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    2jsusk

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    2jsusk

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    🔥誕おめでとうございます〜!
    こんな良き日に頒布開始することになっております「表」につけた無配のコピー本です。ページ数の関係で中身ぎゅぎゅっと詰め込んだわかりにくい仕様になってますが、大正軸の人間🔥×ぽんじろのゆるゆる話になります。大正ってお誕生日にお祝いしないところからも矛盾が矛盾を呼んでます。

    #小説
    novel
    #煉炭
    refinedCarbon
    #杏炭
    charcoalUsedForTeaCeremony

     ここしばらく見かけなかった大好きな後ろ姿を見つけてぴこんと耳が動く。すぅっと大きく息を吸って、その後ろ姿に声をかけた。
    「煉獄さーん!」
    「む、ポン治郎か!」
     声に反応して振り向いてくれた煉獄さんに全速力で駆け寄って、その胸に飛び込む。突進と変わらない勢いだったはずなのに、難なく受け止めた煉獄さんがぎゅっと抱き締めてくれた。
    「久しぶりだな! 元気だったか?」
    「はいっ! 煉獄さんもお元気そうで何よりです!」
     にっこり笑った煉獄さんに同じように笑顔で返すと、ぎゅむぎゅむと煉獄さんの柔らかな胸に顔を擦り付けて自分の匂いを移す。長期任務とやらでしばらく離れていたせいで、あれだけつけた俺の匂いはすっかりなくなってしまっていた。
    「わはは! ポン治郎は甘えただな!」
     くすぐったそうに笑う煉獄さんは俺のことをちっともわかっていない。けれどそれでも良かった。人間の煉獄さんは獣人である俺と番ってくれることはないだろうし、変に気持ちがばれてこうして匂いをつけることすらできなくなる方がきっとつらい。顔を上げて、今度は煉獄さんの首へと手を伸ばして逞しいそこをぎゅっと抱き締める。むわっと香る汗と煉獄さんの匂いを堪能してからぐりぐりと頭を押し付けた。
    「こら、そこは駄目だ! 汗をかいているし臭いだろう!」
    「大丈夫です、から……! あ……っ!」
     驚いたのかびくっと跳ねる煉獄さんから引き剥がされそうになり、さらに首に抱きついていやいやと首を振る。けれど煉獄さんの腕力には敵わなくてすぐにべりっと剥がされてしまった。
    「駄目だと言っただろう! ああほら、臭いが移ってしまうぞ!」
    「煉獄さんの匂いなら俺は大歓迎ですけど」
    「俺が遠慮する!」
     煉獄さんの手に首根っこを掴まれてぷらんとぶら下がる俺に、匂いがつかないようにか手を伸ばして少し離されているのが悲しい。わかりやすくしょんもりと落ち込んでいるのがわかったのか、言葉の勢いの割に困り顔をする煉獄さんがふぅと溜め息を吐いた。ちらりと顔を窺えば、こっちを見た煉獄さんが仕方ないと言いたげな顔で笑う。
    「……これから家に帰って風呂に入るが、ポン治郎も一緒に入るか?」
    「! はい!」
     煉獄さんの申し出に笑顔で頷けば、煉獄さんもほんの少しだけ眉を下げて笑った。本当はお風呂がそんなに好きじゃないことも、煉獄さんと入るお風呂だけは嫌いじゃないことも、全部知っていることを俺も知っている。ぽんぽんと頭を二度叩くように撫でた煉獄さんは、俺をそっと地面に下ろして手を差し出した。
    「じゃあ行こうか、千寿郎が待っていてくれている」
    「はい」
     手を重ねたらぎゅっと握り締められて、そのまま優しく手を引かれた。俺の歩幅に合わせたのんびりとした歩みで煉獄さんの家まで向かいながら、会えなかった時のことを話す。弟妹たちと山を駆け回って遊んだことやそこで見つけたカタクリの花のことや、タラの芽のこと、どんな取り留めのない話でも煉獄さんは相槌を打ちながら聞いてくれた。それが嬉しくて俺もたくさん話せばいつの間にか煉獄さんの家に着いていて、表の掃除をするためか箒を持って外にいた千寿郎君がお出迎えしてくれた。
    「お帰りなさい、兄上」
    「ただいま帰った! 変わりないか?」
    「はい、問題ありません。 ポン治郎さんもこんにちは」
    「こんにちは! お邪魔します!」
     ぺこりと頭を下げれば、千寿郎君に頭をふわりと撫でられた。優しい手の感触に目を瞑って受け入れていたら、ふと中途半端なまま手が離れる。何かと思って目を開けると、千寿郎君の手首を掴む煉獄さんが無表情で千寿郎君を見下ろしていた。煉獄さんが纏ううっすらとした怒りの匂いと、上を見ていて顔が見えない千寿郎君の少し怯えた匂いに、繋いでいた煉獄さんの手を引く。
    「……煉獄さん……?」
     俺の声にぴくりと反応した煉獄さんが千寿郎君から手を離す。ふっと空気が軽くなるのを感じてほっと胸を撫で下ろした。
    「すまない! 呆けてしまっていた!」
    「煉獄さんお疲れなんですか?」
    「そうだな、今回はなかなか帰ってこれなかったから少し疲れたのかもしれん! 千寿郎もすまなかった、怪我はないか?」
    「はい、大丈夫ですよ」
     急に目線が会わなくなった煉獄さんとどこかぎこちなくなる千寿郎君に首を傾げていると、煉獄さんの手が俺の頭の上に載る。撫でるというよりは置いただけのそれに煉獄さんの意図を図るために見上げたら、煉獄さんは千寿郎君を見ていた。
    「ポン治郎が俺と一緒に風呂に入るらしい、風呂の準備を先に頼んでいいか?」
    「風呂の準備はもうできてますよ。 兄上とポン治郎さんの入浴の支度だけすればすぐにでも入れます」
    「そうか! では俺は先に自分の部屋に戻って支度をしてから行くからポン治郎を任せる」
    「わかりました」
     用件のみの会話を終わらせて、煉獄さんが俺を見る。置いていた手はぽんぽんと二回叩くように撫でて離れていき、寂しさを感じて煉獄さんへ手を伸ばす前に千寿郎君の手が肩に触れた。
    「ポン治郎さんはこちらへ」
    「……うん」
     明らかにしょんもりしているのがわかったんだろう、苦笑する千寿郎君は煉獄さんが家の中に入ったのを確認してからそっと耳元に口を近付ける。内緒話をする格好に、俺も耳を傾けた。
    「ポン治郎さんのがんばって作っていたあれ、上手にできてましたよ」
    「! 本当に?」
    「はい、きっと兄上も喜んでくれます」
     こそこそと小声で告げられた内容にぱあっと明るい声が出る。目に見えて元気になる俺を、今度は微笑ましそうな目で見る千寿郎君に気付いて慌てて表情を引き締めた。
    「こほん……えっと、じゃあそれはお風呂から上がったら受け取りに行っていいかな?」
    「はい、自室の机のわかりやすい所に置いてますので都合のいい時に取りに行ってください」
     何の迷いもない千寿郎君の声に驚いて顔を見る。何に驚いているのかわからないらしい千寿郎君がぽかんとした顔で俺を見つめ返していた。
    「勝手に入っていいの?」
    「はい、ポン治郎さんは悪戯しないでしょう?」
    「そうだけど……」
     当たり前のことのように告げられる言葉に何となく腑に落ちない。確かに何かをするつもりはないけれど俺は一応人間とは別の生き物なわけで、それなのに何の迷いもなく受け入れて自室にも一人で入らせるなんて千寿郎君は警戒心がないんだろうか。
    「もしかして……他人の縄張りに入るのが苦手、とかですか?」
    「え?」
     千寿郎君の心配をしていたら、難しい顔をした千寿郎君にそんなことを言われる。今度は俺がぽかんと口を開ける番で、それを見て千寿郎君が首を傾げた。
    「違いましたか?」
    「え、いや……縄張りにっていうならもうこの家自体が煉獄家の人達の縄張りになってるから、あんまり気にならないかな」
     そう返せば確かに、と頷く千寿郎君に考えるのをやめた。俺は煉獄家の人達を裏切るつもりはないし、その煉獄家の一員である千寿郎君が俺を信じるって言ってくれることは嬉しいしその信頼に報いたいと思う。俺にはわからないけれど、根拠とかじゃなくてそういう思いの重なり合いというか、そういうのが人間の考え方なんだろうと思うことにした。
    「お風呂の後って、確か煉獄さんはご飯だよね? なら俺はお風呂から上がったら千寿郎君の部屋に行かせてもらうね」
    「わかりました、ではその間の兄上の相手は任せてください」
     微笑んだ千寿郎君に頷き返して一緒に家の中に入る。今からお風呂だと思うと心が沈むけれど、先に行っていた煉獄さんと合流すれば自分でも呆れるくらい簡単に気持ちが浮上した。煉獄さんと繋いで歩くお風呂場へ向かう途中、隊服を脱いでゆるりとした格好をする煉獄さんを見上げる。
    「俺、煉獄さんのお背中流しますね!」
    「そうか、ありがとう! なら俺はポン治郎の体の隅から隅まで洗ってやろう!」
    「いえ、それは別にいいです!」
    「む、何故だ!」
     そんな言い合いをしながらついたお風呂場では、一人で脱げるって言っても手伝うと言って聞かない煉獄さんに追いかけられて丸裸にされたり。煉獄さんの背中を流せば、今度は俺の番だって隅々まで丁寧に洗われたり。どうして人間はお風呂の前ではあんなにも大胆になるんだといつも不思議で仕方ない。ご飯を食べに行った煉獄さんと別れて、どっと疲れた体を引き摺りながらなんとか千寿郎君の部屋に向かう。あれの完成品が見られると思うと少しずつ足取りが軽くなった。何度か訪れた部屋の前に立って、誰もいないと知りつつもこほんと咳払いをして声をかける。
    「失礼しまーす……」
     そっと開いた障子の奥、あれを作るために使った机の上に何かが載っていることに気付いた。その机に近付いて見たそれは、俺が思っていたよりも綺麗にできていて頬が緩む。そっと手に取って懐にしまった時、かたりと背後から音が聞こえた。
    「ここは千寿郎の部屋だぞ、ポン治郎」
    「! 煉獄さん! どうしてここに……っ!」
     開けていた障子に手をかけていたはずの煉獄さんが一瞬で俺の目の前にいて、俺の目線に合わせるように膝をつく。笑顔の煉獄さんから発せられるぴりぴりとした空気に、本能が危険だと告げていた。無意識にじりっと後退れば、それに気付いた煉獄さんの手が俺の腕を掴む。ずっと大好きだった手だったのに、強く掴んでくるその手が今はただ怖かった。
    「どうして? それは君がここにいるからだ。 逆に聞くが、どうして君がここにいる?」
     ぎゅっと俺の腕を掴む手に力が入って痛みが走る。いつの間にか消えていた笑みが煉獄さんの怒りの匂いをさらに強調していて、喉が引き攣って上手く声が出せない。ぱくぱくと口を開閉していると、ふと煉獄さんからの重圧が消える。格段に息がしやすくなって、知らない間に硬くなっていた体から力が抜けた。
    「……君は千寿郎と仲良くなりたくて、俺に近付いたのか?」
     不意に聞こえた普段からは想像できないくらい弱い声に煉獄さんを見上げれば、悲しげな目が俺から逃げるように逸らされる。どうしてそんなことを言われるのかもわからないけれど、今まで一度たりとも視線を逸らされたりしなかったからこそ今のが明らかな拒絶だと理解した。ぽろりと頬を伝う雫が顎から落ちた時、始めて自分が泣いていることに気付く。遅れてそれに気付いた煉獄さんがぎょっとした顔で俺を見ていて、なんだか無性に悔しかった。
    「俺が……そんなことをすると思ったんですか……?」
     声が震えるのを抑えられなくて、ぐるぐると嫌な気持ちが腹の中で渦を巻く。煉獄さんが匂いを嗅ぎ分けられるなら、きっとひどい悪臭に驚いてしまっているはずだ。胸の辺りに手を当てて漏れ出そうな気持ちを押し込めようとすると、くしゃっと小さな音がする。
    「! 煉獄さんの、っ……あ!」
     音の原因に思い当たって、その一瞬目の前にいる煉獄さんのことを忘れてばっと懐に手を入れる。それだけで済めばいくらでも誤魔化せたのに、つい余計なことまで口から滑っていた。
    「俺の?」
     聞き漏らしてはくれなかった煉獄さんの声が、目が、静かに説明を求めていた。こんなつもりじゃなかったのに、煉獄さんの雰囲気は聞くまで譲るつもりがないという確固たる意志を感じる。しばらく悩んで悩んで、逃げ道がないことを悟った。
    「……これを、」
     そろりと懐から取り出した物を煉獄さんに見せる。壊れてしまったかと思ったけど、ほんの少し折れ目が付いているけれど見た目が大きく変わるほどではなくてほっとした。
    「押し花、か?」
    「はい、カタクリの花で作った押し花の栞です」
     手の中にある栞を見に来た煉獄さんにその栞を渡す。丁寧に受け取ってくれた煉獄さんはじっとその押し花を見ていた。
    「もしかして道中話していたカタクリの花はこの花を摘みに行った時のことか?」
    「……正確には、このカタクリの花を見て押し花を作ろうと思ったんです」
     長くは咲かないこの花を、どうして煉獄さんに渡そうと思ったのかは自分でもよくわからない。ただ、前に教えてもらった煉獄さんの生まれた日が近付いてきていることを思い出して、この花を少しでも長く残る形で煉獄さんに持っていてほしいと思った。
    「千寿郎君に教えてもらって押し花にして、今ちょうど完成品を取りに来たんです」
    「本人のいない部屋でか? それは些か距離が近すぎると思うが……」
     俺に押し花を返そうとする煉獄さんに、その手ごと押し返す。驚いたように俺を見る煉獄さんにぷぅっと頬が膨らんだ。
    「それは煉獄さんにあげるために作った物です! それなのに、どうしてさっきから千寿郎君の話しかしないんですか」
     煉獄さんが何を気にしているのかわからないけど、詰まるところ俺の不満はその一点に尽きる。確かにこれは俺の独り善がりだけど、だからって訳のわからない怒りを向けられたってどうしたらいいのかわからない。まるで俺の気持ちにケチを付けられたような気がして、ずんと心が沈む。
    「そろそろ煉獄さんが生まれた日だと聞きました。 子が生まれるのも育つのも、とても尊く愛しいものです。 人間にも俺たちにもそういう日を祝う習慣はありませんが、俺は、っ」
    「すまないポン治郎、俺が悪かった。 ……ありがとう、大切に使おう」
     暴れ出す感情に引っ張られて滲んだ視界が、不意に煉獄さんの浴衣一色に変わる。ふわりと煉獄さんの匂いに包まれて、その大きな背に腕を回した。
    「それにしても生まれた日を祝われるとは不思議な気分だ」
    「……やっぱり変ですか?」
     しみじみ呟く煉獄さんに、自分が思うよりずっと不安げな声が漏れる。反応が怖くて千寿郎君にも生まれた日のお祝いだとは言えなかった。やっぱりこれは黙っておくんだったと後悔する。まるで罠にかかって死を覚悟した時のような心持ちで煉獄さんの言葉を待てば、聞こえてきたのは想像とは真逆の楽しそうな笑い声だった。
    「まさか! 俺を思ってくれたその気持ちを嬉しく思うぞ」
     ありがとうと言って背中を撫でる温かな手は、俺の大好きな手だった。
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    DONE🔥誕おめでとうございます〜!
    こんな良き日に頒布開始することになっております「表」につけた無配のコピー本です。ページ数の関係で中身ぎゅぎゅっと詰め込んだわかりにくい仕様になってますが、大正軸の人間🔥×ぽんじろのゆるゆる話になります。大正ってお誕生日にお祝いしないところからも矛盾が矛盾を呼んでます。
     ここしばらく見かけなかった大好きな後ろ姿を見つけてぴこんと耳が動く。すぅっと大きく息を吸って、その後ろ姿に声をかけた。
    「煉獄さーん!」
    「む、ポン治郎か!」
     声に反応して振り向いてくれた煉獄さんに全速力で駆け寄って、その胸に飛び込む。突進と変わらない勢いだったはずなのに、難なく受け止めた煉獄さんがぎゅっと抱き締めてくれた。
    「久しぶりだな! 元気だったか?」
    「はいっ! 煉獄さんもお元気そうで何よりです!」
     にっこり笑った煉獄さんに同じように笑顔で返すと、ぎゅむぎゅむと煉獄さんの柔らかな胸に顔を擦り付けて自分の匂いを移す。長期任務とやらでしばらく離れていたせいで、あれだけつけた俺の匂いはすっかりなくなってしまっていた。
    「わはは! ポン治郎は甘えただな!」
     くすぐったそうに笑う煉獄さんは俺のことをちっともわかっていない。けれどそれでも良かった。人間の煉獄さんは獣人である俺と番ってくれることはないだろうし、変に気持ちがばれてこうして匂いをつけることすらできなくなる方がきっとつらい。顔を上げて、今度は煉獄さんの首へと手を伸ばして逞しいそこをぎゅっと抱き締める。むわっと香る汗と煉獄 5759

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