ベッドに潜り込む「春ー」
「んー」
「はーるーーー春さーん」
「分かってます分かってます」
夜の帳も下り、ベッドの上で二人。一人はベッドと布団の間に身を挟み込んだ後、相手を呼ぶ。もう一人は名前を呼ばれながらも手にした本に視線を落としたまま。
何度恋人の名を呼んでも生返事しか返ってこず、さすがに立腹せざるを得ない。ベッドサイドの淡いランプの光に照らされた春の横顔は綺麗で、溜め息を吐きつつも見惚れてしまったりなど。
「もー先に寝ちゃうからなー」
「あー待って……! もう少しで切りのいいところだから……! ……はい! 今終わりました!」
春は本に栞を挟むと勢い良く本を閉じ、ベッドサイドに置いた。そして、そのままベッドに潜り込んでくる。
「かーい、ごめんね? こっち向いて?」
春に背中を向けてこれ見よがしに寝る体勢に入ろうとすると、春の甘い声が耳に滑り込んできて、つい言われるままに春に向き直ってしまう。
「恋人と本、どっちが大切なんですかー」
「それは……本……っていうのは冗談だからそんなにむくれないでよー海ー」
じっとりとした視線を送ると少し慌てた様子で撤回した春。お互い冗談で言っているのは理解していて、一拍置いて二人で噴き出した。
春とのこの時間が好きだ。一日の終わりに、こうして一緒に過ごせることが嬉しくて、心を満たす。
「海とこうして一日の終わりを過ごしていると、「幸せだなぁ」って感じて、俺、好きだなぁ」
思っていたことを見透かされていたんじゃないかと感じるくらいに同じ思いを抱いていて、ぱちくりと瞬きを繰り返した。
「海? どうしたの?」
「んー、俺も同じこと思ってたからさ。びっくりしたっつーか、なんかこそばゆいな……!」
「そっか。ふふ、嬉しいな」
春は目を細めて、そっと俺の頬に手を添えた。その手に自身の手を重ねて、交わる体温の心地よさに笑む。
「春と一緒にベッドに入ると「今日も一日頑張ったー!」っていうのと、「明日も頑張ろう!」って思えて、すげー元気になれるんだよ」
「ん、俺も同じ」
だから春が本を読んでいても待つし、だからきっと、俺が呼べば春は本を読むのを切り上げてくれるんだ。
「じゃあ、明日も頑張ろうね?」
「おー。春もな?」
ランプの灯りを消して、薄闇に包まれながら相手の温もりに笑みを零す。
「おやすみ」
声が重なったその後、唇が重なる感触に心地良く微睡んでいった。