冬居と山田/灼カバ ひとつ上の幼馴染は昔からいつも勝手だった。
家が隣同士で、物心ついたころから記憶の中に大抵いる。今日の遊びも、お菓子の分け方も、テレビのチャンネルも、いつも向こうが決めていた。
そう、習い事も。スポーツも。
「おまえ、中学に上がったら俺のことさん付けで呼べよ」
制服を着た幼馴染は、こちらのランドセルを叩きながら言った。
「どうして?」
「中学生にもなって、年下に君付けされてたら恥ずかしいだろーが。ちゃんと敬語も使って、先輩は敬うんだぞ」
「そういうものなの?」
「そういうもんなんだよ」
見せつけるように学ランの襟を正しながら、ふんぞり返って答える。自分は最近急に背が伸びて、密かに彼が、もうすぐ追い抜かれそうで焦っていることを知っていた。
「カバディの時も? いきなり呼び方が変わったら、変じゃない?」
尋ねると、少し考え込む。
「まぁ、カバディはいいよ」
ふん、と鼻で笑って頷く。
「どうせ俺はすぐ一軍に行っちゃうからな!」
実際そうなってしまったから、少しだけ悔しかった。
子供の頃の一歳差はかなり大きい。ひとつ上の幼馴染の存在は大きくて、追いつく日が来るなんて思いもしなかった。
背を追い抜いて、一年下だけだど背番号を追い抜いて、世界での試合に勝った。
そのたびに幼馴染は怒ったり、からかったり、褒めてくれたりしたけれど。彼がインドから帰ってきたときは何も話してくれなかった。
知っているのは人伝に聞いたスコアだけ。
同い年だったら一緒に悔しがったり、慰めたりできたのだろうか。
いつも頭を押さえつけられていたから、年上に優しくされると感動してしまう。
「王城さんでしたっけ? 羨ましいです。井浦さんみたいな優しい幼馴染がいて」
「はは、そう言ってもらえて光栄だよ」
笑顔も爽やかで、全然違った。
「同い年って、いいですよね」
「ん?」
「いつも一緒だし、対等じゃないですか」
彼は笑っていたが、不思議と少しだけ寂しそうに見えた。気のせいかもしれないが。
「まぁ、タメにはタメの苦労があるんだよ」
本人が言うのならきっとそうなのだろうけど。自分にはわからない。だって、ずっと歳の差だけは縮まらないから。
「俺、奥武高校に行くからな」
こちらのそんな気持ちも知らず、幼馴染は返事をする間もなく続けた。
「だから、来年はお前も来いよ」
高校もカバディを続けることとか、続けるならもっといい環境があるとか、学力のこととか、そもそも進学なんて人生の一大事をそんな簡単に決めつけるとか。
言いたいことはたくさんあったけれど——これだけは絶対に言わない。そう言われて嬉しかった。
駿君はいつも勝手だ。