魔にあるまじき失態だ。ほんの数秒とはいえ、我を忘れてしまった。ショックでぼう然としていると、頭に生えるツノとツノのあいだをコツンと叩かれた。
    「聞いているのか、ガキ」
    「ガキじゃない、バッキンガムこうしゃくだ! ……あ」
    「ほう、公爵か……それは失礼致しました」
    「あ、あぁ……ゆるす」
    「それで、親は? 大人はどうした」
    「いない。きょうはおれたちがおとなになるためのえんそくだからな」
    「なら、仲間がいるだろう。どこに行った」
    「さきにひろばにむかっている」
    魔界での爵位を口にしてしまったが、人間は気にしていないようだった。仮装の設定だとでも思ったのだろう。軽く膝を曲げた礼に、バッキンガムは短い腕を胸の前で組んだ。こどもの妄想として扱われるのは腹立たしいが、魔物だと知られてはいけない。しかし相手がバッキンガムを公爵として扱うのなら、魔界同様の態度を見せねば貴族としての名が廃るというものだ。
    先の失態はなかったことにして気分よく答えていると、人間の魔女はため息まじりの声で「つまり迷子か」と呟いた。
    「まいご……だと!? このおれが!?」
    「残念だがな、公爵閣下」
    無情な一言が胸に突き刺さる。
    大人の階段を上がりきったはずなのに迷子扱いされ、ぽっかりと開いた口が塞がらない。
    人間の魔女はバッキンガムを気遣うでもなく、億劫そうに腰に手をあてた。
    「広場への行き方は知っているのか?」
    「とうぜんしっている! このみちをまっすぐで、バラがみえたらみぎだ!」
    「この辺りの子供ではないようだから教えるが、町で薔薇を植えていない家など無いぞ」
    「な……に……」
    「どこも秋薔薇が咲いていただろう? その様子では菓子に夢中で花など目に入らなかったようだが」
    「そんなことは……」
    そんなことはない。玄関までの小道にも、玄関先に置かれたカボチャの隣にも花があったことは覚えている。目を向けなかったことは確かだが、お菓子に夢中になっていたのではない。紛れることに集中していただけだ。
    人間相手に魔界の園児としての事情を話せるわけがなく、バッキンガムは俯いて口を尖らせた。
    しょんぼりと肩を落とすのに合わせて背中の翼も力をなくす。常に雄々しく美しく保たねばならないのに、気にかける余裕を失い、弱りきって垂れ下がってしまった。
    広場に辿り着けず、集合時間に間に合わなかったとしても、魔界に戻る前にはおじいが探し出してくれるはずだ。かごいっぱいにお菓子は貰ったし、人間のこどものように振る舞えた。迷子としてこのまま佇んでいても遠足が失敗で終わるわけではない。正体はばれていないのだから成功として扱われ、大人と認められる。
    だがそんな結末はバッキンガムのプライドが許さない。一人前の悪魔は迷子になどなるわけがないのだ。
    土の道を睨みつけながら、ぐすっと鼻を鳴らす。
    「立派な羽根を付けているのだから泣くな。広場になら連れて行ってやる」
    悔しさに耐えているとすぐ近くから人間の魔女の声が聞こえた。耳に届いた言葉に翼がぴくりと反応する。顔をあげると白い手がバッキンガムへと伸び、途中で止まっていた。
    「なんだ、泣いているかと思ったが、違ったか」
    人間の魔女は少し驚いた表情で手を引くと腕にかけたかごの中からハンカチを取り出し、乱暴な手つきでバッキンガムの鼻を拭った。
    「おい、やめろ、なにをする!」
    「泣いていないなら鼻が出ていたんじゃないか? ぐすぐすしていただろう」
    「だからといって、こどもあつかいするな!」
    「どこからどう見てもガキのくせに、何を言っているんだ……」
    年上の魔物だけでなく人間にまで赤ちゃん扱いされるとは不本意極まりない。首を振って激しく抵抗してようやく解放される。擦られた鼻がひりひりと痛む。
    細く可憐な見た目のわりに、力加減がへたくそだ。バッキンガムは両手で鼻を労わるように撫でた。
    「行くぞ」
    人間の魔女はハンカチを折りたたむとバッキンガムを一瞥し、歩き出す。
    「まて!」
    お菓子が詰まったかごを持ち上げ、慌てて後を追った。

    揺れるスカートの裾に触れないよう、距離をとって歩く。枯葉のように萎れていた翼はすっかりと力を取り戻し、背中で存在を主張していた。動き出しそうになるのを必死に抑えるが、双翼はバッキンガムの意に反して数歩前の後ろ姿に向かって伸びようとする。勢いに負けてよろめくと、気配を察したのか、人間の魔女は肩越しに振り返った。
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