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    ラザロのみんなでわちゃわちゃしながらハンバーガー食べて欲しい

    メモ:2025/09/11

    #ラザロ

    「晩メシ、どうすっかなぁ」
     残務処理に追われるアジトの夕暮れ。ぐったりとソファに沈み込んだアクセルが大きく伸びをしながら誰にともなく言う。
    「あら、もうそんな時間」
     クリスが端末から顔を上げて応じた。
    「おなか空きましたね。何か買いに行きますか」と、リーランド。街は徐々に活気付き、日々の食事も加工肉と缶詰以外の選択肢を取り戻しつつあった。
    「あっ!」
     少し離れたコンソール・シートに座るエレイナの声が響いた。本人が思うより大きな声が出てしまったらしく、「ごめんなさい」と早口で呟いて身を縮めた。
    「えっと、その。調べたらエムバーガーが営業再開してたみたいで……それで……」
    「ハンバーガー、いいわね」と、すかさずクリスが答えた。「しばらく食ってないな」と、アクセル。
    「みんなでハンバーガー食べますか。パーティですね!」
     リーランドが身を乗り出した。
     パーティなんてそんなつもりは……、と口ごもるエレイナに「たまに食べたくなるんだよな」と、作業の手を止めたダグラスが言う。
    「そうと決まったら買い出しだ! 行くぞダグ!」
     アクセルはそう叫ぶと、ソファを軽々と飛び越えて駆け出した。「走るな!」というダグラスの至極まっとうな注意は相変わらず届かない。
    「机、片付けておいてくれ」と言い残して、ダグラスは慌ただしくアクセルを追った。
     
     グレートエムバーガー、ダブルチーズエムバーガー、ベーコンエッグエムバーガー、フィッシュエムバーガー……。
     テーブルの上に積み上げられたバーガー袋にデザインされた文字を目で追いながら、エレイナは呆然と立ち尽くしていた。カラフルなワックスペーパーの隙間からは、ポテトフライにナゲット、アップルパイらしきものも覗いている。
     エレイナの知っているエムバーガーとは、手のひら大に包まれた塊とフライドポテト、それに色水みたいなジュースで満たされたペーパーカップの三点で構成されていた。白と赤の店内で、パネルの写真をタップして幾ばくかのキャッシュを支払う。そうすると長方形のトレイの上に見本通りに置かれたそれらが出てくるのだ。ひとりの知り合いもいない街で、ハンバーガーチェーンはエレイナのための居場所を用意してくれた。流行から外れた服装にも、泣き腫らした目にも、古い油の風味にゆがんだ表情にも、誰ひとり注意を払わない。涼やかな直線とアールで描かれたロゴマークは、独り穏やかに過ごせる食卓の象徴だった。
     ふかふかと積み上げられた(もちろん積んだのはアクセルだ)あたたかなバーガーだのポテトだのの山、というのはエレイナの想像の範疇にないもので、それを前にして彼女は面くらっていた。置いてあるバーガーの数だって、人数ぶんよりはるかに多く見える。
    「ドリンク回すぞ。それぞれ好きな……。って、おいアクセル、これどうやって取るんだ」
    「大丈夫だいじょぶ。そう簡単には崩れねーから」
    「ホントかなぁ? とりあえず僕はダブチを……。あ、ほんとだ。案外、いけますね」
    「あなた達ねえ。私はハンバーガーでジェンガする趣味、ないから」
    「あっズリィ。一番上から取った」
    「ズルくはないでしょ」
    「次、ダグの番なー」
    「遊ぶな!」
     エレイナが賑やかなテーブル模様にポカンとしている間に、ダグラスは更に二つ、紙箱を運んでくる。
    「て、てつだうよ」
     ふいに我に帰ったエレイナは、慌てて箱を受け取る。片方は軽く、もう一方は大きさのわりにずしりと重い。
    「それで、エレイナはどれにする?」
     食べたいのあるんでしょ、と、クリスが優しくエレイナに訊ねた。えっと、とエレイナは言葉に詰まる。エムバーガーを提案したものの、実はどれがどれだかあまりよく分かっていない。エレイナからすると、どれもだいたいビッグエムだ。
    「あ、ふつうの……?」
    「あるぞ。ほらビッグエム」
     エレイナのか細い声に、ダグラスが答えた。バーガー包みを一つ、山の中ほどからひょいと取り上げて、エレイナの前に置く。
    「フツーのだ。いっそレアかも」と、クリスが笑った。
    「それ一個で晩メシ足りんの?」
     他のも選んだら、と優しく含ませたアクセルの声にエレイナは言葉に詰まる。こんなものいくつも食べたくない、というのが正直なところだ。でも、俺は普通に好きだが、と、いつぞや運転席で口を尖らせていたダグラスのことを思い出すと、それを言うのは憚られた。曖昧な声を返事にしながら、エレイナは先ほど受け取った箱に目線を落とす。薄茶のボール紙にちょこんと双葉がプリントされているそれを、ことさらゆっくり開けた。中には濃緑色に満たされた大ぶりのプラスチックカップが人数ぶん並んでいる。
    「おー、そういや何だそれ? オーガニック、グロサリー、ストア……グリーン、スムージー……」
     アクセルがエレイナの手元を覗き込んでラベルを読み上げる。
    「あら、こっちはドーナツ。美味しそうだけど、ちょっと変わった組み合わせね」
     軽い方の箱を開けたクリスがダグラスに言う。それにつられて全員の視線が彼に集まった。
    「……その、ハンバーガーだけだと偏りがある。少しは気を使う必要がだな」
    「ドーナツって健康的ですかね?」と、ダブルチーズエムを頬張りながらリーランドが突っ込む。う、とダグラスが小さく唸るのを聞いて、「あっ、でもスムージーはわかりますよ」と慌てて付け加えた。
    「お前が食べたかったんだろ」と笑いながらアクセル。
    「聞いてくれよ。ダグの奴さ、バーガー屋でも足りないとか言ってこんなに」
    「な、なんだよ。ハンバーガーなんて一つや二つじゃ夕飯にはならんだろう」
    「そうよねー、男の子だもの。いっぱい食べなさいなボウヤ達」
    「なっ、男の子……」
     クリスに子供扱いされて鼻白むダグラスの隣で、「えっそれ俺も入ってるの?」とアクセルが目を丸くする。お喋りする仲間たちを尻目に一つ目をぺろりと平らげたリーランドは「じゃあ遠慮なく」などと言いながら次に手を伸ばす。
    「エレイナも冷める前に、ね」
     そうクリスに促されて、エレイナはビッグエムを手に取った。
     ──ふと、ダグラスと目があった。なにかを伺うような視線。思わずそれを見つめ返す。
     あっ、そうか、とエレイナは突然気がついた。エムバーガーにオーガニックスムージーとシンプルなドーナツが添えられていた理由。
    「あ──、あの。これ、美味しくて」
     手元の濃緑色のカップを指して、ダグラスにお礼を言う。「えっと、それからドーナツも」と言い添えた。ダグラスはほんの一瞬、慌てたように目をそらしてから、「なら良かった」と小さく笑った。
     エレイナはビッグエムにかぶりついた。やっぱり美味しいとは思えなかったけど、なぜかバーガーショップで食べた時よりも悪くないんじゃないかという気がした。他の味も試してみてもいいかな、と机の小山を眺めて思った。
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