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    ゆりお

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    ゆりお

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    インドでの生活を始める二人。一緒に暮らします。

    ##灼カ

    六王/🔥🦛「疲れた~!」
     最後の段ボールを潰した王城はそう叫んで、アパートの床に大の字になった。数ヶ月の滞在分だからそれほど量はなかったはずなのに、ひどく疲れ切ってしまった。
    「思ったより遅くなったな」
     言いながら、六弦は床に落ちている王城の身体をひょいと抱え上げる。床で寝るな、と部屋に備え付けのソファに放り投げられた王城は、素直にそこで仰向けになって、猫のように大きく伸びをした。
    「まさか荷物がこんなに遅れるなんて——ってうわ、もうこんな時間だ。ご飯どうする?」
     王城に問われ、六弦は時計を見やった。
    「もう22時か」
    「外、食べに行く?」
    「まだやってるのか?」
    「こっちは夕食が遅いっていうからやってると思うけど——でも、わからないうちに気軽に出歩くのも良くないか」
     日本とは文化や治安も違う――昔の仲間の言葉を思い出しながら王城は答えた。六弦と一緒ならそうそう危険なこともないと思ってしまうが、念には念を入れたほうがいい。これからいっそう身体が資本となるのだ。
    「こっちでもデリバリーはあるって聞いたけど」
    「そうなのか?」
    「六弦、分かる?」
    「俺が分かるはずないだろう」
     心から当然という顔をしている。これから始まる彼との生活に一抹の不安を抱えつつ、王城が身体を起こした。
    「何か作ろうか?」
     冷蔵庫には、昼間に買い出した食材がある。家具と同様、簡単な調理器具も元々置いてある部屋だから、料理はすぐに出来るはずだった。
    「さすがに、今からでは面倒だろう」
    「じゃあどうするの?」
     しばし、無言で見つめ合う。
    「……カップラーメンにするか」

     絶対に日本の味が恋しくなる——先人のアドバイスと共にいくつか持たされたその箱を、二人は覗き込んでいた。
    「インドの家での最初のカップラーメンかぁ——あ、僕そばにしよ。引っ越しそば」
    「じゃあ、俺は味噌をもらうぞ」
     お湯を注いで3分。それで地球上のどこでもまったく同じ味が味分けるのだから、素晴らしい発明である。ダイニングテーブルに向かい合って、しばし無言で麺をすする。
    「……お蕎麦ってこっちでも食べられるのかな?」
    「さあ、明日聞いてみたらどうだ」
     明日はインドという国のことや、周辺環境について案内を受ける予定だ。そうすればさすがに、こんな味気のない食事もそうはないだろう。 
    「それで足りるの?」
    「明日その分食う」
     さっさと食べ終わってしまった六弦は、ごみを片付けると、窓を開けた。ただでさえこちらは蒸し暑く、空気がこもっている。ささやかだが、風が吹き込んで心地よい。
     見慣れない夜の景色を見つめ、馴染みのない味のする空気を吸い込みながら、六弦はぽつりとつぶやく。
    「……こんなところまで来てしまったな」
    「カップラーメン食べてるときに言う?」
     感傷めいたことを口にする六弦に、食卓から王城が言う。
     六弦は若干呆れた顔で振り返り、王城を睨んだ。
    「お前は本当に、情緒のない奴だな」
    「だって僕まだ食べてるし……」
     六弦が食べるの早すぎるんだよ——そう言いながら、残った汁を少しだけ飲む。塩辛いのはあまり得意ではないので、もう片付けてしまおう――と王城が手を合わせたところで、六弦がこちらをじっと見つめていることに気づく。大切なものを見るような優しい目で、なんだかむず痒く感じた。
    「王城」
    「何?」
    「責任取れよ」
    「なんの話」
     本当にわけがわからず、戸惑ってしまう。笑った六弦の雰囲気が柔らかくて、昔はそんな笑い方しなかったと思い返す。きっと、大人になったんだろう。
    「お前と出会わなければこんなところまで来なかった」
    「……カバディのことなら」
     王城はそう言って、顔を背けた。けれども六弦はすぐそばにやってきて、頬に手を添えてくる。
    「こっちは?」
     それはお互い様だと思う。けれどもそんなことを口にするのも恥ずかしくて、王城は黙ってキスを受け入れた。
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