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    むかし書いたニスロクのバナルマ期妄想 イベントありがとう再アップ

     忘れもしない。初めての食事は、ほんとうに最悪だった。

     最初に感じたのは、灼熱。一瞬置いてから、上あごから脳天に突き抜ける痛みと、舌にまとわりつく異物感がやってきた。反射的に吐き戻そうとして喉もとに力が入るが、口を掌で塞がれてそれもままならない。そのまま鼻先までつまみ上げられて、窒息しながらやっと嚥下を覚える。とたんに呼吸が自由になる。肺に流れ込んだ空気にあえいでいると、そこにまた次の一口が押し込まれる。四肢は椅子にかたく縛り付けられ、どれだけ身体をよじろうがびくともしない。やめろと叫びたくとも何かを詰め込まれた口からは言葉も紡げず、ただ獣のうなりが漏れるばかりだった。
     口内が空になると同時に、顎をこじ開けられる。その指に無我夢中で歯を立てた。
    「あっくそ、イッテェ。このチビまた噛み付きやがった」
     後ろから男の声がすると同時に喉が絞められた。息苦しさにたまらず奥歯の力を緩めると、腹いせにかガツンと椅子が蹴られたようだった。尻からみぞおちに抜けた衝撃に、胃の腑がひっくり返りそうになる。いっそ全てを吐き出させて欲しかった。
    「クソッ。こんなガキ、このまま飢え死にさせりゃいいだろ」
    「うるせえ。黙って仕事しろ」
     向かいの男が、手に持った塊を指先で裂き割りながら答えた。それを再びこちらの口元に突き付けながら言う。
    「……いいかテメェ。ヴィータ体ってのはな、こうやってメシ食わねえと死んじまうんだよ」
     また口内に痛みが流れ込んでくる。口を押さえられ嚥下する。頬の裏側に鋭い痛み。焼けつく軟口蓋。喉を掻きむしりながら重い何かが流れてゆく。違和感に内臓を侵される。そしてまた呼吸。苦痛。嚥下。灼熱。苦痛。苦痛。苦痛。苦痛……
     その合間合間に、男の声が耳に入る。
     死にたくなければ食え。何がなんでも腹に流し込め。

     どれだけの時間が経ったのか。ようやっと男の手が空くころには、自力で椅子に身体を預ける力も残らず、縄を解かれると同時に床にへたり込んだ。
     口の中はひりひりと痺れ、喉は腫れてるようだった。しかし胴は妙に暖かく、手足は気怠く沈んでいた。床板の硬質さがなんとも心地よく感じられた。目を開けているのが億劫で仕方ない。
    「……手間かけさせやがって。これで腹が膨らむってのがどういう事か分かったろ」
     大きなため息と共に声が降ってくる。先ほどの男二人……子育て旅団の隊員たちが、ここ、『子供部屋』から立ち去ろうとする気配がする。
    「次からは食わせてやらねえ。テメェでやれ。一日一回は何か食え。いいな? さもなけりゃ死ぬ」
     毎日、こんなことを? 眠気で頭の芯がぼやけるなか考える。多分これが、産まれて初めて覚えた絶望だった。毎日こんな目に遭い続けるのはごめんだった。でも死ぬのはもっと嫌だ。死にたくない。そう思いながら意識は暗く沈んでいった。

     今ならわかる。あの口内を焼いた塊は何かの果実だった。味というものを知らなかった身体は、酸味を痛みに、甘味を灼熱に、その風味すら刺激に変えて余す所なく伝えてきた。
     メギド体でさまよっていた時は、泉にでも沈んでフォトンに触れることができれば身体を保てたというのに、ヴィータ体のなんと不便なことか。食餌を必要としないメギド体を持つニスロクにとって、ヴィータの食事はこの上ない苦痛の経験として始まった。
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