Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    seeds_season

    @seeds_season

    ただいまmhyk小説(メインはミス晶♂・全年齢)がしがし書いてます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 👌 💜 📚 🌕
    POIPOI 21

    seeds_season

    ☆quiet follow

    うっかり長くなってしまって、なかなか書き終わらないので、ちょいちょい進捗あげて行こうと思います…。尻を叩いて頂けると助かる…。

    (タイトル未定)――お前、ミスラの匂いがするネ――

     それは魂まで凍りつきそうな、羨望と怨嗟の声。
     記憶は、そこで途切れている。

    +++++


     朝。ぐうぐう鳴る腹を宥めるべく、食堂へ向かっていたブラッドリーは、廊下の曲がり角でばったりと出くわした人物に真正面からぶつかりかけた。
    「おっと! 危ねえな、賢者」
     咄嗟にその両肩を掴んで制動をかけ、難なく激突を免れる。お互いに速度を出していなかったし、なにせ賢者はブラッドリーより小柄だから、魔法を使わずともこのくらいは朝飯前だ。
    「わっ! すみませんブラッドリー! おはようございます」
     こんな時でも朝の挨拶を欠かさない律儀さに苦笑しつつ、「おう」と応えて手を離す。
    「ちゃんと前見て歩けよ。って――」
     目の前に立つ賢者の姿を頭から爪先まで眺め、ふむと顎を掴んだブラッドリーは、素早く周囲を見回して人気ひとけがないことを確認すると、ずいと賢者の耳に顔を寄せた。
    「お前、ミスラの匂いがするぞ。どっか囓られでもしたか?」
    「!」
     子猫のように小さく飛び上がって驚く、その耳が赤い。
    (おいおい……冗談だったんだが?)
     ミスラと賢者が毎晩のように添い寝をしていることは周知の事実だし、ミスラが賢者に執着していることなど、日頃の態度を見れば容易に想像がつく。最初は悪い冗談かと思ったが、賢者も少なからず好意を持っているようだし、他人様の個人的な付き合いに口を出すような趣味はないから、これまでは特に突っ込まずにいた。
     しかし、ここまで露骨だと、流石に一言もの申したくなるたくなる。
    「小猫に甘噛みされた、くらいの感覚でいるのかもしれねえが、相手は可愛い猫ちゃんじゃねえ。その気になれば一噛みで人を食い殺せる、獰猛な野獣だぞ。そこら辺、ちゃんと分かってるだろうな?」
    「はい、それは重々承知してます。実際、囓られるたびに命の危機を感じてますし……」
    (マジで囓られてるのかよ……。あいつ、何考えてるんだ)
     どうやら自分が思っているよりは進展していないようだと判断して、改めて賢者にまとわりつく『匂い』を分析する。
    「加護の魔法か。あいつにしちゃ気の利いたことするじゃねえか」
     ただでさえ無茶をしがちな賢者には、むしろこのくらいの加護があってしかるべきだ。それをかけたのが双子や呪い屋ではなく、あのミスラというのは意外だが、厄災の傷で眠れぬ体になったミスラにとって賢者は生命線にも等しい。過保護になるのも頷ける。
    「ま、いいんじゃねえか。悪い魔法もんじゃねえしな。ただし、気をつけろよ。俺様みたいに、それがミスラの魔法だって気づくヤツもいるからな」
    「あの、ブラッドリー。質問なんですけど、魔法の気配というのは、術者を特定できるくらいに違うものなんですか?」
     不思議そうに尋ねられて、賢者が魔法に詳しくないことを思い出した。
    「まあな。魔力が強いと、はっきり痕跡が残るから分かりやすいんだ」
     先生役など柄でもないが、子供のようにまっすぐな目で問われると、何だか悪い気はしない。
    「ほら、体臭は人それぞれ違うだろ? それと似たようなもんだ。知りもしない相手の匂いを判別するのは無理だが、よく知ってるヤツの匂いなら嗅いだ瞬間に分かる。そういう感じだ」
     当然、痕跡を隠すことも可能だし、逆に力の弱い魔法使いがかけた魔法は気配が薄すぎて辿ることが困難だが、ミスラの魔力は憎たらしいほどに強力で、しかもブラッドリー自身、過去に何度もやり合って嫌というほどその身で味わっているから、目を瞑っていても分かってしまう。
    「なるほど……。昨日、ミスラも言ってました。服を汚してしまって、シャイロックが魔法で綺麗にしてくれたんですけど、その匂いが気に食わないって」
    (だから自分の魔法で上書きしたのか。本当にけだものだな、アイツ……)
     賢者がミスラを猫扱いするのも、あながち間違ってはいないのかもしれない。それこそ動物が縄張りに匂いつけをしているようなものだ。
    「で、そのミスラはどうしたよ」
    「呪術に使う材料を探しに行くといって、朝から森に出かけてます。強力な魔除けを作るとか何とか……」
     朝食も取らずに出ていくとは珍しいが、ミスラの行動は読めないことが多いから、気にするだけ無駄だろう。
    「そうか、じゃあ今日の朝飯はいつも以上におかわりし放題だな」
    「今日はネロが新作のパンを焼くって言っていましたから、楽しみですね」
     その言葉を裏付けるように、階下からはバターの良い匂いが漂ってくる。
    「こいつは旨そうだ。早く行こうぜ、賢者」
    「はい!」
     歩き出そうとした矢先、背後から何やら軽やかな足音が響いてきた。嫌な予感がして振り返ったブラッドリーは、満面の笑みで駆け寄ってくる双子の姿に、思わず「げえっ」と呻き声を上げる。
    「賢者ちゃん、ちょうどよいところにー!」
    「緊急の依頼じゃよー!」
     思わず顔を見合わせ、困ったように笑い合う二人。どうやら、ネロの新作パンをじっくり味わう暇はなさそうだ。
    「おいおい、飯くらいゆっくり食わせろよ」
    「朝食を食べながら打ち合わせをするのが、出来るビジネスパーソンなんじゃよ!」
    「パワーミーティング、というやつじゃな!」
    「……前の賢者様、どうしてそういうことばっかり吹き込んでいくかなあ……」
     そうして、追いついてきた双子と肩を並べた二人は、改めて食堂へと向かって歩き出した。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💗💗💗🍑👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works