やきもち バタンっ!ガチャン!
俺が中に入るなり、わざと音のするように勢いよくドアを閉め鍵をかける……いや、そんな事しなくても眉間の皺といつもより釣り上がった目つきで十分わかる……だが何に怒ってるかはわからねェ。ずっと黙りこくって足早に歩くから、追いかけつつ家に帰ってきた。
「なぁ、なにに怒ってんだァ?」
「怒ってなどいない」
「じゃあもっと静かに閉めろや……」
「うるさいっ」
脱いだ靴を揃えながら、上目遣いで睨みつけてくる……可愛い顔して……しかしお怒りは頂点に達してる模様だ。プンプンと効果音がつきそうな歩き方で部屋に入っていく。
「いぐろくーん、ご機嫌直してー、何があったかしらねーけど」
「はぁ?とぼけるつもりか?さっきのはなんだ!さっきのは!」
「さっきってどれよ?」
「さっきだ!俺を待ってる時の!」
そこまで言われてやっと思い出す。伊黒が本屋に立ち寄ってる間のことか。用事のない俺は建物の間にぽつんと置かれた灰皿が作るわずかな喫煙スペースで、煙をたたせながらボケっと突っ立ってた。
「すみませーん、ご一緒いいですか?」
長髪の女に声をかけられて、何も言わずに1歩奥へずれてスペースを空ける。
「お一人ですか?」
ふーっと煙を吐き出したあと、こちらにニコリと微笑みながら話しかけてくる。喫煙所で喋るタイプの人間は苦手だ……ましてこういうタイプの女はめんどくせェ。軽く首を振って、さらに半歩離れる。すると少しずつ近づきながら話を続ける。
「一緒にいるのは男性かしら?」
男性かと問われれば男性だなぁ……一定の距離を保つように動きながら、黙って軽く2回頷く。今度は離れた隙間を詰めるようにグイグイ近づいてくる。キツめの香水の匂いがタバコと混ざって最悪だ……。
「えー!奇遇ですねぇ。私も友達と2人でお出かけしてるところなんですよー。良かったらこの後、どこかで食事しませんか?」
「いや、間に合ってます」
「きゃ!声も素敵ですね!……えー、超タイプー。ねぇ、そんなこと言わないでお話しましょうよぉ」
こちらを見上げながらパチパチと瞬きをして、そっと二の腕に手を添えてきた。きもい。しかし逆サイドの建物の壁にたどり着いてしまい逃げ場がない。
「おい!終わったぞ!」
伊黒の叫び声で女が振り返る。
「……うっそ、お友達も超イケメンだし!」
女の手が離れた瞬間に、急いで火を揉み消して吸い殻を捨て、女を若干押しのけるようにして喫煙スペースを離れた。そうしてる間に伊黒は足早に歩き出してしまったので、慌てて走って追いかけた。
……え、不機嫌の原因がこれだとしたら、それはもうヤキモチ以外の何者でもない気がするんですが。あまりにも可愛い理由に思わずニヤける。
「逆ナンされたこと?」
「何故、ちゃんと断らない」
「え、断ったし」
「間に合ってると言うのは断ったうちに入らない!しかも随分と近づいて話をしていただろうが!」
「いや、勝手にあっちが……」
「俺はお友達なのか!!!」
いや、可愛すぎて困るわ。キッと睨みつけている顔すら可愛い。
俺の掌に収まるくらい小さい顔しやがって……片手に収まる両方の頬をむにゅっとつまみ、突き出た唇にキスをする。
「俺が好きなのはお前だけだろが……」
「んー!むー!」
何か言いたそうだけど頬を掴まれて喋れない……可愛い。まぁ、手を離したところで喋れないのには変わりないが。ガッチリと身体を抑えて舌を入れて刺激する。伊黒の力が抜けてきて、ふにゃふにゃしだした……可愛い。
「ベッドいかね?」
「断る……シャワーしたい」
「おっけ、風呂でしよーぜ」
「するとは言ってない!」
んで、結局風呂でもしたし、ベットでもした。
終わり