恋って言うから愛に来た未遂「私を使ってごらんよ張遼殿、きっといいはずだから」
二重に取れる意味を含んだ郭嘉の言葉は上手く張遼の中に浸透しなかった。確かに耳に入ったし卓の向かいで杯を片手に笑う彼の目を見るに嘘偽りではないだろうし、けれども上手く飲み込めず張遼は曖昧に唸るくらいしか出来なかった。
酒を飲み肉を食べ、時折水を飲んで口の中を洗い流したらまた酒を呷る。張遼は食べる方が、郭嘉は飲む方が好きなようでお互い好き勝手に食べ散らかし他愛のない会話が途切れたときのことだった。
「楽しんでもらえる自信は、あるのだけれど」
どうにか流して違う話題に持っていきたかったが生憎張遼は彼ほど口が上手くない。頃合いを見計らって繰り返される郭嘉の言葉は酒のように甘くて少々苦いような妙な心地だ。
どういう意味かと聞いてしまうのが手っ取り早いのだろうがそれは野暮というものだろう。そう思いながらも事実を知りたい訳ではないと、酔いのせいで思考はぐるぐる回り、澱み、それから考えるのが段々辛くなってきて誤魔化すように酒を飲んだ。
「……それ、私が一番苦手な戦法だよ」
「は……それ、とは」
「無視、だんまり。あと聞こえないふり」
一瞬郭嘉は嫌そうな顔を見せたがすぐに緩ませ、冗談だよ、とまた普段通りの柔和な笑みに戻った。一方で張遼はすっかり見透かされている状況に喉が詰まりそうだった。先ほど食べた肉が消化不良を起こしそうで、よくない。
「聞こえております、それに無視するつもりもありませぬ」
「そう?」
「ただ、よい言葉が出ないだけで」
「ああ、そう」
呆れて諦めてくれればいいのにそんなはずもなく、郭嘉は変わらず笑っていた。
「張遼殿が来てって言ってくれれば、私はいつでも行くよ」
「そのようなこと……寧ろ私の方が」
「違う、違うんだ。夜に、ね?どうしても眠れない日もあるでしょう……」
続きがあるかと思いきや郭嘉はそれだけ言うと張遼から視線を逸らした。はあ、と彼にしては珍しいくらい大きなため息が吐かれ、横の何もない壁をじっと見つめている。
「来いって、言ってくれればいいのにね」
二人きりの卓で視線を外されているからといって、自分に向けていないつもりなのか。それとも彼は今、違う人のことでも思い浮かべているのだろうか。何も分からない。貴公が分からぬと、張遼は手酌で酒を注いで飲む。急に舌ざわりが悪くなった気がした。