Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ゆりお

    @yurio800

    毎日文章を書くぞ @yurio800

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 65

    ゆりお

    ☆quiet follow

    プロになった佐倉と日本にいる高谷の話。

    ##灼カ

    さくたか/🔥🦛 スマートフォンに触って画面に表示された時刻を見る。随分時間が経ったと思ったのに、先ほどより三分しか進んでいなかった。つけっぱなしのテレビからはずっとバラエティが流れているけれど、右から左に抜けて何も内容が入ってこない。
     高谷はため息をついてノートパソコンを閉じた。海を越えたとあるスポーツの話は、たとえプロリーグだとしてもほとんど話題に上がらない。
     もう一度時刻を確認する。今度は先程から一分しか経っていない。通知、なし。
     もう一度大きくため息をついて。しばし落ち込む。ケータイが鳴らないことではなく、自分の気分のことだ。これではまるで親の帰りを待つ子供や、飼い主の帰りを待つ犬のようではないか。
    「……寝るか」
     いつもより少し早いが、自分だって一日遊んでいたわけではない。明日も早いし、夜更かしなんてしてる余裕はない。テレビを消して、洗面所で歯磨きをしながら。もう一本の歯ブラシがくたびれていることに気づき、帰ってくるまでに新しいものを用意しておこうと考える。なんて健気な恋人だろう。
     電気を消して、ベッドに潜り込む。朝のアラームを確認して、目を閉じる。寝付きは悪く何度か寝返りを打ったが、疲労が勝り徐々に微睡んでゆく——

     ケータイが鳴っている。
     高谷はもぞもぞと布団から這い出て枕元のそれを手に取った。暗闇の中で光る画面が眩しくて、よく見ないまま耳に当てる。
    『——もしもし? 遅くにごめん』
     声を聞いただけで一瞬で目が覚めた。
    「はい、高谷煉でーす。ただいま就寝中です」
    『起きてるじゃん』
     佐倉の苦笑する声。本当に尻尾を振る犬にならないように、わざと不機嫌な声を出す。
    「こんな遅くに非常識ジャナイデスカ? こっちはもう夜中の3時なんですけど!」
    『えっ!? ——って、いやそれはないだろ』
     一瞬騙されかけた佐倉が、呆れた声を出す。見ればこちらは少し前に日付が変わったから、向こうは21時くらいのはずだ。スピーカーにしたのか、聞こえる生活音が大きくなった。向こうから衣擦れの音がする。着替えているのだろう。
    『じゃあ今日は音声だけにする?』
    「うん、もう布団入っちゃったし」
    『ごめん、思ったより遅くなっちゃって』
    「忙しいなら無理にかけてこなくてもよかったのに」
     わざとそう言うと、佐倉の声のトーンが下がる。
    『だって』
     少しの間と、呼吸の音。
    『声、聞きたかったから……』
     思わず言葉に詰まる。そんなことを言われたら何も言えない。
    『眠くなったらそのまま寝ちゃっていいよ。こっちで切るから』
    「うん……」
     高谷はぐるりとうつ伏せになり、枕に顎を乗せた。
    「いま帰ってきたところ?」
    『そうだよ、これからご飯。ごめん、ちょっとうるさくするかもだけど』
     彼の言う通り、カチャカチャと食器が擦れる音がする。
    「ちゃんと食ってるの?」
    『うん。でもこっちはあまりお肉を食べないから、少し物足りなかったりするけど。味付けも独特だし』
    「チェリー君、繊細だもんね。」
    『うるさいな』
     佐倉より先にインドに渡った六弦からは聞かなかった話だ。食事のことや住まいのことを聞いても問題ないとしか返ってこない。佐倉からは時間にルーズで慣れないとか、新居のシャワーが出なくて大変だったとか、そういうことをちょこちょこ聞く。性格の差が出ていて面白い。
    「それにしても、チェリー君が六弦さんと同じチームってウケるよな」
    『僕もびっくりしたけど……でも良くしてもらってるよ。こっちに来たばっかりだから、知り合いがいるのは心強い』
    「六弦さんは変わってるけど、面倒見はいいから」
     元後輩として、なぜだか高谷が得意げになって笑う。そのまま、からかうように続けた。
    「どうせ王城さんの話ばっかりしてるんだろ?」
    『いや、六弦さんとは高谷の話をすることが多いよ』
     それはあまりにも不意打ちで、今度こそ言葉が出てこなかった。
    『カバディ以外だとやっぱりね——六弦さんは僕たちのこと知ってるから、向こうからもよく聞かれるし』
     顔が熱くなるのを感じる。本当に、今日はカメラを繋がなくてよかった。心からそう思う。
    『あれ? 高谷? 寝ちゃったのかな——』
     このまま寝たふりをしてもよかったけれど、なんだか悔しくて、仕返しをしたくなった。
    『チェリー君』
    「あ、起きて——」
    『早く帰ってきてね』
    「え、うん……」
    『エッチしたいから』
    「なっ!」
     佐倉の驚きの声と共に通話を切ってケータイを放り投げる。ぐるぐると布団を体に巻きつけてきつく目をつむり——
    「ねむれねー……」
     火照った体を持て余しながら、高谷は呻いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞💞💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    somakusanao

    DONEココイヌちゃんがチェーン系列のフード店でデートするお話です。⑤カラオケ店
    カラオケ店はフード店じゃないというごもっともなつっこみは、心の中でお願いします…
    ココイヌデート⑤カラオケ店「九井さん! 来ました!」

     キッチンに衝撃が走った。
     九井さんは、べつにこのチェーン系列カラオケ店のマネージャーでもエリア長でもなんでもない。一般人である。たぶん一般人ではなく、おそらく関東卍會の、げふんげふん、いや、うん、それは確証がないし、考えないことにして、一般人ということにしておく。
     身なりからして金を持っているであろう彼だが、なぜかときどき当店をご利用される。そしてキッチンのストックを空にしていく。なにしろ九井さんはよく食べる。めちゃくちゃ食べる。マジであの細い体のどこに入っているんだというくらいのブラックホールだ。
     そのうえ九井さんはメニューをいろいろと楽しみたい方で、「トマトの海賊風チキンみぞれ煮バゲット添え」なんていう当店で三カ月に一回も出たことのないメニューも頼む。そのたびにキッチンはレシピはどこだと探す羽目になる。しかも、九井さんはたいてい一時間でご退室される。つまりスピード勝負なのだ。
    1583