卒業までの予行演習2月14日の朝、炭治郎は今年も煉獄先生に渡すためのチョコを鞄に入れて家を出ようとすると禰󠄀豆子に呼び止められた。

「お兄ちゃん、今年はチョコで大変な事になるだろうから、はい！紙袋！　これに入れて持って帰ってきてね」

いってらっしゃーい、と送り出されてしまったが、一体どういう事だろうか？

炭治郎は去年のバレンタインデーを思い出していた。女子数人からチョコをもらったので、ホワイトデーにお返しにチョコパンを焼いて持っていってあげた。でもそれ以上、特に何もなかったはずなのだが...、禰󠄀豆子に渡された紙袋を使うような事態になるとはととても思えなかった。

しかしこの後、禰󠄀豆子に何故紙袋を渡されたのかわかる事になる...。

休憩時間に入ると、何故か女子達がチョコを炭治郎に渡しにきた。しかも一人や二人ではなく、放課後になる頃には20人近くも渡しにきていた。あまりに多いし、どうも本命チョコではないようだった。

何故こんな事になっているのか気になり、チョコを渡しにきた女子の1人に聞くと、以前、ホワイトデーのお返しに配ったチョコパンが美味しいと噂になり、お返しの欲しい女子達がこぞって義理チョコを渡しに来ているのだということがわかった。

理由がわかってホッとしつつ、全て義理チョコという事に、ちょっと微妙な気分になった。唯一良かった事は、放課後一緒にいた善逸と猪之助にも、炭治郎のついでにと大量に義理チョコが渡され、二人の機嫌が異様によかったことぐらいだろうか。二人とも嬉しそうに帰っていたのが今年は印象的だった。

しかし、去年は煉獄先生に昼休みにこっそりチョコを渡していたのに、今年は女子に囲まれていたため、放課後過ぎても渡せていなかった。

もう下校時間を軽く過ぎてしまった。どこかに煉獄先生がいないか探したが、見つからなかった。せっかく作ったチョコを渡せなかったが仕方ない...、明日渡そう...、何より今日は女子達に囲まれてなんだか疲れた。

紙袋からはみ出るぐらいのチョコを持って、とぼとぼと歩いて帰りかけると、炭治郎！と後ろから声がした。

振り返ると、そこには両手に紙袋を持って、ちょっと疲れた顔をした煉獄先生が立っていた。煉獄も炭治郎同様、紙袋からチョコの箱がはみ出しており、相変わらずのモテっぷりだった。

「炭治郎！ここにいたのか、お互いすごいチョコの量だな！　君がそんなにもらうと妬けてしまうな！」
「煉獄先生も相変わらずのチョコの量ですね」
「ほとんど義理チョコだがな」

お互いのチョコの量と、疲れ切った顔を見て笑ってしまう。

「今日炭治郎に会えてなかったから心配してたんだ。ちょっとだけ時間いいか？」

そう言うと、煉獄は炭治郎の手を握ってズルズルと自分の車まで引きずっていった。
初めて手を握られてドキドキしつつ、車まで連れていかれた。

「ここでちょっと待っててくれ、荷物渡すから」

車を開け、紙袋と仕事鞄を車に入れつつ、車から何か取り出そうとしていた。
荷物？なんだろう？

「あった！ほら、受け取ってくれ！」

そう言って渡されたのは、リボンのついた綺麗な箱だった。所々手作り感があり、既製品ではないようだった。

先生、これ...、もしかして俺のために作ってくれた？？

「いやー、いつも炭治郎からは貰ってばかりだったからな！たまには作るかと思い立ってな！」
「え...、すごいじゃないですか！とても綺麗です！！　開けてみてもいいですか？」

どうぞと言われ開けてみると、そこにはトリュフチョコが入っていた。どれもすごく丁寧に作られている。

「うわー、美味しそう！早速食べてもいいですか？」
「もちろん、炭治郎のためだけに作ってきたからな、食べてくれ」

自分のためだけと言われると何とも照れくさい。食べてみると、ふわっと溶けて甘みが広がってとても美味しい。

「煉獄先生、これすごく美味しいです！」
「それはよかった！　千寿郎にも手伝ってもらったから味は間違いないと思ったんだが、少し心配だったんだ」

千寿郎君の焦る姿が目に浮かんでちょっと笑いそうになったのはないしょだ。

「君の喜ぶ姿が見れてよかった、ところで炭治郎、今から帰るのか？」
「そうです、丁度帰ろうと思ってたところだったんです」
「今日は丁度早く仕事が終わったんだ、良ければ家まで車で送ろうか？」
「え？いいんですか？」
「炭治郎さえ良ければ途中まで一緒に帰ろう。この時間なら他の人にバレないだろうし。それに、まだ炭治郎からのバレンタインデーのお菓子もらってないから、車の中で頂くとしよう！」

渡しそびれていたチョコも受け取ってもらえそうだし、煉獄先生の車にも乗れる！弾む気持ちを抑えつつ、炭治郎は煉獄先生の車に乗り込んだ。

「なんだか煉獄先生とドライブデートに行くみたいで嬉しいです、実際は家までですけど...」
「まぁ、炭治郎が卒業するまでデートはお預けだが、ちょっとした予行演習だ！」

そうだ、それと...、と言い、助手席に乗った炭治郎に、煉獄が耳元で呟いた。

「二人きりのときは杏寿郎と呼んでくれ」

さーて！帰ろうか！と仕切り直して、煉獄は何事もなかったかのように、横で顔を真っ赤にしている炭治郎を乗せて、運転を始めた。