六王/🔥🦛 酒の宴も終わりに近づいてきたころだった。
「なぁ、王城~」
隣に座ってきた友人が肩に腕を回してくる。相当出来上がっているようで、顔が真っ赤だ。
「お前さぁ、同棲してるんだろ」
「うん」
その通りなので、素直に頷く。すると、途端に友人は泣き出すように顔をくしゃくしゃにした。本当に涙ぐんで鼻を啜り出すから、驚いてしまう。
「いいなあぁぁ〜〜」
「お水、飲んだ方がいいよ」
呆れながら水の入ったグラスを差し出す。友人はそれを一息で飲み干すと、とろんとした目を向けた。
「相手のさぁ、どこが好き?」
突然そんなことを問われ、しばし考え込む。
「身体が大きいところかなぁ」
「えっ」
友人は驚きの声を上げると、ちょっと照れたように笑った。
「つまり……ってこと?」
胸に山を盛るようなジェスチャーを見せるので、またもや考える。
「まあ確かに、立派だとは思うけど……」
「うわあ~~~~自慢かよ……」
「そうかな?」
首を傾げ、王城は手にしていたグラスを空にした。
大きい身体、小さい身体。
太い腕、細い腕。
自分と彼は何もかもが違って、彼は自分がどうしても手に入らなかったものを当たり前に持っていた。
汗ばんだ肌にてのひらで触れる。一見ごつごつと固そうに見えるが、上質な筋肉は本来柔らかいものだ。首から肩、腕を通って胸元へ。ぺたぺたと触れてゆくと、こちらに覆いかぶさった六弦が眉をひそめる。
「どうした?」
「ん……大きくていいなぁ、って思って」
「そ、そうか……?」
「いや、そうじゃなくて」
勘違いに頬を染める恋人に、冷たい視線を向ける。
「からだ全体のことだよ」
首に手を回して引き寄せる。甘えるように抱きしめると、熱い胸板はわずかに弾力があり、包まれるようで心地が良かった。
「……羨むのはやめたんじゃなかったのか?」
耳元で囁かれるとくすぐったい。
「羨望はしないけどね。憧れるのはやめられないだろ」
だから余計、裸になって抱き合うのが好きだった。その大きな体を見て、触って、味わって――
電車の中、王城はゆっくりと目を覚ます。何かの本能のようなものなのか、ちょうど次の駅が最寄りだった。
「ん……」
小さく呻いて瞬きをする。思っていたより、酔いが回っていた。身体が火照っている。
変な夢を見てしまったことを恥じつつ、鞄を膝の上に置いておいてよかったと、心底思う。
帰り道の途中、コンビニでアイスを買う。家に着くと、六弦はまだ起きていて、流しに溜まった洗い物を片付けていた。
「おかえり、遅かったな」
「んー……」
ただいまの挨拶も、家事のお礼も面倒で、王城はその背中に抱き着いた。身体のサイズは倍くらいあるように見えるが、身長はさほど変わらない。肩に顎を乗せ、猫のように首筋に頬を擦り付ける。
「酒臭いな……飲み過ぎだぞ」
呆れた声を出し、六弦が王城の手からコンビニの袋を取り上げる。
「シャワー浴びて、さっさと寝ろ」
「やだー」
「おい、駄々をこねるな」
六弦が腕を掴んで剝がそうとしてくるが、精いっぱい力をこめてしがみつく。
「……したくなっちゃった」
六弦が動きを止めて、しばしの間が空いた。背中に当てた耳に、少し早くなった鼓動が聞こえる。
そして、ため息とともに。
「お前、もう外であんまり飲むな」
やはり呆れたように、六弦が言う。
「どっちにしろ、シャワーは浴びてこい」
「ん……」
空気が変わったのを肌で感じる。期待と興奮で心臓が急いて、恥ずかしくなって身体を離した。
着替えを出してお風呂に向かいながら。お酒の入ったセックスの気持ちよさを思い出し――おなかの下の方がうずいて仕方がなかった。