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    ゆりお

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    ゆりお

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    ワンライ。お題「水澄京平」

    ##灼カ

    水澄と実花/灼カバ「ほんっとーに何もなかったんだろうな!?」
    「だからなんもねーって言ってんだろ!」
     カバディ部が使用する旧体育館に響き渡る声。並んでモップがけをしながら、宵越は横の水澄を睨みつけている。眉間に深い皺を寄せ、疑わしい表情を解かない。
    「いーや、やっぱり信じられん。こんなパーマをした軽薄野郎が手を出してないなんて……」
    「パーマは関係ねえだろ! そもそも俺のは天パだっつーの!」
     周りの部員たちはまた始まった……と言わんばかりに呆れた視線と苦笑を向ける。そんな後輩たちに対し、部長である王城だけは首を傾げている。
    「何をそんなに喧嘩してるの?」
    「お前は気にしなくていいぞ」
     王城の肩を軽く叩き、副部長の井浦が声を張り上げた。
    「ほら、いいからもう終われ! 門限間に合わなくなるぞ」
    「……ウッス」
     まだ疑念の目を向ける宵越から逃れるように水澄はそそくさと掃除用具を片付け、着替えのためにロッカールームに飛び込んだ。
     これ以上絡まれても面倒なので、さっさと寮に戻ろうと体育館を出る——が、その瞬間がさりと大きな音がして水澄は足を止めた。
     嫌な予感がする。
    「おい水澄」
    「分かりましたよ……」
     いつの間にか後ろに現れた井浦に肩を掴まれ、水澄はがっくりと肩を落とした。
     視線の先、茂みから特徴的な髪飾りをつけた頭がひょっこり出ている。春に別れ(損ね)た恋人の早乙女実花だった。

    「なんでこんな時間までいるんだよ……」
     ただでさえ疲れ切っているのに更に精神的な疲労を上乗せされ、水澄は憔悴しきっていた。隣を歩く実花は、今にもスキップし出しそうなほど、見るからに浮かれている。夜道は危ないから送ってやれ——先輩命令は忠実に守るしかない。井浦は彼女には甘い。大好きな彼氏(仮)をダシに、彼女の兄が在籍している学校の情報を得ているからだ。
    「だって京平くんが頑張ってるから、応援したくて」
    「腕を組むな! ああもう——」
     力任せに振り払うのも周りの目を考えると気が引ける。かといって逃げる元気もなく、水澄はやむなく歩く木になることを選んだ。
     彼女の特徴である強い甘い匂いは未だに慣れず、疲れた胃を刺激する。見た目も性格も、正直好みというわけではないし、実際合わなかった。けれども、すべてを肯定してくれる心地よさだけは覚えている。
     ——こんな軽薄野郎が手を出してないなんて……。
     後輩の言葉を思い返す。過去の話だとしても、間違ってはいないから否定はしない。面倒なことになるのが分かりきっているから口にしないし、きっとまだあいつには分からない。
     こんな見るからに純粋な子、簡単に手を出したら駄目だろう。
     嬉しそうにしがみつく姿はなんだか子犬みたいな気がして、水澄は思わずその頭に手を置いた。
     相手は俺ではないだろうけれど、大事にしなよ。
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