銀蝶「銀蝶」
差し出された手を取って、歩き出す。
赤い雨が降り、傘をさしてくれた。
面紗を上げるその時、全ては砕け散った。
あの綺麗な蝶を残して・・・
与君山の事件後、天界では慌ただしく事後処理が行われている。
もちろん今回、鬼花婿を捕らえた謝憐は責任者として指示を・・・と思っていたが、そんなことはなく、報告を上げる終わると殆ど居ないものとして扱われていた。
恐らく皆、あの銀の蝶を操る鬼王に出会い、ピンピンとしているのを恐ろしがっているのだろう。
ただでさえ神官たちは謝憐に良い感情を抱いていない。そこにきて、絶境鬼王の件だ。関わり合いになりたく無いと思うのも無理はない。
しかし周囲からの態度を大して気にすることもなく、有り余る時間で謝憐は自分のこれからを考えていた。
どうしたものかな・・・
飛昇し直後に早速背負ってしまった莫大な借金に返す宛もない。運のなさに苦笑いこそすれ、これも大した問題ではない。
謝憐にとっては最も重要なことはこれから己が何を成すべきなのか?である。
三度目の飛昇を迎え、またも神官として上天庭の端くれに名前を連ねたが、謝憐には信徒もいなければ廟もない。
無いことに不自由を感じてはいないが、己の存在意義の薄い神官は程なく神としての力を失うだろう。
だからと言って、仙楽太子が建てた神殿にも足は向かない。天界に身の置き場がないのだ。
やれやれ・・・と、空を見上げる。
上天庭は空にあるのに、まだその上がある。神にも人にも等しく空が広がるっているのだ。
ふと、あの幻想的な銀の蝶を思い出した。
神も人も平等なら、鬼は?
ぶわりと身震いをして、謝憐は目を見開いた。
あの若邪で貫く瞬間に無数の銀の蝶になって消えた鬼王に・・・
だって、優しかったんだ。助けてもくれた。礼を言えていない。
会わなきゃいけない。
何故か理由はわからないが強く思った。
神官が鬼に会いたいなど、通霊陣で零せば避難の嵐だろうし、霊文ですらも眉間を揉むに違いない。
だが、謝憐の心は決まった。
するとどうやって彼に会うかだが、遣いをやって呼び出したところで、流石に絶境鬼王と言えども上天庭まではノコノコとやってはこれまい。
「う〜ん・・・」
腕を組んで考える。
唸っていると、すっと雲の隙間から地上が見えた。
緑豊かで長閑な下界を覗きこんで、手を叩く。
「あ〜・・・霊文?ちょっと良いかい?」
「はい、如何されました?太子殿下」
「その、これからの身の振り方なのだけど・・・道観を建てて、自分で自分を祀ろうかと」
「は?」
あの可愛い銀の蝶に会うために・・・