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    hiisekine_amcr

    @hiisekine_amcr 雨クリを好みます

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    暁理の2人が任務で過去に行ったら突如離れ離れになってしまったので暁さんが理人さんを取り戻そうとするお話の続き。やっと二人が再会します!あと一話でこのお話は終了です。

    ##暁理

    11 救出 振り出しに戻ってしまった。
     それどころか、状況は悪化している。
     ノヴァとバルドの本拠地で休息を取ったナハトたちは、焦る気持ちを抱えながら、再度町へ戻り、理人たちの姿を探し求めた。午前中に別行動を取っていた二人は昼時に長屋で合流するも、お互い成果はゼロだった。
    「演奏家のフリをして屋敷に潜り込んだが、バルド様のお姿も、お前のバディもいなかった。チャオも外出中のようだったし、誰もその行き先について話しているものはいなかった」
     ノヴァは、たくあんを乗せた米を口に運びながら淡々とそう言った。ナハトも同じものをぼりぼりと食べている。
    「こちらも、街中の噂に聞き耳を立ててみたが、チャオの屋敷に賊が入ったという噂だけはえらく出回っていたな」
     ナハトは「だけ」という単語を強調するようにそう言った。
     つまり、理人たちにつながる情報というものは、全く無かったということになる。
     深くため息をつく。こんなことをしている場合ではないのだ。早く理人を見つけ出し、今日中に帰還しなくてはならない。
     だが、ここまで手がかりが無いと、どうやって探したら良いものか、全く検討もつかない。それこそ、数日前にジャンプして理人を回収するくらいしか思いつかないが、無許可タイムワープをしたことが知れたら始末書ものだし、過去の自分に接触する可能性のあるタイムワープは懲戒をくらう可能性だってある。さすがに、それ以外の選択肢を選びたい。
    「お前はどうするつもりなんだ、TPA」
    「どう、とは?」
    「いつまでここにいるつもりなのか、ということだ。TPAの……ああ、ややこしい。お前の組織が言うには、今日中に見つけられなければバディを諦めて元の時代へ帰れと言われているんだろう」
    「それはまあ、そうだな」
     ノヴァはひどく苛立っているようだったが、ナハトとて平常心というわけではない。しかし、TPAというのはそういうものなのだ。あくまでも公僕。個人の感情よりも、組織の決定が優先される。それが、たとえ間違った判断だったとしても。
    「何故そう冷静でいられる!大切な人なのだろう!」
    「冷静なんかじゃないさ、ちっともな。……やけに突っかかってくるじゃないか?」
     ナハトも苛立ちを覚えたが、なるべく声を荒げないよう、味噌汁と一緒に強い言葉を飲み込んだ。
    「仮に俺がいなくても、お前ならそのバルド様とやらを見つけられるだろう。ここでは俺よりもずっと立ち回りが上手いようだしな」
    「……帰るつもりなのか」
     やんわりと褒めたつもりだったが、ノヴァはさらに機嫌を悪くした。言葉は怒気を孕んでいるし、眉間には皺が寄っている。
    「そうは言っていない」
    「じゃあ、組織に逆らってでもバディを助けるのか!?」
    「何故そこまでお前が熱くなるんだ」
     落ち着け、と水の入った徳利を押し付けた。ノヴァは徳利を奪うと、口をつけてそれを飲み干した。ガン、と音を立てて、徳利を床に置いた。
     ナハトは「壊れるぞ」と言おうとしたが、それより先にノヴァが口を開いた。
    「私は、子供の頃誘拐されたことがある」
    「……なに?」
    「まだ十にも満たない、幼かった頃だ。音楽コンクールで演奏した後、その場にいた子供たちが全員拐われた。身代金目的だった」
     ナハトはノヴァが話すのを、口を結んで耳を傾けた。
    「子供達が一か所に集められて、強盗たちはリストを元に親たちに連絡を取っていた。身代金を用意できた親の子たちは次々と解放され、親の元へ帰っていった。しかし、なかなか迎えがこない子供もいた。それが、私と、もう一人の少年だった。……幸い、私には迎えが来た。……両親ではなかったが。しかし、もう一人の少年は、そこから出てくることはなかった。……私は忘れられない。あの時の少年の絶望した顔が」
     ノヴァは、ぶるり、と体を震わせる。
    「その少年はどうなったんだ?」
    「知らない。だが、後日ニュースでその子の両親と私の両親が亡くなったという報道を見たから……きっと迎えは来なかったんだろう」
     ナハトは、言葉を発することができなかった。こういった痛ましい事件は時折起こることだが、それに巻き込まれるということは相当な心的ダメージを受けるのは間違いない。軽率に何かを言うべきではない。
    「そう言う場合の誘拐された子供がどういう末路を辿るか。私よりお前の方が詳しいんじゃないか?」
     ノヴァにそう問われるが、ナハトは口を閉ざしたままだ。誘拐事件は多くの場合、被害者は殺害されてしまう。ノヴァの言うその少年も、おそらくはそうだったのだろう。
    「死んでしまってからでは遅い。……いくらタイムワープの技術があっても、お前はしがらみが多すぎる」
    「ああ……本当に、そうだな」
     ナハトはそれだけ言うと、残りの米をかき込んだ。

     その後二人は夕方まで粘ったが、残念ながら町の中ではそれ以上の情報を得られなかった。最悪のパターンというのもあり得るのかもしれない、と、先程のノヴァの言葉を思い出したナハトは、心に重くて冷たい石が詰まっているような、そんな気分になった。
    「別の方法を考えよう。山小屋に、何か良い道具があるかもしれない」
     そう言ったノヴァは、ナハトを引き連れ再び山小屋へと足を向けた。
     もう数時間で今日が終わる。夜中の数時間で、いったい何ができると言うのだ。ナハトは無力感に苛まれながら、ノヴァの後ろを歩いていた。
     その時だった。
     視界の端で、チリ、と何かが光った。
     もう陽は沈んでいるのに、あんなところに光が?と不審に思い顔を向けると、木々に隠れるようにひっそりとそびえる屋敷に、火がついているのが見えた。
    「……火事だ」
    「は?」
     二人は立ち止まり、その火に目を向けた。
    「あんなところに屋敷が……?」
     耳を澄ますと、わあわあと人の声が聞こえる。ひどく焦っている様子だ。
     それらを困惑しながら見つめていたノヴァだったが、突然ハッと顔色を変えた。
    「いけない。もし山火事にでもなったら、バルド様の小屋まで燃えてしまう。……TPA!火消しの方法は知っているか」
    「この時代は……建物を壊す、だったか」
    「そうだ。いってこい!私は町の火消しを呼んでくる!」
     ノヴァに背を叩かれ、ナハトは屋敷に向けて走り出した。
    (過去に介入するようなことは、TPAとしては褒められたことではないが……)
     ナハトは悩みながらも、走り続けた。本当ならば、この火事すら見なかったことにして、すぐに未来に帰るのが、TPAとしてあるべき姿なのだろう。それでも、ナハトの中の正義心はしきりに「人を救え」と訴え続けた。
     速度、持久力ともに優れたナハトの足にかかれば、家事の現場にたどり着くのもそう時間はかからなかった。それでも、やっとたどり着いた時にはすでに屋敷の二階は火に包まれ始めていた。
    (木造建築の火事とは……本当に時間との勝負だ)
    「おい!もう避難は完了しているのか!」
     建物の下にいた人たちにそう問いかけるも、彼らはどうにもパニックを起こしているようで返事が返ってこない。
     ナハトが思わず舌打ちをすると、草陰から声が聞こえた。
    「まだ人が残ってる。やまぶきという人を連れてきてくれるかい?……一緒に逃げると約束したんだ」
    「やまぶき、だな?わかった」
     ナハトは着物の袖を破ると、それで口を覆い、屋敷の中へ飛び込んだ。借り物だが、この場合は仕方ないだろう。許してくれ、と心の中で謝罪した。
    「やまぶき!やまぶきはいるか!」
     そう叫ぶが、返事はない。あまり声を出して煙を吸っても良くない。ナハトは、目視で捜索することにした。
     歩いていると、足元に燃えた木の大きな塊が落ちていることに気がついた。形状的に、階段だったのかもしれない。となると、この上が二階か。そう思って上を向いたナハトの目に飛び込んできたのは、思いもよらないものだった。
    「理人……?」
     二階の入口からくたりと放り出された頭部は、間違いなく理人のものだった。ナハトは衝動的に、その名を呼んだ。
    (何故こんなところに?……いや、そんなことよりも!)
    「理人!……起きろ理人!……理人!」
     大きな声で呼びかけるが、反応はない。
     もう既に助からないのだろうか。火事の恐ろしいのはその炎よりも、煙による一酸化炭素中毒だ。もしそうなってしまっていたら、生存すら危ぶまれる。どうにかして、今すぐに外へ連れて行かなければ。
    「理人!」
     一際大きな声で理人を呼んだその時、かすかに、理人の瞼が動いた気がした。
    (まだ生きている!)
     そう希望を持って再度呼びかけると、理人は目を開き、そしてナハトの顔を見つめた。
    「理人!」
    「あかつき、さん……」
     ナハトを見て穏やかに笑った理人は、間違いなく、彼のよく知る理人であった。
    「ああ、そうだ。俺だ。大丈夫か?降りられるか?」
     そうナハトが尋ねるも、理人は困ったように首を傾げるだけだった。
    「どうした、怪我でもしたのか?」
     理人の様子がおかしい。が、今はとにかく早くここから脱出しなければならない。
     仕方ない。ナハトは息を吸うと、上官らしい厳しい声を張り上げた。
    「理人・ライゼ!今すぐ降りてこい!命令だ!」
    「!」
     理人の目の色が変わった。まるで夢から覚めたように、瞳に光が戻り、長いまつ毛が上を向いた。
    「……了解!」
     理人は眠気を覚ますようにふるふると被りを振ると、身を捩らせた。すぐさま降りてくるのかと思いきや、彼の背中には別の人物が背負われていた。
    「この方を受け止めてください。怪我をして、気を失っています」
     そう言う頃には、理人の表情はすっかりいつもの凛とした雰囲気を取り戻していた。
     行きますよ、という言葉とともに、理人はその人物の体を放り投げた。ナハトは危なげもなくそれを受け止め、床へそっと下ろした。
     ーー次はお前の番だ。
     ナハトは理人の顔を見つめながら、その両手を開いた。
    「理人、来い!」
    「……はい!」
     二階から飛び降りた理人は、そのままナハトの胸へ飛び込んだ。
    「……心配したぞ」
    「すみません、暁さん」
    「いや。……遅くなってすまなかった」
     二人は、お互いの体をきつく抱きしめた。時間にしてほんの五秒ほどのことだったが、二人にとってはそれは何よりも待ち望んでいた瞬間だった。お互いの体に触れた時、二人はやっと、この再会を現実だと実感することができたし、それは今この時、何にも変え難い幸福といっても良かった。
    「……こうしてはいられないな。理人、お前は今すぐにここを出なさい。私はやまぶきという人を探さなければ」
     ナハトが理人に言い聞かせるように言うと、理人は目をぱちくりと開き、「やまぶきは自分です」と言った。
    「は?」
    「説明は後でします!チャオさんを連れて、外へ出ましょう」
    「チャオ……この男がか!?」
    「そうです!急ぎましょう!」
     すっかりついて行けていないナハトだったが、確かにこれ以上建物内にいるのは非常に危険だ。既に一階にも火が回り始めていたし、煙も充満し始めていた。
    「わかった、行こう」
     そうしてナハトと理人は、チャオを伴い無事に外へ出ることに成功した。

     二人が助け出されてから数分が経過した。
     屋敷の外でただ狼狽えていたチャオの部下たちは、ナハトの指揮により、燃える建物から山の木へ火が燃え移らないよう奮闘していた。
     一方、理人とチャオとナハトの三人は、屋敷から距離をとって、体を休めている。
    「気分は悪くないか」
    「はい。暁さんは、大丈夫ですか?」
    「俺のことは心配無用だ。一酸化炭素中毒の症状は?」
    「頭痛も、吐き気もありません」
    「そうか……」
     ナハトの表情が微かに緩んだ。ずっと追い求めてきた恋人とあんな状態で再会して、ナハトの心労というものもピークに達していたのだ。理人がいなくなってから積もり続けていた緊張が、やっと今解けたと言っても過言ではなかった。
    「それで……、この男が、あのチャオというわけか」
    「へえ、俺のことを知っているんだ?」
     気を失っていたチャオも、外で休んでいるうちに意識を取り戻していた。彼もまた、命に別状はないようだ。
    「理人のことを拐った誘拐犯だろう?」
    「リヒト……?ああ、もしかして、やまぶきのことかな」
     また、「やまぶき」だ。ナハトは眉間に皺を寄せた。一体なぜ、理人が「やまぶき」などという名前で呼ばれているのか。
    「まあ、拐ったと言われても仕方がないけどね。一目惚れして手元に置いておくと決めたのは俺だし。けれど、俺と君の立場では、元々叶わない恋だったのかな」
     切なげな笑みを浮かべるチャオに、理人は申し訳なさそうな表情を向けている。
    「チャオさん、あなたは、本当に……」
    「うん?」
    「……いえ。何でもありません」
     本当に、タイムジャッカーなのですか。本当に、自分を好きだったのですか。尋ねたいことはいくつもあった。しかし、それを口にすることがどうにも良くないような気がして、理人は口を噤んだ。
     ナハトは、そんな理人の様子が面白くなかった。こんな誘拐犯などに、なぜこんなにも気を使うのか。理人の心変わりを疑うわけではないが、それでも嫉妬心というものが湧き上がってくる。
     理人とはぐれてからというもの、ナハトは調子を狂わされっぱなしだ。こんなにも無様な姿ばかり晒してしまうとは。唯一の救いは、そのみっともない姿を当の理人が見ていないことだろうか。もし理人にあの醜態を知られてしまえば、これまでのようには尊敬してもらえなくなるかもしれない。
    (こんなことではいけないな)
     はあ、と息を吐いたその瞬間、ぽつり、ぽつりと腕が濡れる感覚がした。
    「雨……?」
    「そのようですね」
     それは急激に強さを増し、ざあざあと音を立てて燃え盛る屋敷に降り注いだ。それまで上に立ち上っていた黒煙に混じり、白い煙が周囲に溢れ出す。風に乗った煙は、理人たちを目掛けて襲いかかった。ナハトは咄嗟に理人の手を取り、理人もまた、ナハトの手を取った。
     呼吸を止め、そこから這い出るように移動する。薄く目を開けて、煙から距離を取る。しかし片手は握りあったままで、離すことはなかった。
    「……ここまで来れば大丈夫か」
     ナハトが振り返ると、未だ薄く煙が充満していたが、建物の火はだいぶ小さくなっていた。あの雨が火の勢いを弱めたのだろうか。しかしその雨も、今ではしとしとと残り滓のような小雨に変わり、しばらくしないうちにやんでしまった。
     ナハトはふう、と息を吐いたが、すぐに先程まで近くにいたチャオが見当たらないことに気がついた。
    「あの男は?」
    「えっ」
     理人は辺りを見回し、チャオの姿を探した。
    「いけません!彼はTPAに連れていかなければならないのに……」
    「TPAに?何故」
    「それは……」
    「それは、俺がタイムジャッカーだから、でしょ」
     言いよどむ理人の声を遮るように、チャオの声が理人たちの後ろから聞こえた。
    「チャオさん」
     理人が振り返ると、チャオは優しい笑みを浮かべながら立っていた。消えかけた屋敷の炎が弱々しく、チャオの顔を照らしている。
    「俺はいつでも大丈夫。……もう、一度死んだようなものだし、君に助けられた命だ。君のために使えたならば、本望というものだよ、やまぶき」
     チャオはそう言うと、理人に歩み寄り、頬に口付けた。
    「なっ!?何を……」
    「……暁さんと、幸せにね」
     その囁きは、理人の耳元にそっと告げられた。思わず理人が硬直していると、後ろから強引に引き寄せられ、ナハトの腕の中に収まった。
    「あまりうちのバディに近づかないでもらおうか?タイムジャッカーのチャオ殿」
    「ふふ、怖い怖い。貴方は俺がタイムジャッカーだって聞いても驚かないんだな」
    「自首をしてくれてありがとう。本部でもそれくらい素直になってくれると助かるよ」
    「やまぶき、やっぱりこんな男やめた方がいいんじゃない?」
    「チャオさん!」
     敵意剥き出しのナハトの声にも、チャオは怯まずくすくすと笑っている。理人はナハトを怒らせてしまわないか気が気ではない。
    「余計なお世話だ、タイムジャッカー。それから理人、後でしっかり報告してもらうからそのつもりでいるように」
    「は、はい!」
     理人は、ナハトの声に思わずぴしりと背筋を正した。
     そうしているうちに、ノヴァが呼んできたであろう町の火消し集団達が到着した。夜の闇でよく見えないが、瀧川らしき人物が走っているのを確認した。しかし、当のノヴァを見つけることはできなかった。
    (まあ、わざわざ奴を待つ必要はないか。色々世話になった礼をしたかったが、連絡手段もないのでは仕方ない)
     火消し達はさっそく屋敷を壊しにかかっている。少人数ながら手際が良く、既に人の背より低い高さにまで取り壊しが完了し、火もほぼ消えかけている。
     もうここの心配はいらないだろう。そう判断したナハトは、理人とチャオを連れ、未来へと帰還することにした。
     自分たちが見られてはいないか、周囲を確認する。火消し達は建物を壊し続け、チャオの部下たちはそれをぼんやりと見つめている。こちらに向いている目はない。
    (……そういえば)
     燃える屋敷に入る前、「やまぶきを連れてきてほしい」と言っていた人物はどこにいるのだろう。ナハトは目を凝らしたが、どうにもそれらしき人物は見当たらない。
     理人に聞けば、誰なのかはわかるのだろう。しかし、ナハトはもうこれ以上この時代にいたくはなかったし、理人にそれを話したところで帰る時間がさらに遅くなるだけだ。ナハトはあえてそれを忘れようとつとめ、タイムワープガジェットと通信機を立ち上げた。
    「こちら暁ナハト。TPA本部、応答せよ」
    「こちらTPA本部。暁隊員。報告を」
     ナハトの声に呼応するように、通信機から無機質な音声が流れる。
    「は。無事理人・ライゼ隊員を発見。ならびに、タイムジャッカーを確保。本部への帰還を行います」
    「本部への帰還を許可します」
     通信機の音声とともに、空間を裂くような穴が空いた。そこから光が発せられ、ナハトと理人、それから
    チャオの体が包まれた。
     ほんの一瞬で、三人はその場から消えてしまった。後に残ったのは、ナハトが着ていた着物の、破れた袖の布だけだった。
     
    「あーあ。あの着物、気に入っていたんだけどな」
    「まったく。バルド様のお着物だというのに。破るだけでは飽き足らず、そのまま着て帰るとは」
     本当に仕方のない男ですね、と顔を顰める。
    「まあ、それでも、やまぶきの大切な人であることには変わりないからね」
     びわ、もといバルドは、ナハトたちの消えていく様を、木の影から見つめていた。バルドの傍には、ノヴァの姿もある。ノヴァは不機嫌そうな顔をしているが、バルドはどこまでも穏やかだ。
    「頑張ってね、二人とも」
    「……バルド様?」
    「何でもないよ、ノヴァ。ただ、あのやまぶきの歩む未来が、明るいものであったらいいなと思っただけ」
     にっこりと笑うバルドに、ノヴァはため息をついた。
    「あんな男と一緒にいたら、明るくなんてなるわけがありませんよ」
    「おや。よほど彼が嫌いなんだね」
    「嫌いというか。……まあ、いいです」
     ノヴァはツンとそっぽを向いた。
    「それより、チャオの屋敷にあった楽器たちを回収しましょう。結構な数がありましたから、新しい保管場所を探す必要があるかと」
    「そうだね。次はどの時代へ行こうか。行きたい場所はあるかい?」
    「そうですね、私は……」
     二人はそう話しながら、光に包まれて消えていった。
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    27tael

    DOODLETBT見て、レジェとレジェメンって世間様にはもっとセクシークール系だと思われてるのか?と思ってたのと、ちょっと斜に構え彦もいいなのと、ころんさん心も体も素直でかいらくによわそう… と思って書いたいつもとちょっと違う雨クリ…
    「ん、――ッ」
     ねだられるまま唇を合わせて、甘く漏れる吐息を封じる。頬を指の背で撫でつつ顔を離した先で、既にとろけきった琥珀の瞳が、こちらを縋るように見つめてくる。
    「あ、あめひこ♡ もっと、触ってください♡♡」
     ホテルのベッドに背を預けながら告げられる、早々に恥じらいよりも欲がまさった素直なおねだりは、重ねてきた情事で躾けた仕草を思わせてどこか優越感をくすぐる。
     ――ほんの先程まで、メディアに掲載される、自分たちのパブリックイメージに沿った撮影を行なっていたのだ。
     アイドルとしてのレジェンダーズに求められているのは、年長ふたりのミステリアスな大人の余裕、年少のメンバーの小生意気な言動。
     ファンには熱を込めたライブパフォーマンスや、口を開けばもれなく海のこと、という「意外な」気さくさが伝わっているのかとは思うが、おそらく今回のグラビアでもこの男に冠される言葉は『気品ある美貌』『元助教の知性を帯びた笑み』『ここではない水平線を挑発的に見る目』だとか、なんとか。
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