夜の魔法「哥哥?」
「あ、三郎」
花城は道観の屋根に乗って星空を見上げる謝憐に声を掛ける。
「どこに行ったかと思いました」
「すまない。心配させた?」
「いいえ。哥哥の気配はしていましたから」
「そうか」
謝憐は花城を見て微笑むと、また夜空に視線を戻す。
「今日は星が綺麗なんだ」
「へぇ・・・僕もそこへ行ってもいい?」
「もちろん」
頷くと、花城は軽く飛び上がり、謝憐の横に着地する。
座っている白い裾を踏まない様にしながら、腰を下ろすと片膝を立てて星空を見上げる横顔を見つめた。
「・・・三郎。星は見ないのか?」
視線を感じ、謝憐は苦笑いをする。
「見てるよ」
「君が見てるのは私の顔だ」
「仕方ないよ。星よりもずっと美しい」
臆面無く言い放たれて、星よりも美しいと称賛された横顔がくしゃりと歪んだ。
「どうして君はそう・・・」
「事実だ」
「さんらぁん」
もうやめてくれと、謝憐は両手で真っ赤になった耳を塞いだ。
くつくつと肩を震わせて、花城は大切な神様がこれ以上冷えない様に、着ていた紅い上着を肩にかける。
「そろそろ戻りませんか?」
「そうだなぁ・・・」
名残惜しそうにまた夜空を見上げた鳶色の瞳が見開いた。
「三郎!!流れ星だ!!」
「どこ?」
「ほら、あそこ」
謝憐の指差す方を二人で見上げ、頬と頬が少し触れる。
その温かさに思わずドキリとして、少しの間、見つめ合う。
気がついたら、二人は唇を合わせていた。
流れ星が叶えた魔法のような柔らかな夜の話。