冴木と志場/灼熱カバディ 2.2%。
この数学の意味がわかるだろうか。
昼休み、星海高校カバディ部の部室にて。
一番最初に気づいたのは、いつも通り冴木だった。
「あれ、また志場ちゃんいねーな。また連絡見てないのか」
「まあ今日は突然だったしな!」
確かに本田の言う通り、昼休みに急遽レギュラー陣でミーティングをすると連絡が来たのは今朝のことだったが。現代っ子らしからぬケータイに無頓着な彼らしい。朝と昼に一回ずつくらいは確認しなさいと言ってはいるもののなかなか改善しない。
部長の不破の無言の圧を受け取り、冴木は肩を竦めた。
「ハイハイ、探してくればいいんだろ」
無口で表情に乏しい後輩ではあるが、思考は単純で読みやすい。冴木は真っ直ぐに中庭へ向かう。弁当を囲んで賑わう生徒の喧騒の中をするすると進めば、一番奥の芝生の上で、すやすやと寝息を立てる志場の姿があった。
「かわいい寝顔だねえ」
冴木は呟き、思わず苦笑した。
「まあこんな天気のいい日に、むさっくるしいミーティングとかもったいねぇよなあ」
そして志場の隣に座りこむと、大きく伸びをした。
*
女の子に囲まれている生活が普通だった。
幼い頃は見た目も女の子のようで、そのせいもあって違和感はなかった。
みんな優しかったし、バレエをやっている男子は貴重だったから、大事にされていたと思う。
ピアノの演奏、リズムを取る軽やかな声。
最後の発表会の演目は『くるみ割り人形』だった。
*
予鈴とともに志場は目を覚ました。
「よぉ、お目覚めかい」
寝起きの視界に飛び込んできたのは、脛毛だらけの脚だった。志場はしばらくぼんやりとそれを見つめると、おもむろに毛をむしった。
「いってえな! なんだよ!?」
「…………? すみません……」
冴木の悲鳴にようやく覚醒し、志場は身体を起こす。
涙目で脚をさすりながら、冴木が言う。
「もう昼休みも終わるから、ミーティングはサボリだな」
志場は一瞬考え込んだあと、慌ててケータイを取り出した。その様子を見て、冴木が笑う。
「どうせもう間に合わねえって。一緒にサボってやったんだから、感謝しろよ」
「それなら、起こしてほしかった......」
「あんまり気持ち良さそうに寝てるからよ」
どんな夢見てたんだ? 冴木の軽口に、志場はいつものように考え込んでから口を開く。
「昔の夢、見ていて……」
「昔? バレエか」
志場はこくりと頷いた。
「2.2%……」
そして不意に呟く。首を傾げる冴木に向かって、続ける。
「男子のバレエの割合です。たった2%しかいないんですよ……教室も、自分以外みんな女の子でした」
「……自慢?」
「いえ、べつに……そういうわけじゃ」
「なら、カバディは全然違うだろ」
「そうですね……教室は、いつもいい匂いがしたし……」
「やっぱり自慢じゃねえか」
冴木に小突かれる。そろそろ本鈴が鳴るので、下に敷いていた上着を手に取って立ち上がった。
「志場ちゃん、なんでカバディに来たんだ?」
「……秘密です」
最後の役はくるみ割り人形。クララの愛で魔法が解けて王子に戻る。
本当に強い選手というものを知っている。目にしたときから魔法にかかってしまったのだ。
あの人に認められたらきっと魔法が解けて、自分も本物になれるに違いない。