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    試運転中。ジャンル雑多です。

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    【ちょぎにゃん】水に囲まれた本丸で過ごすふた振りのある夏の日。去年、折り本企画さま用に書いていたものですが、気に入らなくて没にしたのでこっそり供養します。

    青い空を、緋鯉がゆったりと横切ってゆく。動きにあわせて水面が揺れ、映り込んだ雲が生き物のようにゆらりとかたちを変えた。夏の力強い日差しが反射し、きらきらとまばゆい。
     涼やかな水音に耳を澄ませ、長義は中庭に面した濡れ縁を進んでいく。庭といっても枯山水のそれではなく、大きな池と蓮の花があるばかりだ。陽光から逃げるように、まるい葉の下に鯉たちがそっと身を潜めていた。
     清らかな水は結界の如くこの本丸を囲み、至るところに流れ込んでいる。
    「魚を狙っているのかな?」
     縁側に佇む背中に声をかけると、不満げに眉根を寄せて振り返った。
    「餌当番だ……にゃ!」
     南泉の右手にある大きな袋が、存在を主張するようにがさりと音を立てる。
    「おや、これは失礼。じっと池を眺めているものだから、つい勘違いしてしまったよ」
    「ついじゃねえだろ! 馬鹿にしてんじゃねえ」
    「お詫びに手伝ってあげようか」
     余計なお世話だ。水音にまじって聞こえてきた声を無視し、長義は南泉の手から袋を奪う。ぽとり、ぽとり。まるいかたちをした小さな餌をいくつか投げ込めば、すかさず鯉たちが集まってくる。
    「勝手にオレの仕事とんなっての!」
    「手伝うとは言っただろう?」
    「屁理屈だ……にゃ」
     ぼそりとつぶやき、袋を奪い返してそっと餌を放る。途端に口を大きく開けて我先にと奪い合うさまに、南泉がため息をこぼした。
    「こいつら、暑いのに元気だよなあ……」
    「ああ、見ているこちらまで余計に暑くなりそうだ」
     そこかしこに流れる水のおかげで、おそらく他の本丸よりは涼しいのだろう。しかし葉月ともなれば、水の館と呼ばれるここも相応に暑い。
     髪をひとつにまとめた南泉の首筋を、音もなく汗が伝っていく。さらけ出されたうなじがしっとりと湿るさまに、長義は知らず息を呑む。ぎゅっと握り込んだ己の手のひらも、かすかに熱をはらんでいた。
     きっと、更に暑くなる。頭ではそうわかっていても、こみ上げる衝動には抗えなかった。気だるげに池を眺める背に腕をまわし、首筋に顔を寄せる。汗のにおいが、昨夜の記憶をあざやかに呼び起こした。
     白い肌に唇が触れるまさにその瞬間、腕のなかの男がするりと逃げ出す。
    「暑いんだよ……!」
     尻尾を立てて警戒する猫のように、長義から距離をとった南泉がこちらを睨んでくる。
    「夏だから仕方ないだろう?」
    「そういう意味じゃねえ、にゃ!」
    「じゃあ、どういう意味なのかな」
     聞かせてほしいな。笑みを浮かべながら一歩近づけば、同じぶんだけ南泉が離れていく。鯉たちはふた振りの茶番など興味がないとばかりに、餌を探して池を泳いでいる。それに気づいたかのように、南泉が残りの餌をひと息にばらまいた。
    「これ以上近寄るんじゃねえ……にゃ」
     長義をひと睨みし、くるりと背を向け南泉が去っていく。荒々しい足音が聞こえなくなると、静かな中庭には長義と魚たちだけが残された。
    「……猫は寒いほうが苦手じゃなかったのかな」
     ぽつりとこぼした言葉に、いつものような反論はない。餌が尽きたと悟ったらしい鯉が、ぽちゃんと大きく跳ねて水中へと消えていった。


     喉の渇きに目を覚ましたところで、かすかな足音が廊下を通りすぎていく。よく知るその気配に、長義はそっと身を起こした。そのままゆっくりと後を追えば、昼と同じ場所へとたどり着く。こちらを振り返った男の姿が、月の光を受けて闇にぼんやりと浮かび上がった。
    「なんだよ、お前も眠れねえのかぁ?」
    「目が覚めてしまってね」
     ちらりと表情を覗いながら隣に並んでみるが、昼間のように距離をとられる様子はない。ひそやかに胸をなで下ろした長義の寝間着の袖を、涼やかな風がいたずらに揺らす。心地よいそれに、南泉がやわらかく目を細めた。
    「やっぱここは風が気持ちいいな」
     蓮はしとやかに花びらを閉ざし、鯉たちは葉の陰で眠りについている。ふた振りだけの静かな夜を知るのは、中天の月ただひとつ。
    「南泉」
     期待を込めて名を呼べば、仕方ないとばかりにゆっくりと腕を広げて南泉が頷く。
    「……今は涼しいから、な」
     その頬がかすかに赤くなっていることには、きっと触れぬほうがいいのだろう。ふたたび吹いてきた風に心のうちでそっと感謝して、長義は愛しい熱に手を伸ばした。
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    MOURNING【了モモ】了さんの寝顔の話。2017年に書いたものをべったーから引っ張ってきました。この人も寝るのかと、百は感慨深い気持ちでソファに座ったまま眠る了を見つめる。人間である以上当然の行為だが、どこか人間味のない了が静かに眠っている姿は、百にとってひどく不思議で新鮮に思えた。

    「了さーん? まじで寝ちゃってる……?」

     目の前の光景が信じられずに思わず小声で問いかけたが、返事は一向になかった。静まり返った部屋には、了の寝息と時計の音しか聞こえない。悪趣味な悪戯として寝たふりをしている可能性も考えた百だったが、どうやら本当に寝ているらしい。

    「了さんが寝てるとか、すっごいレア……写メ撮っときたいくらい」

     しみじみと呟いてから小さく寝息が聞こえることをもう一度確認し、百はそっと了に近寄っていく。恐る恐る顔を覗き込むと、意外にも穏やかな寝顔をしていて面食らった。普段はよくまわる口は閉ざされ、ぎらぎらとした光を宿す瞳も今は瞼の向こうに隠れたきりだ。そのせいか、了の寝顔は普段より幼い印象を与えた。
     了との付き合いは長いほうだが、こんな表情は百も初めて見る。あどけない寝顔、だなんて形容するには物騒な男だが、それでも今は彼の持つ底知れない不気味さが影をひそめ、ただの人畜無害 2258

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    MOURNING【ちょぎにゃん】水に囲まれた本丸で過ごすふた振りのある夏の日。去年、折り本企画さま用に書いていたものですが、気に入らなくて没にしたのでこっそり供養します。青い空を、緋鯉がゆったりと横切ってゆく。動きにあわせて水面が揺れ、映り込んだ雲が生き物のようにゆらりとかたちを変えた。夏の力強い日差しが反射し、きらきらとまばゆい。
     涼やかな水音に耳を澄ませ、長義は中庭に面した濡れ縁を進んでいく。庭といっても枯山水のそれではなく、大きな池と蓮の花があるばかりだ。陽光から逃げるように、まるい葉の下に鯉たちがそっと身を潜めていた。
     清らかな水は結界の如くこの本丸を囲み、至るところに流れ込んでいる。
    「魚を狙っているのかな?」
     縁側に佇む背中に声をかけると、不満げに眉根を寄せて振り返った。
    「餌当番だ……にゃ!」
     南泉の右手にある大きな袋が、存在を主張するようにがさりと音を立てる。
    「おや、これは失礼。じっと池を眺めているものだから、つい勘違いしてしまったよ」
    「ついじゃねえだろ! 馬鹿にしてんじゃねえ」
    「お詫びに手伝ってあげようか」
     余計なお世話だ。水音にまじって聞こえてきた声を無視し、長義は南泉の手から袋を奪う。ぽとり、ぽとり。まるいかたちをした小さな餌をいくつか投げ込めば、すかさず鯉たちが集まってくる。
    「勝手にオレの仕事とんなっての!」
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    MAIKING【アズ監♂】自分はアズールに相応しくないのではないかと悩む監♂のはなし。
    ※力尽きて放置してあったので途中までです
    ※台詞のなかでデフォルトネームの「ユウ」を使用しています
    ※性別が明確にわかるようなシーンはないですが♂派なので♂と表記しています
    うつくしいひとだった。手本のような持ち方でペンをにぎる細長い指先。文献の記述をたどっていくアイスブルーの瞳。すらすらとよどみなく答えを紡ぎ出す唇。彼をかたちづくるものは、なにもかもうつくしい。
     その最たるものが、心だった。ひたすらに努力を重ねてきた勤勉さと、それゆえの自信。
     監督生にとって、アズール・アーシェングロットは誰よりもうつくしいひとだった。
    「監督生さん、聞いていらっしゃいますか?」
     隣からの呆れたような声に、監督生はふと我に返る。古い紙のにおいが満ちた空間。机に積まれたいくつもの本。真っ白な課題に少しずつ広がっていくインクの染み。
     慌ててペンを置き、監督生は隣に座るアズールにちらりと視線を向ける。呆れてはいるようだが、機嫌を損ねてしまったわけではないらしい。
    「すみません先輩……!」
     場所を考え、できるだけ声を落として謝罪する。ふたりのまわりには大きな本棚が並ぶばかりで、他には誰もいないのだけれど。
     放課後の図書館。進まぬ課題に一人で唸っていれば、ちょうど返却に訪れたアズールが見かねたように声をかけてくれたのだ。ラウンジの開店にはまだ少し時間があるから、と。
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    MOURNING同棲してるみなトウの話ソファにもたれかかり、穏やかに目を閉じる恋人。おかえりの代わりに聞こえてきた寝息に、思わず笑みがこぼれる。年上のくせに、子供のようにあどけない寝顔だった。
     投げ出された腕の先にあるスマートフォン。おそらく、巳波からの連絡を待っているうちに寝てしまったのだろう。落ちてしまいそうなそれを手にとり、テーブルの上に置く。かたりと小さな音がしたものの、寝息は相変わらず途切れることはなかった。
     疲れていたのだろうなと、目の下にうっすらと浮かんだ影を指先でなぞる。ひどくまっすぐでわかりやすいくせに、こういうところは悟らせまいとするのだ。不器用で、健気で、どうしようもなく愛しくなってしまう。
    「狗丸さん」
     寝かせておきたいが、このままでは風邪をひくだろう。寝室からブランケットを持ってきて、そっと肩にかけてやる。これでは本当に、どちらが年上かわからない。
     目を覚ましたこのひとは、優しいだなんてまた言うのかもしれない。貴方だからだと――貴方にしかこんなことまでしないと、いい加減に気づいてほしいのだけれど。見当違いの言葉は、いつだって巳波を落ち着かない心地にさせた。
     トウマといると胸のあたりがふわ 993

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