帰宅「俺絶対生まれ変わって帰ってくるから」
その言葉を聞いたのは10年前。1人では広すぎるし高すぎる家のローンを律儀に払って俺はここで待っていた。
春先のひどく冷たい風が目立ち、独りを突きつけてくる。
風の先には勿論シアンの色なんて無いのに、何故だか探してしまうのだ。
人間の友達も段々と地に眠り、不死を今日も呪う。
なんていう日々が懐かしい。
あれから200年と少し、ローンが完済してこの馬鹿広い家は自分1人のものとなった。
夏の照りつける太陽を大きな窓から吸い込んで、贅沢に空調をきかせて自分を労う。
真っ青な空を少し銀色がかった入道雲が綺麗に泳いでいた。
短命種の友達とは殆どが連絡が取れなくなった。
そんな事にはもう心が動かなくなっていた。
それからさらに数百年。エルフの友達が世界樹に帰ったと連絡を受けた。
慣れてしまったと思っていた別れだが、長命種に置いていかれると違った痛みがあるらしいと知った。
心にトゲが刺さったようで、眼鏡を外して涙を拭えば、橙色が目に入る。
思い出したその痛みを積もらせるように、紅葉はベランダへと積もっていった。
その辺からだろうか。他人との関わりを極端に減らしたのは。
独りは嫌いだ。寂しい。けれど、友人を見送ることに疲れてしまった。
もう約束なんて忘れてこの家を捨て、同族の元に帰れば良い。
そんなことを1000年もの間考え、そして実行できずにいた。この場所から離れられないのに、1人は嫌なのだ。
なんてワガママなんだろう。
はは、と乾いた笑みが、全く笑っていない自分から漏れて気持ちが悪かった。
雪はそんな気持ち悪さも隠してくれる様だ。
春が巡り、夏が過ぎ、秋を通って、冬が来る。
日本の四季は世紀によりごちゃつくことはあっても、結局4種類が廻っていた。
隣が居なくなって、何度繰り返したか数えられなくなった頃。
「遅くなってごめん」
銀髪にシアンの瞳を輝かせ、マフラーを脱ぎながら頭の上に乗った雪を払う貴方は、橙色の笑顔を見せながら当たり前のように突然帰ってきた。
あまりにも自然に、ここが家だと疑うことなく。
「おっせぇよ」
俺は、上手く笑えただろうか。