白雪「白雪」
「ねぇ、兄さん」
天気の良い朝、目の前に広がっている一面の雪をぼーっと眺めていた謝憐は、声の主に振り向いた。
「なんだい?」
「ずっとそこに居るけど、寒くは無い?」
三郎の手を見ると、白い上衣を差し出してくる。
「大丈夫だ。ありがとう」
「そう。寒くなったら声を掛けて」
「うん」
また謝憐は視線を外に戻すと、熱心に白い雪を見つめ続ける。
「・・・」
その吐いている息は白く、手足も縮こまっている。寒くないはずがない。
三郎は肩をすくめると一つ息を吐き、縁側と呼べるのかも分からない木の板に座り込んでいる謝憐の横に腰を下ろした。
「ん?」
顔を向けた彼の神様の悴んだ手を握る。
「・・・寒くないわけがないよ。氷の様だ」
「そうかな?」
鬼の王で体温なんてとうの昔に捨ててしまった花城にそんなことを言われるなんてと、思わず謝憐は笑い出す。
「何がおかしいの?」
「いや、君は本当の姿だと心音も体温も無いのにって」
「そうだよ。ついでに言えば、寒さも感じない。便利な身体だよ」
「へぇ・・・でも、今は温かいね」
繋いだままの手をきゅっと握りしめる。
「・・・この、皮は・・・まぁ、そうだね」
強く握り返されたことに動揺し、言葉に詰まりながら視線を落とす。
「私から言い出しておいて、こんなことを言うのはおかしなことなんだけれど・・・」
謝憐は三郎の肩に寄り添う。
「・・・本当の姿だとしても、君はとても温かいよ」
「なぜ?」
体温がなく、雪に触れれば氷となるのに?
「・・・だって、となりにいると私の心が温かくなるから。いつだって、どんな姿でも君は温かい・・・私にとって、三郎は春みたいだ」
冷たい雪を、凍えた心を溶かす存在なんだ。
そう言うと、謝憐は立ち上がってひと掬い雪をとって三郎の頬に当てた。
驚きに目を丸くする顔を見て、謝憐は笑う。
「ほら、雪が溶けた!!」